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ぎんなん

作者: マーク
掲載日:2026/06/10

何を得て、何を失ったのか。

何を経て、何を失ったのか。


私が得たものは、なんだろう。

目に見えるものは少なくて。

脳や体に刻み込まれた何かなんだろうと、予想を立てる。

なんてわかりづらくて、不安定で、不確実なのか。

傷も、自らが認める納得も、何もかも見えない。

悪いことな気がするけれど、もし、それが目に見えるんだったら、どれほどつまらないのか。

目に見えなくて、不確実で、わからないことだらけだから、いいのかもしれない。


「宿題やったー?」


お母さんの声だ。


「今やってるところー」


「そうなの?邪魔してごめんね、頑張ってー」


「うんー」


少し遠くで、会話をする。

目に見えないけれど、お母さんだとわかる。

どうしてなんだろう。


声、とか?

あと、お母さんしか、家にいないから?

…いや、多分、全部だろう。


私は学校で出た、あなたらしさを表現する作文をやっている。何を書いてもいいらしい。


…一文字も書いてないんだけど。


自由すぎるとなにも出来なくなるというものを、肌で実感しているところだ。


「私らしさって、私が考えるものなのか?」


こう、言ったもん勝ちになっちゃわないのかな。それだと。

最初に言った人が勝ちみたいな。


…じゃあ、私以外に聞けばいいのでは?


そう思って、階段を下がる。

お母さんがテーブルに座って、パソコンを弄って何かしている。


「ねぇ、お母さん」


「ん?…あれ、休憩?」


「これ」


課題を見せる。


「…あらら、一文字も書いてないじゃん。…でも、提出大分先よ?…いや、これ以外は終わってるってこと?」


「そう」


お母さんは何も言わず、私に向かって微笑んだ。


「それで?これがどうかしたの?」


「わたしらしさってなに?」


「…そうねぇ」


それだけ言って、お母さんは考え込んだ。

ずっと立っているのが嫌だったから、私も、お母さんの対面に座って、顔をじっと眺めていた。

真剣に考えている。

なんとなく、嬉しい気もした。


「…たくさん素敵なところがあるけれど、全部含めて、らしさって言うんじゃないかなぁ」


たくさん考え込んだ後に、お母さんが口を開いた。


「…いや、それじゃ書けないよ」


「あ、そっか。課題なんだっけ」


「そう。忘れないでよ」


「ごめんごめん」


「書きやすいようなことないの?」


「…うーん。一言で言えるようならしさなら、みんな持っている気がするね」


「…いや、それじゃ書けないんだって」


「書かなくてもいいんじゃない?」


「え?」


「だって、自由なんでしょ?絵でも書いたら?」


「そうだけど、例として作文が出たから、みんな作文やってくるよ」


「まぁ、そうね。たかだか課題ごときに、そんな労力使いたくないよね」


「うん」


「じゃあ、適当にでっちあげちゃう?」


「それは嫌」


「えー?めんどくさいなー」


「いやだって、言ってることと違うとか言われちゃうじゃん」


「そう?」


「皆適当にやるくせに、他の人にはちゃんと求めるんだよ」


「なんか、めんどくさっ」


なんて、踊らない会話を続けていた。

そしたら、玄関から音がして。


「ただいまー」


お父さんが帰ってきた。


「おかえりー」「おかえり」


「ねぇお父さん」


「ん?」


「自分らしさってなに?」


「周りから見て、あぁ、この人だなって、そう感じる部分のことだよ」


「そうじゃなくて」


「ん?…あぁ、そういうことね」


「…可愛いとこ?」


「0点」


「なんで」


「書けない」


「…あー。作文?」


「そう」


「じゃ、好きに書けばいいんじゃない」


「えー?」


「誰かに納得してもらう必要はないし。誰かに文句を言われることもない。それがテーマなら、すごい楽じゃない?誰も否定なんて出来ないからさ。俺だったら、原稿用紙全部に、銀杏って書いて提出するよ」


「…なんで銀杏?」


「今思い付いたから」


「適当すぎるって」


「でも、一番らしいと思わない?」


「…確かに」


「…というか、着替えてきていいですか」


「あ、ごめん」


立ち塞がっていたから、どく。


自分らしさを考えた時点で、それはもう、違うものなのかもしれない。

探して見つけるものじゃないのかも。


「そういえば、今日のご飯は昨日の残りね。ご飯は炊いてあるから、お腹空いたら言ってね」


「はーい」


なんとなく解決したような気がして、自分の部屋に戻った。

そして私は、原稿用紙に、この会話の一部始終を、書くことにした。


わずかに薫る、一人と一輪。



そんな課題でねーよ、ってツッコミはなしでお願いね。


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