策略と謀略による暴力は常に非力な者に向けられる
金字塔篇です。
今回に限らずこれから金字塔篇では数人が数人の思惑で動くので、場面都合上、視点がころころと切り替わります。
いや、三人称には変わりないのですが、場面切り替えが多くなっております。ご了承くださいませ。
「清明っっっっ!!」
血霞の館の扉が無数の鉄屑によって引き裂かれ、破られる。
その扉を破った犯人――初音 伏臥がそのまま店主に掴みかかる。
「お前の言っていたチャイルド・ゲート……。うちの諜報使って調べてみた。なんだあれは!!」
「ほう?たった一日でチャイルド・ゲートのことを調べ上げるとは流石だな」
「清明!あのチャイルド・ゲートとかいうものは一体なんなんだ?今でも金字塔が保有してんのか?」
「いや、今は守護霊が持っている」
「――――!」
「そのことに関しては俺も誰も予想外だったし想定外だった。」
伏臥が清明の服を掴んでいた手を緩める。
「だがしかしそうは言ってもこの状況を利用してはいるんだがな。まず第一は紗雨を守護霊に覚醒できた」
「……連理の鎖を御し、御されるチャイルド・ゲート。一体どんなものなんだ…?」
別に清明に訊いたわけではない。ただ、得体の知れない策略の動きの気配につい独りごちてしまっただけだ。
「さあな。金字塔は大分その全貌を掴んでたようだがな」
しかし清明は伏臥の言葉に応える。――そして、到底聞き逃せないことを言った。
「恐らく既にチャイルド・ゲートは金字塔に捕らえられているだろうがな」
「――――!どういう…」
「聖夜祭にチャイルド・ゲートと一緒に行ってな。どうせ金字塔は守護霊の動きを逐一監視していただろうし、こんな絶好の機会はまず見逃さないだろう。物々交換の万象定理への干渉を何となく感じ取ったし」
「貴様は…!」
「金字塔の目的は恐らくチャイルド・ゲートを媒介にした全万象定理の支配。そんなことをすればこの世の全ての理の秩序は崩壊し、物質という物質、存在という存在が保てなくなるだろうな」
「………………」
「万象定理の崩壊は存在の崩壊に等しい。帝国創生時代、とある謀反人が行使した禁術、“偉大な再来”。その万象定理の使用と共に万象定理は脆く崩れ去り、その術で復活した謀反人の肉体は消え、魂は昇天した」
「……金字塔の研究は終わってんだよな」
「少なくとも八割方はな」
「ならすぐにでも干渉…支配を開始するのか?」
「……いや、それはない。チャイルド・ゲート自身は連理の鎖の効力の所為で万象定理に干渉できん。恐らくは何らかの方法でまず連理の鎖を弱体化させるだろうな」
「暫くは時間に余裕があるか……。清明。お前。何を企んだ?」
「………………」
「貴様は……」
「なに。何も俺は世界を滅ぼそうとしているわけではないんだ。心配するな」
師の言葉にしかし伏臥はどうしても不安を拭えなかった。
第15話『策略と謀略による暴力は常に非力な者に向けられる』
「………………」
秋龍寺 紗雨はもう既に一時間ほどチャイルド・ゲートの帰りを待っていた。
しかし紗雨は何の疑問もなく小一時間ほど待っている。
「……遅いな…」
否、流石に一時間ともなると紗雨ですら疑問に思うようでそれとなく魔力を探ってみる。……帝宮下の縁日(東方伝来の縁日はチャイルド・ゲートに大うけだった)には見つからない。
チャイルド・ゲートの魔力は連理の鎖の所為で感じられないのでもちろん連理の鎖の魔力を探っているのだが……。
これ端も感じられない。
「しょうがないな……」
麻製のウエストポーチに入れてある魔方陣を一つ取り出す。
特定の万象定理の構成をしている“存在”の所在を示す魔導儀式の一種『線形探索』
東方よりの三賢者が開発した代表的な魔法の一つだ。
『万象定理への干渉を開始し、魔法を発動します』
地面に展開された魔方陣の中に地図座標が現れた。
都、虚無の楔の街外れ。北方側の関門、北門付近。
数百粁も離れるそんな場所に何故チャイルド・ゲートがいるのか考えるまでもなく何らかの魔法魔術によるものだ。
とすれば誰が何故どこにチャイルド・ゲートを連れて行ったかも明白。
チャイルド・ゲートが連れ去られた場所。それは――
その瞬間には紗雨の足は既に血霞の館に向けられていた。
「私は魔術の巣窟全勢力で以ってチャイルド・ゲートを確保する。私たちは無目的集団だ。予知夢のところにあるよりも、陰陽術のところにあるよりも、守護霊のところにあるよりも、鋼鉄の処女のところにあったほうがいいに決まっている」
「……それは“目的”だぜ、伏臥。お前が何より嫌っている“目的”俺と同じだ」
「お前とは違う。お前は目的のために手段を選ばず、私は手段のために目的を選ばない」
悪行を行なうためには善行を行うことも厭わない師匠と、目的を作らないという目的のために目的を作る弟子。
どいつもこいつも滅茶苦茶にちぐはぐで、破茶滅茶に矛盾だらけだ。
「なら止めねーよ。守護霊もチャイルド・ゲート奪還のために動くだろう。いい敵討ちの機会じゃねえか」
「敵討ちをしようなんざ思ってねーよ。前にも言ったろ。……ただ、守護霊が僅かでも私たちの邪魔をしようなら容赦なく殺すがな」
「……そうかい。ま、死なないようにな」
「………………」
「もう夜も遅い。早く帰れ襲うぞ」
「死に晒せ」
「つか、そろそろ紗雨が来るだろうから帰れよ、本当に」
「紗雨……。そうだな」
伏臥は椅子から立ち上がり簡素な木の扉に手をかける。
「言っておくが、私は誰にも手加減をするつもりはないぞ。チャイルド・ゲート奪取の邪魔をするならぶっ殺すし、お前が私の邪魔をするんなら勿論ぶっ殺すからな」
「……はいはい。全くお前は口が本当に悪いな」
「……守護霊が来たぞ」
「おう」
「そうかあの子を捕まえたか」
「はい」
「手間取ったな」
「やはり皇女殺しが確実にチャイルド・ゲートから離れる機会を狙わないとどうにも……」
「まあいい。金字塔の第14拘束装置に繋いどけ」
「畏まりました」
とある塔。広大な敷地の中に2つの塔。
チャイルド・ゲート及び万象定理の研究施設“金字塔”。
チャイルド・ゲート及び研究職員の居住施設“多宝塔”。
多宝塔の頂上に君臨する男の名はアルト・聖凛・ツェイレンタ。
今と成っては希少人種となった帝都地帯原住民を母に持つハーフだ。
聖凛は金字塔敷地内に広がる予知夢の魔方陣を一瞥し、踵を返した。
チャイルド・ゲートが拘束されている真っ最中であろう金字塔に向けて。
「それで、線形探索は北門付近を示したんだな?」
「ああ……」
「それは間違いなく金字塔だな。金字塔は北門関所町“ノストルピア”の森の中にある。これは一大事だな」
「どうやったら行ける?」
「ここからじゃ早くても2日はかかるぞ。物々交換を使おう」
「物々交換……」
「早い話が瞬間移動だ。こい」
紗雨が祭りでのことを清明に説明すると清明がそう言って立ち上がった。
魔導儀式である物々交換は擬似魔方陣を展開する必要がある。
清明はきちんと擬似魔方陣が展開できるようにと、伏臥に破られた扉を抜けて路地に出る。
『万象定理への干渉を開始し、魔術を発動します』
先月の晦日、チャイルド・ゲートを決戦の森に送ったように、紗雨を魔術にかけた。
「久しぶりだな、チャイルド・ゲート。1ヵ月少し、ここを空けて気が晴れたか?」
「…………」
「そんな怖い目つきで俺を見るな。責められるべきは俺ではないだろう?お前は自分が何者かを忘れてここから逃げ出したんだ。世界を聞きに及ぼすお前はここに居れば世界に影響を与えない。しかしお前は己の分を弁えずに世間に世界に万象定理に、多大な影響を与えるところだった。世界を崩壊させなかったことを感謝しろ」
「……私は、もう貴方に協力しない」
「ん?」
キッ、と聖凛を睨んでいたチャイルド・ゲートがここに来てはじめて口を開く。
「私は、もう、貴方に、協力、しない」
「勘違いをするなよ、チャイルド・ゲート。……違うんだよ。お前がここに居さえすれば俺は仕事が出来るんだ」
「………………」
「ただお前が多宝塔での優遇に図に乗ったっていうのならお前を金字塔のこの第14拘束装置に一生縛り付けておくだけだ」
「私には……大切な人が出来たんだ……」
「秋龍寺 紗雨か。餓鬼が色気づいてそれこそ図に乗るな。皇女殺しにしろお前にしろ他人と繋がっていけるような人生じゃない。なにせ皇女殺しは皇女殺しであり、お前はたかが思念体だ」
「…………」
「秋龍寺 紗雨はお前の事実を知ればお前を受け入れるはずもないしお前も秋龍寺 紗雨の本性を知れば受け入れないだろう。お前たちは恋と色と愛とが瞬く物語の登場人物ではないんだよ。策略と謀略と暴力とが渦巻くこの物語の主人公だ」
「……」
「お前は研究員に利用され陵辱の人生を送る悲恋の少女。皇女殺しはそれを救えなかった悲劇の少年。お前たちの筋書きはそうなってる」
「」
「……鎖の弱体化を急げ」
「はっ」
黙りこんだチャイルド・ゲートからその冷たい視線を外し、傍にいた部下に命じる。
「……で、鎖の弱体化は進んでるか?」
「連理の鎖は元々チャイルド・ゲート個人個体を守るためのものではなく防御性の万象定理そのもの、つまり魔方陣と同義ですから古来より神宝として伝記に記されています。それを弱体化させるとなるとそれこそ同じ神宝ほどではないと……」
「……やはり難しいか」
「はい、現在はチャイルド・ゲートから武装解除で魔力を抜き取り連理の鎖のエネルギー不足を促しています。代替品の活動は現在確認されません。効果は出ていますが、チャイルド・ゲートが万象定理に干渉するには鎖の影響が強すぎます」
「槍が必要か……」
「しかし槍は……」
「……難しいか」
「“槍”に関する伝記は“鎖”ほど具体性も信憑性もなく、存在の是非すら確認できない状況です」
「となると……。やはりチャイルド・ゲートの魔力を抜いての鎖の弱体化を続けてみるしかないか」
「はい」
「冬秋斎の動きは――」
聖凛が話を続けようとしたところで、建物内に警報が鳴り響いた。
「侵入者か」
「そのようです」
「場所は金字塔第2ゲート付近。……清明か?」
「安部清明……。悪行を悪行で雪ぐ極悪人ですか」
「まぁいい。殺せ」
「畏まりました」
部下は一礼すると部屋から出て行く。
聖凛は窓から地面を見る。
金字塔職員の腹に鉄くずを突き立てるメイド服の女性の姿が在った。
「ここが……。……寒いな」
「まぁかなり北だからな。……此処が金字塔だ。ここから先に足を踏み入れると聖凛に居場所がばれる」
「……聖凛?」
「ここの主だ。アルト・聖凛・ツェイレンタ。予知夢と呼ばれ、金字塔の研究施設全域に自分の特異能力、予知夢をかけている。……見てみろ」
金字塔研究施設目の前。陰陽術、安部清明と守護霊、秋龍寺紗雨が物々交換によってそこに現れたのは丁度二分前。
ここを見てみろと清明が指をさす先は大きな円形を描いているであろう歪曲した黄色い線。
「これは……」
「魔方陣だ」
「魔方陣?」
「ああ。特異能力はあくまで魔法の一種。魔法であるならば当然魔方陣がある。この特異能力は魔方陣それ自体を使う珍しいものだ。登録された万象定理以外のものがこの魔方陣内に侵入すると聖凛に所在が知られるっつー代物だ」
「じゃあどうすんだ?」
「……大丈夫だろう。たぶん既にもう一人侵入している。ドサクサ紛れで侵入できるだろう」
「ドサクサって……」
「金字塔は二つの施設から成り立っている。チャイルド・ゲート研究施設である金字塔」
清明は指差す方向を聳え立つピラミッド型の建物に変える。
「恐らくチャイルド・ゲートは金字塔に居る。そして聖凛のいる場所は……」
指差す先を左に少しずらす。上部が円形で下部が方形と言う不思議な形状の建物があった。
「あれだ。多宝塔。読みは一緒だが意味合いは全く違う。あそこには聖凛だけじゃなくて他の研究職員も居るから隠密するんならなるべく近寄るな」
「……詳しいな」
「ま、聖凛とはちょっとした知り合いでな。好きではないが付き合いは長い」
「そうか……。お前は一緒に、来ないのか?」
「言ったろ。聖凛は好きじゃない。いかねーよ」
「……そうか。行ってくる」
「おう、死ぬなよ」
紗雨は予知夢内へと足を踏み入れる。
アルト・聖凛・ツェイレンタはその存在を確認する。
初音 伏臥が12人目の職員を殺害した瞬間だった。