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チャイルド・ゲート  作者: 日寺 言十
serial killer vs. avenger
9/15

目的を持つ無目的集団

 今回かなり短めです。


 しかも魔術に関するまた訳のわからない理屈が登場します。


 どうかお付き合いを……。

 ――魔術

 それは理を絶ち、背き、法則を捻じ曲げ思想を惑わす術



 第9話 『目的を持つ無目的集団ウィザード・エリア



魔術の巣窟ウィザード・エリア


 稀代の最凶と謳われる魔術師・初音はつね 伏臥ふくがを頭領に置き、特に何と言う目的もなく、適当に集まっては共に酒を飲み、時には団結して地方の集落の細かな問題に対し行動を起こす無目的にして多目的な集団。


 数年前に伝説の陰陽師・安部 清明がそれを発足させて以来そんな自堕落で共倒れな集団の上層部は、上層部だけは、とある目的を密かに持っていた。


 それは“魔術に関する全ての事象の機密保持と外部流出の防止”である。


 しかし“上層部”に位置する彼、レジェンディ=オードリエルは今回、その魔術の巣窟ウィザード・エリアの大前提を覆す行動をした。


 公衆の面前での・・・・・・・魔術を用いての殺害、・・・・・・・・・・及び指名手配・・・・・・だ。


 つまり魔術――魔方陣を用いない魔法として認識されてはいるが――が世間のその目に入ったのだ。


 それを厳しい目つきで見る人間は、今のところ4人。


 一人は魔術の巣窟ウィザード・エリア現首領、初音 伏臥。

 一人は魔術の巣窟ウィザード・エリア前首領、安部 清明。

 一人はとある塔の頂点に立つとある男。通称、予知夢コーション

 そして、最後の一人が、先日血霞の館に現れて、紗雨の居所を訊き、3万クロウリーを置いていった長身の男。


 それぞれがそれぞれの思惑と思想を抱き、各々行動していく中で、またも激震が走った。

 これは、上記の四人だけではない。魔法界の中でも、策略と謀略と暴力の世界にその身をおく者全てに激震が走ったのだ。


 皇女殺しコミットタブー、秋龍寺 紗雨の発現させた特異能力、守護霊ファントムである。


 悪行を悪行で雪ぐ陰陽師こと安部 清明が禁術・不法譲渡エンジェルギフトで以って無理矢理発現させた能力。


 それが如何なるものか、皆は口に出さずもその恐ろしさ、その甚大さ、その埒外さ、その例外さ、その重大さ、その凶暴さ、その神聖さは重々々々々々々々々々々に、承知していた。





 それはそうと先に述べた“魔術に関する全ての事象の機密保持と外部流出の防止”、即ち無目的集団・魔術の巣窟ウィザード・エリアの隠れた目的であるが、では何故そもそも機密保持と外部流出の防止などと面倒なことをしなければならないのか。


 それは魔術の性質そのものにその原因がある。


 魔法は“理に従い、順応し、法則に従い思想を崇める術”と表現されることがある。


 理――即ちこの世を構成する一般的な“定理”――これに従い、順応するということは例えば万有引力のように、魔法発動とは直接関係がない、そこに存在するだけで無条件に影響を受ける事象に反発することなく“魔法”という現象を発動させ、


 更に法則――即ち魔法、魔術を発動する際のみに適応される限定的な“万象定理”――これに従い、思想を崇めるということは、既に提唱されている“万象定理”や“定理”を無視することなく、それが世界の法則ルールであることを前提とし、現象を表現し、その法則ルールを尊ぶということを表している。


 以上が“理に従い、順応し、法則に従い思想を崇める術”という表現の解釈である。


 即ち、今あるものをそれに従って用いるということは、理論上、それに何の影響も与えない。

 だからいくら魔法を使おうが使わまいが、現在認定されている万象定理や定理に変化などないのだ。


一方魔術は“理を絶ち、背き、法則を捻じ曲げ思想を惑わす術”と表現される。


 これは“定理”を否定し、背き、同時に“万象定理”を捻じ曲げそれを生み出した思想自体を惑わせるということである。


 魔法と違い、理論と思想上の話ではないために、魔術で起こる現象はどうしようもなく“事実”なのである。

 ……それが“常識”として普及していることに背くことがあろうと、それは紛れる暇もない現実なのだ。


 そうして定理が否定され、思想が惑わされ困惑し迷走した結果起こる現象が――


 ――万象定理の崩壊・・・・・・・、である。


 万象定理の自動修正作用と呼ばれる現象によって、今まで使えてきた――“現実”に負荷をかけ続けて使われてきた――魔法が使えなくなるのだ。


 ――が、問題はそれではない。


 以上の理論であると魔術を普及させ、使い続けていけば、万象定理の自動修正機能が至る所で働き、万象定理が現実と矛盾ない、磐石なものとして完了されるようであるが、事実はそうではない。


 魔術は使用されること自体が既に万象定理に多大な負担であり――負担と言うのが、理論を掻き乱され万象定理の崩壊を起こす切欠となる要因だ――現実と矛盾なく・・・・・・・相違ない万象定理・・・・・・・・であっても、・・・・・・万象定理の崩壊を・・・・・・・・巻き起こす危険・・・・・・・があるのだ・・・・・


 万象定理の自動修正機能すらも惑わせる、そんな術なのだ。



「これだけ説明すればお前が如何にとんでもないことをしたのかよ~~~く分かるだろう?あぁ?」

「……今日はえらく絡むじゃねぇか、リーダー」

 如何にも、といったメイド服に身を包む少し長身の(160センチメートルの晴間より少し大きい)女性と、顔面が鋭くゴツイダガーナイフのように凶暴な金髪の青年。


 彼らが酒を飲んでいる場所は都の中心の城下町(表現は適切ではないが)だ。


 街の中心に帝宮夢幻迷宮ラビリンスを構え、帝都・虚無の楔フィル・ミス・フォーチュンはおろか、魔法溢れるこの国グレーネス・エンパイア…もしかすると世界で一番栄えているかも知れない豪奢で豪華で絢爛な街、洗礼者ヨハネのショボい酒屋で2人は酒を飲んでいた。


 11月29日


 午後9時15分


 ダガーナイフの青年の名は勿論レジェンディ=オードリエル。


 先にメイド服の女性が魔術の性質だの万象定理の自動修正機能だのと長々と語って聞かせなくてはならない原因だ。


 そしてメイド服。


 彼女こそ、魔術の巣窟ウィザード・エリアの現リーダーにして“稀代の最凶”、“天使の衣を被った悪魔”、“鋼鉄の処女アイアンメイデン”と呼ばれる魔術師、初音 伏臥だ。


特異能力エラースキル守護霊ファントム。あの師匠ばか皇女殺しコミットタブーに無断でいらないちょっかい出してあんなけったいなもん覚醒させやがったしな。ど畜生が」

「いや、奴は口頭で俺に秋龍寺 紗雨の特異能力を覚醒させるって言っていたがな」

「………………」


 固まってしまった伏臥。

 間々あって、自分の杯とレジェンディの杯を脇に置いた。


 ――そして。


「なーーーーんで報告しなかったんだぁ…?あぁ?レジェンディちゃんよぉ…!」

「ぐ…む……。おっぱいホールドは止めんか……」


 レジェンディの頭を右腕で締め、その豊満な胸に顔面を押し付ける。

 柔らかなその感触はしかし口と鼻を塞ぐ用途で使用されると凶器にしか成り得ない(稀代の最凶なだけに)。


「お前を天国のような感触で地獄に送ってやるよ、泣いて感謝しろ童貞が」

「童貞に関してはアンタの指示だろ……。それに何度も窒息させられちゃお前の胸の感触は地獄以外の何でもねーよ」


 魔術の巣窟ウィザード・エリアは性交を禁じている。


 魔術…特に魔導儀式に於いて童貞、或いは処女、つまり純潔と言うのは大きな意味を成してくる。

 よって魔術の巣窟ウィザード・エリアの大半は、より強力な術を発動するために純潔を貫いているのだ。


「はぁ…ったく、本当にどうしようもないな、お前は。私が天使じゃなかったら今頃死んでるぞ」

「……お前、自分が何て呼ばれているか知っているか?天使の衣を被った悪魔だぞ?本性悪魔じゃないか」

「そうか、じゃあお前死んだな」

「――――!」


 刹那、なにかが耳に届いたような気がした。


 カウンターの奥でマスターが驚愕したように唖然としている。


 持っていた包丁の・・・・・・・・刃が消えたのだ・・・・・・・


 その刃は今、伏臥の手中にある。


『スタートスキル【鋼鉄の処女アイアンメイデン】』


 遅れて盈虚の声音が聞こえてきた。


 伏臥の特異能力にして呼び名の一つ、鋼鉄の処女アイアンメイデン


 金属原子が持つ特別な電子、自由電子と鉄原子本体を操作し辺りの鉄を自由に操ることの出来る能力だ。


 そして包丁の刃を一度原子レベルに分解し、自分の手中で再び結束させ、小刀を作ったのだ。

 完全な殺意を、レジェンディに抱いて。


「……レジェンディちゃん」

「なんだ」

皇女殺しコミットタブー……いや、守護霊ファントム、秋龍寺 紗雨を明日中に始末して来い。いいな。出来なかったらお前、死ぬぞ」

「……了解した」


 ふっ、と伏臥は口元に笑みを戻し、刃も元の包丁の位置に戻した。


「ついでにplasma shooterも回収してくれると嬉しいな。人殺しの罰にお前に命じたのに途中で投げ出して敵討ちに拍車掛けやがって、ばーか」

「……俺が死ななきゃな」

「いや、死んでも回収して来い」


 取り付く島もないな、とレジェンディはその凶悪な顔に微笑を湛え酒屋を後にした。


 消えぬ殺意を背に受けながら――





「……果たし状…?」

「果たし状ですね」

「果たし状か」


 11月30日


 午前11時30分過ぎ


 血霞の館に、果たし状が届いた。

 差出人は分かる。名前は書いていないがそれを知るには充分すぎるほどの証拠がある。


 少し抉れた柱と、その下を濡らす大量の水。

 矢文の要領で手紙を引っ付けた水の弾丸が突如飛来したのだ。



「どうする?今日の夜10時だと」

 手紙の内容を読んだ店主が紗雨に訊いた。

 特異能力の作用とチャイルド・ゲートのエルボーが原因でさっきまで寝込んでいたのだ。

 昼まで寝るのは珍しくないが、昼まで寝込むのはあまりない。


「そりゃ…行くしかないだろう……」

「紗雨さん…!そんな大怪我で無理をなさらないで下さい!!」

「お前の所為だよ、この腹痛は」

「結果を作ったのは私ですが原因を作ったのは紗雨さんです」

「まだ怒ってるのかよ。一晩明けたぞ」

「紗雨さんは黙っていればいいんです」

「………………」


 取り付く島もない。


「それで?どうなんだ、体調と、その特異能力は」

「体調は腹痛以外では通常通りと言って良いだろう。特異能力の状態は分からん」


 紗雨の言葉に店主は笑みを零す。


「じゃ、夜10時まで修行パートと洒落込もうじゃねえか。昼飯の時間を抜いた残り9時間でお前を最強の“魔女”にしてやるよ」


店主はその不敵な笑みを強め、紗雨の肩を掴んだ。




 次回でレジェンディ篇が終了します。


 一瞬の思いつきで、プロットもそこそこに書き始めた拙作ではありますが、細々と連載をし続け、アクセス数が二進数であることに悲しみを覚えながらも、図らずも次回10話目で一区切りです。


 今まで地味だった秋龍寺姉妹や新キャラなどこれから大活躍予定です!



 勿論、拙作の存在意義と開き直って主張することに決めた理屈っぽい設定も引き続き登場いたしますので是非お付き合いください。


 では次回第10話『殺人鬼の生まれた日シリアルキラー』と

 拙作『チャイルド・ゲート』を、よろしくお願いします。




 ……10話の後書きで書けよww

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