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別れ際、千秋は笑顔で『じゃあね』と言って背を向けた。
穂花は千秋の後ろ姿に『ばいばい』と言って手を振った。ふと、腕時計を見ると、六時二十二分だった。
久しぶりに過ごす千秋との時間は、とうとう終わりを迎えてしまった。
しかし、朝家を出た時とは違い、現在の穂花の中には一つの迷いが消えていた。
穂花は玄関のカギを開け、扉を開く。すると、待ってましたとばかりに廊下の奥の部屋から家族が三人、歩み寄って来た。
まずい!
穂花は心の準備ができていなかった為、両親と弟に背を向け、一瞬目を閉じて意識を内側に集中させる。
心のどこかでは、いつも不安があった。私がレイプされたから、千秋が私に触れてくれないんじゃないかって……。避けるんじゃないかって……。ずっと答えを知るのが怖かった。けど、私頑張るよ。直樹と違って、私は健全な人間なんだから。でも、強くはないから、倒れてしまうこともあると思う。だから、その時は必ず、あなたを頼るから、意地悪しないで優しく受け止めてよ。千秋、さよなら。次はいつ、会えるのかな。
再度千秋に別れを言い、穂花は前を向いた。そこにはいつ失ってもおかしくない家族が三人、笑みを浮かべて立っていた。
「お姉ちゃん、遅いよ」
暖かい空気と明るい電灯。還るべき場所に帰って来た安心感を味わいながら、穂花は恥ずかしそうに『ただいま』と言った。




