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けれど、愛していた。

作者: 小雨川蛙
掲載日:2025/10/13

 

 〇〇くんが死んだ。

 私の夫だった。


 一緒に歩んだ時間は五十年ほどだろうか。

 正直、よく覚えていない。


 好きな食べ物は私が辛いもので〇〇くんは甘いもの。

 女の方が辛いものが好きなんておかしいって揶揄われたことあったなぁ。


 趣味は私が映画鑑賞で〇〇くんは旅行。

 〇〇くんに誘われて映画のロケ地巡りとかしたことあったなぁ。


 私は子供が嫌いだったけど〇〇くんは子供が好きだった。

 だけど、二人で話して決めた。

 子供は作らないって。

 私達のもとに生まれてくる子供なんて可哀想だって同じ見解だったしね。


 ねえ、〇〇くん。

 私の我が儘に付き合ってくれてありがとう。

 今だって少し残っているけれど私達が若かった頃ってさ。

 女は結婚しないとダメって考えが本当にひどくってさ。

 だから、〇〇くんが私をお嫁さんにしてくれて本当に助かったよ。


 まぁ、結婚したら結婚したで孫はまだかってうるさかったけど。

 幸い、私達の両親はどっちも早く死んだからね。

 清々するって言って二人でお酒飲んだね。


 あー、もう。

 もっとちゃんとお礼言っておけば良かったなぁ。


 だけどまぁ、〇〇くんも〇〇くんで結婚しろって両親に言われてうんざりしていたって言っていたっけ。

 〇〇くんもお嫁さん欲しかったわけだし、なら、ここはお互いさまか。

 なんか後悔した分だけ損しちゃった気分。

 私がそっちに行ったら何か奢ってよ。

 〇〇くんが好きなお菓子でもいいからさ。


 あー、もう。

 考えがまとまらないや。


 〇〇くん。

 私達、恋人には一回もならなかったね。

 だって、〇〇くん母親には恋しないでしょ?

 お姉さんにも、妹にも。

 私だってお父さんには恋をしないし、お兄さんにも弟にも恋しないよ。


 だからさ、私達はお互いに恋をしたことはなかったよね。


 だけどさ。

 愛していたとは思う。

 だって、家族なんだから家族愛って絶対あると思うもん。

 愛していなかったら、私だってこんなに寂しくないもん。


 あー、もう。

 本当に寂しいなぁ。


 本命が出来たら別れようって言って始めた偽装結婚だけど、結局最後まで続いちゃったねえ。

 私達、皆からは似た者夫婦って思われていたらしいよ。

 まぁ、間違いでもないか。


 友達だけど。

 偽装結婚だったけど。

 私達って夫婦だったしね。




 涙の温かさにハッとする。

 左手が拭う涙の冷たさに気を取り戻す。


 夫が亡くなってから二度目のお墓参りは目を閉じる前と閉じた後で何か変わることはない。

 かといって、全てを語った後で世界が変わらないかと言えば決してそんなことはない。


「〇〇くん」


 お墓に声をかける。


「また、来年ね」


 友達で、夫で、家族だった人に、私は小さく笑った。

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