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<連載版>『恥晒しめが』と罵られて安心しておりましたら、『自殺を装え』と言われました  作者: 満原こもじ


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第4話:わたしの役割と神の加護

 ヴィンセント殿下は大変な秀才で、特に魔道に造詣が深いとされています。

 将来は魔道具の満ち溢れる世の中になるでしょうが、ヴィンセント殿下は宮廷魔道士を率い、魔道具の発展を牽引する王子だと言われているのです。

 そんな王子様がどうして?


「ミレーナ嬢。顔を上げてくれ。いきなり連れ去るなんて不埒なマネをしたのは僕のほうだ。君に縮こまられては、僕が申し訳ない」

「は、はい」


 ヴィンセント殿下は第三王子というお偉い身分でありながら、わたしに対して慇懃に話しかけてくださいます。

 特別嫌悪感を持っていらっしゃらないように見えます。

 さすが王族ともなると、外見で内心を悟られるようなことはしないのですね。

 素直にすごいなあと思います。


「先ほども言ったが、君には神に授かった役割があるんだ」

「は、はあ……」


 神様に授かった役割は理解しているつもりでした。

 でもよく考えてみると、自分で納得できるもっともらしい仮説に過ぎないです。

 わかっているつもりというのは思い上がりでしたね。

 魔道にお詳しいヴィンセント殿下には別の見解があるかもしれません。


 ただヴィンセント殿下直々に言われるというのはどういうことなのでしょうか?

 必死で思い返してみても、殿下との関わりは遠くで見たくらいしかありません。

 まさか底辺のわたしをチェックしていたなんて考えられませんし。

 今の状況はサッパリ。


 ぼんやりヴィンセント殿下のお顔を見つめます。

 ああ、ニコと微笑みかけてくださいました。

 わたしみたいな者に気を遣ってくださるとは、何と素敵な殿方なのでしょう!

 惚れ惚れしてしまいますね。


「ああ、すまない。僕も説明を急ぎ過ぎたようだ。ミレーナ嬢の理解できないことがあったら教えよう」


 説明?

 い、いや、申し訳ないことながら、何から何までわからないのですけれども。

 ヴィンセント殿下の仰りようからすると、神様に授かった役割がポイントのようです。

 でもわたしが王宮にいることとの関連が丸っきり不明で。


「どうしてわたしは王宮に連れてこられたのでしょうか?」


 最初から聞いてみました。


「危急の状況と判断されたからだ」

「危急の状況?」


 わたしが危ない状況にあったということでしょうか?

 心当たりがありません。

 そもそもわたしが危機に陥っていたからといって、ヴィンセント殿下には関係ないような気がします。

 謎が深まりましたね?

 思わず首をかしげます。


「わたしが危ないところを、ヴィンセント殿下に救っていただいたということでしょうか? わたしのような者のためにわざわざお手数をおかけいたしました」

「ふむ、危急の状況と知っても動じないか。ミレーナ嬢のメンタルは強いようだな。いや、急ぐ必要は僕の側にもあるのだった」

「申し訳ありません、わかりません」


 サッパリ何が何だか。

 神様に授かった役割とどう繋がってくるのでしょうか?

 底辺人生といっても貴族ですから。

 わたしはそれなりにエンジョイしていますよ。


「どこから話したものか。貴族学校の立地には問題があってな」

「はあ」


 突然貴族学校の話になりましたよ。

 立地がわたしの拉致に関係するんですか?

 話の行方が見えてきませんね。

 わたしも自分がバカではないと思っているのですが。


「瘴気を集めやすいんだ」

「えっ?」


 瘴気とは悪い気のことです。

 瘴気が溜るとゴーストが発生したり病気になったりします。

 貴族学校にそんな問題点があるなんて。


 ヴィンセント殿下が真剣な顔で続けます。

 とっても凛々しいですねえ。


「『貴族学校の七不思議』と呼ばれる伝承があるだろう? あれは単なる噂話ではなくて、瘴気が引き起こした現実なんだ」

「全く存じませんでした」


 トイレのフラワーガールや血の滴る十三階段、夜中に奏でられる楽器が本当のことだったとは。

 瘴気の起こした現象だとすると納得ではあります。

 が、瘴気の溜ること自体が大問題なのでは?


 危急っぽい話題ではあります。

 が、わたしが王宮に連れてこられたこととの関連はまだ不明です。

 ヴィンセント殿下が軽く手を振ります。


「いや、全て過去のことだ。現在は宮廷魔道士の指揮下で貴族学校の瘴気は取り除かれているからな」

「安心いたしました。貴族学校の瘴気については危急ではないのですね?」

「と、思われていたのだ」

「はい?」


 そこで逆接が来ると不穏なのですけれども。


「ここ四年ほど瘴気除去装置に瘴気が溜らないのだ」

「四年、ですか。わたしが貴族学校に入学してから四年なのですよ。瘴気が溜らないのはいいことのように思えますが」

「ミレーナ嬢がそう考えても不思議はないな。しかし宮廷魔道士はその職責において原因を究明しなければならない」

「はい」

「他に瘴気が霧散する要因でもあるのかと調べさせていたのだが、最近ようやく理由が判明してな」

「そうでしたか」

「ミレーナ嬢なのだ」

「は?」


 わたし、とは?

 話が繋がってきたかと思いきや、雲を掴むような。

 ヴィンセント殿下のさらなる説明を待ちます。


「要するにミレーナ嬢が瘴気を吸い取って浄化しているのだ。ここまでは確実なことと考えてもらっていい」

「……殿下の仰る、神様に授かったわたしの役割と言うのが?」

「おそらくいるだけで瘴気を除けるという、神の加護の類だと思われる」


 神の加護というのはギフトとも呼ばれる異能のことです。

 わたしの場合は瘴気の浄化なのですね。

 神様がわたしに命じたのは、底辺にいろということではなかったみたい。

 何となく両の手をぎゅっと握り締め、苦笑いです。


「しかしその加護は、言うなれば瘴気を集める体質だろう? 人は……人だけではないな。生物は本能的に瘴気を嫌うから、ミレーナ嬢はこれまで他人によく思われていなかった」

「あ……」


 だからわたしは他人に不満をぶつけられることが多いのですか。

 動物にも虫にも嫌われて。

 矛盾がありませんし、ヴィンセント殿下が仰るからには、この説が正しいのでしょう。

 殿下はわたしのことをかなり調べていらっしゃるみたいですね?


「ミレーナ嬢は貴重な存在なのだ。ミレーナ嬢の能力を研究することでもっと効率のいい瘴気除去装置を開発できるかもしれんし、瘴気そのものの発生を抑えることができる可能性もあるからな」

「自分にそんな力があるとは。恐れ多いです」

「何が恐れ多いものか。一方でミレーナ嬢の加護はわからないこともたくさんある。瘴気を浄化でなくて溜め込むだけならば、容量に限界があるのではと思われる。また周囲からの悪意に晒されてミレーナ嬢の精神がまいってしまっては、これまた非常によろしくない」

「危急の状況とは、そういうことでございましたか」

「うむ。宮廷魔道士達に調べさせてもよいだろうか?」

「もちろん喜んで協力させていただきます」


 わたしはちゃんと世の中の役に立っていたのですね。

 目の前の霧が晴れるような心地です。

 知らせてくださったヴィンセント殿下には感謝しかありません。


 ヴィンセント殿下は見目麗しくて優秀なだけでなく、世の中の進歩を推進する方なのですよ。

 その上わたしの障害物を退け、未来を照らしてくださいました。

 何と素晴らしい方なのでしょう。

 憧れてしまいますねえ。


 少し照れたようなヴィンセント殿下が言います。


「あーここからは提案なのだが」

「はい、何でございましょう?」

「提案に過ぎぬから、もちろん断わってもらっても構わない」

「わかりました」

「ミレーナ嬢、僕の婚約者になってもらえないだろうか?」

「えっ?」


 本日最大の謎、どうしてそういうことになりました?

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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