俺、酸素。魔女に出会って人型になる
この作品は、会社で空気扱いされていた男が、本当に「酸素」になって異世界に転生するお話です。
最初はギャグ寄りに進みますが、チートっぽい展開やヒロインとの絡みも盛り込んでいく予定です。
「空気だった俺が、世界で一番必要とされる存在に」という逆転劇を楽しんでもらえたら嬉しいです。
気楽に読んで、クスッと笑っていただければ幸いです!
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それでは、本編へどうぞ!
女の子を助けた――はずなのに、感謝されたのは操ってた男のほう。
「……また空気扱いかよ」
風の中を漂いながら、俺は自分の存在感の薄さに泣きたくなった。
助けても誰にも見えない、聞こえない、触れられない。
「俺、ほんとに空気だもんな……ってそのまんまか!」
そんな自虐ギャグを言っているときだった。
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◆森の魔女との遭遇
「ふむ……珍しい波動じゃのう」
低く響く声。振り向くと、黒衣をまとった老婆が杖をついて立っていた。
長い白髪を編み込み、目の奥がまるで風そのもののように光っている。
「え、ちょ、まさか……俺が見えてる!?」
老婆は口元を歪めて笑った。
「見えておるとも。おぬし、“酸素”じゃな?」
「な、なんでわかるんですか!?」
「わしは森の魔女。空気と命の循環を読むことぐらい、朝飯前じゃ」
……来た! ついに俺を認識できる人間が現れた!
感動で酸素濃度が上がりそうだった。
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◆魔法実験、開始
「おぬし、形を持たぬゆえ苦労しておるじゃろう」
「はい……もうずっと透明で、助けても空気扱いで……」
「ならば、形を与えてやろう」
魔女は杖を高く掲げ、淡い光をまとい始めた。
空気が震え、風が渦を巻く。
「風よ、空よ、命に宿れ――!」
「ちょ、なにこれ!? まぶしい!? 熱い!? 俺、燃えるタイプの酸素だけど!?」
光が一瞬で辺りを包み込んだ。
身体の中に走るビリビリとした感覚。
“空気なのに”心臓がドクンと鳴った気がした。
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◆酸素の精霊、誕生
光が収まる。
……俺の両手が、ちゃんと“手”の形をしていた。
腕が動く。足が地面を踏みしめる。
「おおおお!? 俺、立ってる!? しかもちゃんと見える!?」
鏡の代わりに水面をのぞくと、そこには淡い青髪の青年が映っていた。
髪は空のように透き通り、肌はわずかに光を反射している。
魔女は満足そうにうなずいた。
「うむ。これでおぬしは“酸素の精霊”じゃ。姿も声も、これで世界に干渉できる」
「せ、精霊!? 俺、ついに進化したのか!?」
「ただし、力を使いすぎれば形は崩れる。ほどほどにせい」
「了解っす! これでやっと誰かに見てもらえる! やった!」
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人生で初めて、自分の姿が“世界に存在する”という実感を得た。
いや、正確には酸素生だけど。
「よし……次はあの女の子にもう一度会って、今度こそちゃんと“ありがとう”って言わせてやる!」
そう言い残し、俺――酸素の精霊(仮)は、風を切って森を駆け出した。




