俺、酸素。体を手に入れたけど思ったより不便だった件
「よーし、今の俺には脚がある! 腕がある! もう漂うだけの酸素じゃない!」
俺は勢いよく森を駆け出した。
――その三秒後。
「うおっ!? バランス!! うわああああ!!!」
ドシャァァァンッ!!
派手に転倒。
「は、走るって……難しくね!?」
どうやら“地面を蹴る”という感覚をまだ理解していなかったらしい。
転がるたびに葉っぱが顔に刺さり、服(というか光のヴェール)がズレる。
「痛い! てか、俺って痛覚あったの!? 酸素なのに!?」
⸻
◆人間ボディ、初日リハビリ編
何度も転びながらも、なんとか立ち上がる。
「よし、今度こそ歩こう。走らずに、ゆっくり……」
一歩、二歩、三歩――
「いける……いけるぞ俺……!!」
ズベッ!!
「ぐはっ!? またかぁぁぁ!!!」
どうやら足の関節というものが、俺の想像より複雑らしい。
重力という名のラスボスが、思いのほか強い。
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◆“食べる”に挑戦
転倒を繰り返して腹が減った気がした(気のせいだ)。
木の実を拾って口に入れる。
……スカッ。
「え?」
通り抜けて地面にポトリ。
「……いやいやいや!? 食べれねぇの!?」
再挑戦。もう一個、口に。
スカッ。
「くっ……! 俺、口はあるのに消化機能がないっ!!」
仕方なく深呼吸する。
スゥ――
「……あ、俺、酸素だわ」
自分を吸ってるような気がして、ちょっと怖くなった。
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◆文明とのギャップ
「もう……なんなんだよ、身体って難易度高すぎるだろ」
歩けば転び、食えばすり抜け、呼吸すれば自己循環。
「これ、何モードだよ!? “物理演算テスト中”か!?」
だが不思議と楽しい。
木に触れればザラザラ、
風を受ければひんやり、
水に触れれば冷たい。
「痛いとか冷たいとか……全部“生きてる”ってことなんだな」
ちょっと感動してたら、また足元の根っこに引っかかって――
ズベチャッ。
「おおぅ……ッ! もう根っこにまでバカにされてる……!」
⸻
それでも俺は笑っていた。
転んで、痛くて、食べられなくて。
でも、ちゃんと“世界に存在してる”って実感がある。
「よし……まずは歩く練習からだ。酸素だって、地道にやる!」
こうして俺の“精霊リハビリ生活”が始まった。




