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<連載版>『恥晒しめが』と罵られて安心しておりましたら、『自殺を装え』と言われました  作者: 満原こもじ


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第2話:つつきの順位

 貴族学校には毎日元気に通っております。

 せっかくお父様に学資を払っていただいていますのでね。

 しっかり学ばねばなりません。


「きゃああああ!」


 階段の上からどなたかに突き飛ばされました。

 いえ、日常茶飯事なので大声を出すほどのことではないのですけれども。

 ついビックリすると淑女らしくない声が出てしまいますねえ。

 まだまだわたしも人間ができていないです。


 階段の上にチラッと男子生徒の姿が見えました。

 誰でしょうかね?

 ちょっと確認はできなかったですけれども。

 いえ、その方に文句を言いたいから特定したいという意味ではなく。

 次からその方が側にいる時は注意しようというだけです。


「あ痛たたた……」


 ケガですか? 特には。

 打ち身だけです。

 慣れもありまして、ナチュラルに受け身を取れるようになりましたから。

 何でも身になるものですねえ。

 これもまた習得した技術かと思うと、少しお得な気分になるのです。


「ちょっとミレーナ様。どうしたの?」


 同級生の令嬢です。

 あ、嫌われ者のわたしを心配してくださるのですかね?

 ありがたいことです。


「ど、どうも。足を滑らせてしまったようで……」

「あなた、この前もどこかの階段で落ちていませんでした?」

「生来の粗忽者なのです。お恥ずかしい」

「気をつけてくださいよ。下に人がいたら巻き込んでしまいますからね。わたくしが被害に遭うなんてことを考えたら……。おお、冗談ではないわ!」

「そうですね。申し訳ありませんでした」


 ぶつぶつ文句を言いながら去っていかれました。

 声をかけていただいたものですから、つい嬉しくなってしまいました。

 底辺に生息するわたしが心配されるなんてことはあり得ませんよね。

 思い上がっておりました。


 ええ、わたしの扱いは貴族学校でもこんなもの。

 上々とはとても言えないです。

 色々理由を考えてみたことはありました。

 呪われているのではないかとか、わたし自身から負のオーラでも出ているのではないかとか。

 一応の理由を発見できたのは、二年くらい前でしたでしょうか。

 学校の図書室でとある本を読んだ時のことです。


 ――――――――――二年ほど前、貴族学校図書室にて。


 わたしはどういうわけか人に嫌われてしまうのです。

 原因がわからないと気持ちが悪いので、可能でしたら理由を知りたく思います。

 その理由を除去できれば最高なのですけれどもね。

 そこまでは難しいのかなあと考えています。


 何故なら全然面識のない方からも冷たくされるからです。

 つまりわたし自身に原因があるとしか考えられないですよね?

 何がどう作用してわたしは他人に邪険にされるのか。

 いえ、人間ばかりではないのです。

 何のきっかけもなく犬に吠えつかれますし、猫には身体中の毛を逆立たせてふーっと威嚇されます。


 実は悪いことばかりでもないのですよ。

 課外実習で郊外の森へ行った時、男子生徒がスズメバチの巣をイタズラして二〇人以上が刺されるという惨事が起きたことがありました。

 例によって例のごとく、わたしは巣のあるほうへ蹴飛ばされたのですけれど、不思議なことに一番巣の近くにいたわたしは全然刺される気配がなく。

 それどころかハチがわたしを避けているような?


 それで気付きました。

 わたしは虫にも嫌われるから、あえて近寄ってこないのだと。

 そういえばわたし、虫刺されで難儀した覚えがないですね?

 でも調子に乗ってわたしから虫に触りにいったら、絶対反撃されるに決まっています。

 無謀なことをしてはいけないなとも思いました。


 人にも動物にも虫にも避けられる。

 これには必ず理由があると思いましたが、人に嫌がられるとあってはどなたにも相談できませず。

 いきおい図書室で答えを求める日々が続きました。

 わたし図書室は好きなのです。

 一人でコツコツ知識を得るということが性に合っておりますし、図書室なら誰にも迷惑かけませんのでね。


 わたしに一つの解答を与えてくれたのは、動物行動学の本でした。


「つつきの順位、ですか……」


 ニワトリなどの群れの中で見られる、社会的な序列のことだそうです。

 つまり各個体がつつき合って、互いの優劣を決めるわけです。

 順位を決めることによって、それ以上の不要な争いを防ぐのですって。

 なるほどですね。

 戦争を考えれば理解できますけれども、争いというものは莫大な損耗を伴うものですから、できれば避けたいですものね。 


 ここではたと気付きました。

 人間だって順位がありますよね?

 上位者が下位者を統治するというのが王国の構造なのですから。

 順位があるのは必然的なことで、全く不自然ではありません。

 わたしは貴族社会で最底辺に位置するのだと察しました。

 ならば皆さんからつつかれるのは当然ではありませんか。


 また別の心理学の本にはこうありました。

 人間は自分より下の者を作っておくことによって、精神的安定を得るのですって。

 これにもまた、ああ、と得心いたしました。

 わたしは皆から下の者と思われているんですね。

 つつきの順位の理屈と合わせると、皆さんはわたしを虐めることによって精神的安定を得ているということになります。


 わたしが怒鳴られたり蔑まれたりすることに、意味がないなんてことは全然ないということがわかりました。

 だってそれで心の平穏を保てる人がいるのですから。

 謎が解けるととても気持ちがいいものです。

 できれば怒鳴られたり嫌味を言われたりしたくないなあと、この時までは思っていたのですけれども、かなり気が軽くなりましたね。

 わたしが蹴飛ばされることは世の中に対する奉仕だ、くらいの気持ちになりました。


 おそらく神様がわたしにそういう役割をお与えになったのだろうと、思うことにしました。

 人間だけでなくて動物や虫にまで効果があるとなると、超自然的な存在の関与を疑うべきなのかなあと。

 神様がそう決めたのでしたら、わたしは貴族の底辺でいいのです。 

 御飯をいただけるだけで十分、慎ましく生きていけばよいのですから。

 そう思っておりました。


 ――――――――――再び現在。


 教室に戻ると、何故か皆さんに注目されました。

 ニヤニヤうすら笑いを浮かべている方が多いような気がしますけれど、どうしてでしょうかね?

 あっ、わたしの机に花が飾ってあります!


 一人の男子生徒が話しかけてきます。


「ミレーナ嬢。君、階段から落ちたそうじゃないか」

「はい、そうなのです。そそっかしいものですから。お恥ずかしいです」


 この方、わたしを階段の上から突き飛ばした人に思えるのですが……。

 いえ、証拠のないことです。

 疑っても仕方ありませんね。

 それにわたしの社会的順位は下と定められているのですし、逆らってもいいことなんてありません。

 今後近寄るのはなるべくやめましょうというくらい。


「それで花を置かせてもらったんだ」

「あっ、お見舞いでしたか。ありがとう存じます。奇麗なお花でとても嬉しいです!」


 気を使ってもらえるなんて珍しいこともあるものです。

 あれっ? 急速にしらけたような雰囲気になりましたよ。

 どういうことですかね?


 ……よく考えてみると、下位者のわたしに配慮するなんてあるわけないではないですよね。

 わたしが死んだから花を飾るという嫌がらせに決まっているではないですか。

 それなのにわたし、無邪気に喜んだりして。

 雰囲気を読まず、気まずい思いをさせて申し訳ないです。


「講義も始まりますので、花は先生の机に移動させますね」

「お、おう」


 ふう、とりあえずこれでいいでしょう。

 立場が下のわたしが気を利かせませんとね。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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