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第11話:初めての戦利品と、大都市ルミナスの日常


 領主の館を出ると、ルミナスの街はすっかり昼の活気に包まれていた。

 高く澄んだ青空の下、大通りには馬車が行き交い、あちこちの店から威勢の良い客引きの声が響いている。


「……ふぅーっ」


 俺は大きく伸びをして、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

 胃がキリキリするようなバルガス団長との腹の探り合いを終え、厄介な専属契約も回避できた。

 おまけに、領主からの大金貨百枚(約一億円)という特別報酬も手に入った。まあ、あれだけのリスクを冒して、ウェストギルドを潰す大義名分を渡してやったのだ。ベルンハイトで稼いだ億越えの貯金がある俺からすれば卒倒するほどの額ではないが、「予想よりちょっと色をつけてくれたな、ラッキー」という程度には嬉しい臨時ボーナスだ。


 だが、今の俺が本当にウキウキしているのは、領主から貰った金ではない。

 俺の【収納】の中に眠っている、もう一つの「収穫」の方だ。


(アジトから回収した現金や宝石で、ざっと金貨二百枚(約二千万円)……それに加えて、野盗と『銀狼の牙』の連中から引っ剥がした武器と防具の山!)


 歩きながら【収納】の中身を思い出し、俺は思わずニヤニヤと笑みをこぼしそうになった。

 魔物狩りの素材売却もいいが、冒険者として初めて「対人戦(悪党限定だが)」で得た戦利品というのは、なんだか特別な達成感がある。

 血まみれだったり錆びていたりする装備も多いが、俺には魔法がある。水魔法で洗濯しながら収納を上手く使い血や汚れを洗浄し、さらに水魔法に微細な砂埃を混ぜ、剣の表面で動かして磨けば見事に研磨処理できるのだ。

 能力が1だと蔑まれていても、生活魔法は使い方次第で凄く便利で、魔法がない前世だったケントからすると、とても嬉しい。


(ピカピカに磨き上げてから武具屋に持ち込めば、絶対にいい値段で売れるぞ……!)


 そんな皮算用をしながら歩いていると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

 見れば、屋台で串に刺した肉や、甘い蜜を塗った焼き林檎を売っている。昨日の今日で肉は少し敬遠したかったが、甘いものは別腹だ。

 俺は屋台のおばちゃんに銅貨を数枚渡し、焼き林檎を受け取った。


「ありがとね、坊主! 熱いから気をつけてな!」

「はーい、ありがとう!」


 十二歳の子供らしい無邪気な笑顔で答えつつ、熱々の果肉に齧り付く。

 トロリとした甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、疲れた脳に糖分が染み渡っていく。美味い。前世のコンビニスイーツにも負けないクオリティだ。

 そんなふうに屋台での買い食いを楽しみながら、俺は大通りの一角にある武具屋の立ち並ぶエリアへと足を向けた。




 何軒かの店を外から物色し、一番落ち着いた雰囲気の『鋼の金床亭』という看板の店に入る。

 店内には油と鉄の匂いが立ち込め、壁や棚には様々な剣や槍、鎧が所狭しと並べられていた。どれも実用性を重視した、装飾の少ない武骨なデザインだ。


「ん? なんだ坊主、ここは玩具屋じゃねえぞ。お使いなら他所を当たりな」


 奥のカウンターで剣を磨いていた、腕の太いドワーフの親父が面倒くさそうに声をかけてきた。

 まあ、当然の反応だ。十二歳の子供が一人で冷やかしに来るような店ではない。


「お使いじゃないですよ。俺、これでも冒険者なんで、ちゃんとした装備を探しに来たんです。それに、買い取りもお願いしたくて」


 俺はそう言って、カウンターに『大金貨』を一枚置いた。


 親父は大金貨を一瞥すると、少しだけ驚いたように、布で手を拭いて立ち上がった。


「……なるほど。見かけによらず、いい財布を持ってるじゃねえか。で、何を探してる?」

「多少手荒く扱っても折れない、丈夫で取り回しのいい剣と、同じく丈夫な槍。それから動きやすくて、それでもしっかりと身を守れる防具が欲しいんです」


 あくまで俺は「剣や槍と体術が使える子供」として立ち回る必要がある。今の安物の剣では、強力な当身や物理戦闘に耐えきれずにすぐ刃こぼれしてしまうし、何より「奥の手(魔法)を隠すための立派なダミー」が必要だった。


「なるほどな。今のあんたの体格なら、長剣よりはショートソードだな。こいつはどうだ?」


 親父が奥から出して来たのは、黒っぽい金属で打たれた、刃渡り四十センチほどの無骨な片手剣だった。


「ミスリルと鋼の合金だ。魔力伝導率がいいから魔法剣士が好んで使うが……単に頑丈で軽い武器としても一級品だぜ。ちょっと振ってみな」

「おっ、これいいですね!。すごく手に馴染みます」


 軽く素振りをしてみると、十二歳の筋力でも全く重さを感じない。それでいて、刃の厚みはしっかりとあるため、乱戦で多少手荒に扱っても折れる心配はなさそうだ。

 槍に関しても、親父が見立ててくれた「ミスリルと鋼の合金の穂先と、しなやかな硬木を組み合わせたシャフトをミスリル板で補強した短槍」を購入することにした。取り回しが良く、室内戦闘でも使いやすそうだ。


「これ、両方もらいます。あとは防具なんですけど、金属の鎧は重くて嫌なんです。軽くて丈夫な鎧ってありますか?」

「それなら、ワイバーンの鞣し革にミスリル合金板で補強した皮鎧がある。そもそも刃物は通しにくい上に、補強してある箇所はそこらの剣や槍は通さねえ、何より軽い。ただ、かなり値が張るぜ?」

「うん。命には代えられません」


 俺は親父が提示した金額――金貨七五枚――を気前よく支払い、武具を受け取った。

 良い買い物だ。何億円も貯蓄があるのだから、この程度の出費で生存率と偽装のクオリティが上がるなら安いものである。


「まいどあり。坊主、いい目をしてるな。長生きしろよ」

「はい、もちろん。……あ、おじさん。買い取りの方は、あとで綺麗にしてからまた持ってきますね。結構な数があるので、期待しててくださいよ」


 俺は子供らしく笑って店を出た。




 新しいワイバーンの革鎧を着込み、腰にミスリル合金の片手剣を提げると、いよいよ「ちゃんとした冒険者」らしくなってきた気がする。

 時刻はまだ昼下がりだ。このまま宿に帰って昼寝をしつつ、戦利品の清掃作業や研磨作業に勤しむのも最高だが、せっかくなのでルミナスの街の地理を少し把握しておきたい。


「……統括ギルドや、他の冒険者ギルドの場所くらいは確認しておくか」


 中に入って接触するつもりはないが、場所と建物の規模、そして出入りしている冒険者たちの質を外から観察するくらいはしておいた方がいいだろう。

 俺は新しい相棒となった剣の柄を軽く叩き、ルミナスの大通りを軽快な足取りで歩き出した。

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