俺、酸素。初めて街に行った結果、だいたい事故
この作品は、会社で空気扱いされていた男が、本当に「酸素」になって異世界に転生するお話です。
最初はギャグ寄りに進みますが、チートっぽい展開やヒロインとの絡みも盛り込んでいく予定です。
「空気だった俺が、世界で一番必要とされる存在に」という逆転劇を楽しんでもらえたら嬉しいです。
気楽に読んで、クスッと笑っていただければ幸いです!
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それでは、本編へどうぞ!
歩く練習を始めて半日。
転び、ぶつかり、根っこに足を取られ続けた結果――
「……よし。今の俺は“多分ギリ人間”だ」
盛大な勘違いだった。
⸻
森を抜けると、にぎやかな小さな街が見えた。
石畳に露店、人、人、人。
「おおお……! これが文明……!
ついに俺も“空気扱いじゃない人生”の仲間入りだな!」
意気揚々と一歩踏み出した瞬間――
スッ。
「……え?」
俺の体を、通行人がすり抜けた。
「ちょ、今、当たったよな!?
今、絶対肩ぶつかったはずだよな!?」
振り返るが、相手は何事もなかったように歩いていく。
「当たり判定、日にち指定なのか!?
俺、今日は“透過モード”なの!?!?」
さらに別の人とも――
スッ。
スッ。
スッ。
「ちょ、三連続すり抜け!!
俺、街のオブジェか何か!?」
⸻
とりあえず屋台が目に入った。
肉の焼ける匂い。
「……腹、減ったような気がする(錯覚)」
屋台のおっちゃんに近づく。
「すみませー……」
完全に無視。
「すみませー!!」
まだ無視。
「おい!! ここに!!
存在感ゼロの青いのがいるだろ!!」
当然聞こえない。
仕方なく自分で串を取ろうとする。
スカッ。
「……触れねぇ」
もう一度。
スカッ。
「……おい、誰か……」
三度目。
ズルッ。
ガシッ。
「おっ、今度は触れ――」
串、俺の手をスルーして地面に落下。
「落としてんじゃねぇ!!」
屋台のおっちゃんがキレた。
「今の、俺じゃねぇ!!
判定がバグっただけだ!!」
もちろん伝わらない。
⸻
くじけながらも街の奥へ進む。
井戸の前で立ち止まった瞬間、後ろから声がした。
「おい貴様、そこで何をしている」
振り向くと、鎧を着た兵士。
「やっと話しかけてくれた人だ……!
あの、俺は怪しい者じゃなくて……酸素です」
「……は?」
「風属性? 違う。空気系? 違う。
もっと根本的なやつで……」
「意味がわからん。同行しろ」
「ちょ、待って。事情を説明すると長くて――」
兵士が剣を抜いた瞬間。
スゥ。
剣が俺の体をすり抜けた。
「……?」
もう一度。
スゥ。
「……?」
三回目。
スゥ。
兵士、白目。
「ひっ……幽霊……!」
「違う!!
精霊!!
空気枠のやつ!!」
完全に腰が引けた兵士が、叫んだ。
「魔物だーーーっ!!!」
「おい! カテゴリ勝手に決めるな!!」
⸻
結果――
・屋台のおっちゃんに追い回され
・兵士に魔物認定され
・子どもに石を投げられ
石は当たらないが、プライドには直撃した。
「……ひどくないか、俺の街デビュー」
街の外れに追い出され、石垣にもたれて座り込む。
「人型になってもこの扱い……
もう一回、空気に戻ったほうがマシまである……」
だが、街の灯りがともる。
人々は俺のおかげで酸素を吸い、火は俺のおかげで燃える。
「……まあ、世界のシステム的には、
俺がいちばん働いてるんだけどな」
誰にも評価されないけど。
「くっそ……!
次こそ“ちゃんと会話が成立する場所”を探してやる……!」
そう誓いながら、
青くて不審な酸素は、再びフラフラと夜の森へ消えていった。




