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第7話:害虫駆除と、血塗られた道標

故郷の街を旅立ち、大都市へ向かう街道を歩き始めて数日。

 十二歳の子供が一人で歩いていれば、当然のように「そういう輩」を引き寄せる。


「ひひっ、大人しく身ぐるみを……がっ!?」


 森の陰から現れた十人ほどの野盗たち。俺は震えそうになる手を必死に押さえつけながら、水と風の魔法に麻痺性の薬草成分を混ぜ合わせた『ミスト』を風上に放った。

 無色無臭に近いその霧を吸い込んだ野盗たちは、あっという間に白目を剥いて地面に転がった。


「……っ、ふぅぅ……っ」


 大きく息を吐き出す。心臓が早鐘のように鳴っていた。

 前世の知識があるとはいえ、俺の今の肉体は十二歳の子供だ。精神もそれに引っ張られているのか、いきなり刃物を向けられた恐怖で足がすくみそうだった。大人の『松本賢人』の思考なら、そもそもこんな連中と遭遇しないよう立ち回るか、全力で逃げているはずだ。


 だが、倒れた彼らからナイフを取り上げ、柔道の関節技を応用して手際よく縛り上げ、懐から小銭袋を見つけた瞬間――俺の中で、十二歳の少年らしい俗っぽい好奇心が恐怖を上回った。


(……待てよ? こいつらのアジトに行けば、今まで溜め込んだお宝があるんじゃね?)


 危険だという大人の警告を、金への期待と「魔法で気絶させれば余裕だろ」という子供特有の万能感が塗り潰す。

 俺は強力な気付け薬を使って、一番若そうな少年を一人だけ目を覚まさせた。


「……ひっ! あ、悪魔……っ!」


 俺と同じくらいの年頃の、盗賊見習いの少年だった。

 俺は内心のバクバクを隠し、少年の首元にナイフを突きつけた。まだ誰も殺す決心などないし、あくまでお宝を頂いてトンズラするだけのつもりだった。


「アジトに案内しろ」


 少年は震えながら頷いたが、その目は明らかに隙を見て逃げる算段をしている。

 森の奥へ進むこと数十分。岩肌をくり抜いた洞窟のようなアジトが見えてきた。入り口には見張りが二人。


「あ、危な――ッ!!」


 少年が俺から距離を取り、見張りに向かって叫ぼうとした。

 だが、俺は少年の顔の周囲の『空気』そのものを、【収納1】へとしまい込んだ。

 声が出せず、酸欠でパニックになる少年の背後に回り込み、前世の高校時代に習った柔道の『絞め』を入れる。頸動脈を圧迫し、数秒で安全かつ無音で意識を刈り取った。


異変に気付かず、油断している見張りたちも、睡眠のミストで昏倒させ、同じように絞め落とす。殺さずにやり過ごすには、これが一番だ。空気ぬくと死なせるかもしれないし。


 お宝への期待に胸を膨らませながら、俺は足音を殺してアジトの奥へと足を踏み入れた。


 そこは、地獄だった。

 檻の中に囚われている数人の女性たちは、皆一様に虚ろな目をして、生ける屍のようになっていた。

 そして、洞窟の中央。一人の盗賊が、小さな子供を蹂躙していた。

 その子供の胸には無惨にも剣が突き刺さっており、見開かれた瞳には、すでに一切の光がなかった。死のうとしている、あるいはすでに死んでいる子供を、盗賊は笑いながら慰み者にしていたのだ。


 俺の中で、何かが冷たく弾けた。

 スッと、盗賊の前に姿を現す。


「……あァ? なんだてめえ、どっから入ってきやがった!?」


 慌てて武器を取ろうとする盗賊に、俺は震える声で問うた。


「なあ、お前は、何の権利があってその子を傷つけたんだ?」

「はァ? 権利だァ? 馬鹿かお前! 弱い奴が悪いんだよ、奪われるのが嫌なら強くなってみろってんだ! ギャハハハッ!」


 盗賊は醜く嗤った。

 俺はハッキリと理解した。こいつらはただの「害虫」だ。

 害虫に、慈悲も更生の機会も必要ない。駆除するのみだ。


 俺は盗賊へ視線を向け、魔力を一点に集中させた。

 回避不能の即死魔法――【極小爆鳴気】。


 パンッ、と小さな破裂音が響いた直後、笑っていた盗賊の脳幹が内側から弾け飛び、その身体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。一矢報いる猶予すら与えない、完全な処刑。


「な、なんだ!?」「あいつ、魔法使いか!?」


 騒ぎを聞きつけて奥から飛び出してきた他の盗賊たちも、俺は一切の感情を交えずに処理していく。

 十二歳の子供の感情は完全にシャットアウトし、四十三歳の合理的で冷酷な思考だけを前面に押し出す。そうでもしなければ、目の前の惨状に心が壊れそうだったからだ。

 迫る盗賊たちの心臓や喉元へ次々と【極小爆鳴気】を送り込み、瞬時に命を刈り取る。


 戦闘が終わり、静寂が戻った洞窟内。

 俺は絶命したゴミどもの死体の前に立ち、文字通りの賞金首を集めていく。俺は剣で盗賊たちの首を切断し、血抜きをしてから【収納】へと放り込んだ。


……人を殺し、首に剣を入れる感触は最悪だった。

俺は何度も吐きながら、震える手で首を斬り集めていく。

これが俺が選んだ「冒険者」って生き方だ。

冒険者である以上は護衛依頼などで、いつかは人を殺すことになっていたはずだ。あんな害虫達でも、俺が冒険者として生きて行く。そう腹を決めるための、役には立ったと思うことにした。




 血の匂いが充満するアジトで、俺は入り口で気絶させていた見習いの少年を叩き起こした。

 周囲に転がる首なし死体の山を見て、少年は腰を抜かし、失禁して震え上がった。


「ひっ、ああああっ……! た、助けて! 殺さないでっ!」

「なあ。お前は、どうして盗賊になった?」


 俺の問いに、少年は縋るように叫んだ。


「い、家が貧乏だったんだ! 生きていくためには、仕方なく……っ!」

「……そうか」


 俺は冷たい眼差しで、同い年の少年を見下ろした。


「貧乏で仕方ないから、他人の命や尊厳は奪っていいと? お前も、あの子供を襲った奴らと同じ穴の狢だな」

「ち、違う! 俺はまだ何も……っ」

「お前も、生きてる資格はないよ」


 俺は少年の顔を覆うように手をかざし、再び周囲の空気を【収納】した。

 完全な真空状態。少年は声も出せずに喉を掻きむしり、酸欠で白目を剥く。その無防備な喉仏へ、【極小爆鳴気】を撃ち込んだ。

 ボトッと地面に倒れ伏す死体。その首も同じように機械的に切断し、収納にしまう。


 囚われていた女性たちを解放し、適当な外套を着せてアジトを出る。

 街道に戻ると、そこには見知らぬ数人の冒険者たちがいた。彼らは、俺が最初に縛り上げておいた野盗たちの縄を解いているところだった。


「おや? お前さん、この野盗どもを捕まえたガキかい?」


 冒険者の一人が、俺を舐め腐ったような薄笑いを浮かべて言った。


「なぜ縄を? そいつらは盗賊で賞金首だし、俺の獲物だろ?」

「悪いな坊主。俺たちはこいつらと裏で繋がっててね。俺たちが盗賊探索の依頼を独占して、他の冒険者の目を逸らす代わりに、あがりを分けてもらってんだよ」

「……ギルドは知っているってことか?」

「いや。ルミナスのすべての冒険者ギルドが知ってるわけじゃないぜ?。この街道方面を担当するウェストギルドのマスターが盗賊のバックさ。だから、お前さんみたいな世間知らずのガキが一人でしゃしゃり出てくると、色々と都合が悪いんだよなぁ!」


 冒険者たちが下劣な笑みを浮かべながら、一斉に剣を抜いた。

 相手が子供一人だからと完全に油断し、ベラベラと自ら裏事情を口にした馬鹿ども。


「……糞ったれが。ウェストギルドが裏切者かよ」


 俺は、拳を強く握った。

 彼らが剣を振り下ろすより早く、不可視の【極小爆鳴気】が三人の冒険者の心臓を同時に破裂させた。


「……が、はっ……?」


 何が起きたのかすら理解できないまま、彼らは血を吐いて絶命した。


俺が殺されると思っていた盗賊達は、まさかの事に唖然としていたが、慌てて剣を抜く。

だが、近寄らせることなく、盗賊達も体内から爆破処分した。

 地面に倒れたり、体が四散している彼らの首を、彼ら自身の剣で刎ね落とし、等しく【収納】へと放り込む。


 女性たちを庇いながら血濡れの街道を歩き出したその時、遠くから土煙を上げて一台の乗合馬車が近づいてくるのが見えた。

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