俺、酸素。女の子を助けたのに空気扱い
この作品は、会社で空気扱いされていた男が、本当に「酸素」になって異世界に転生するお話です。
最初はギャグ寄りに進みますが、チートっぽい展開やヒロインとの絡みも盛り込んでいく予定です。
「空気だった俺が、世界で一番必要とされる存在に」という逆転劇を楽しんでもらえたら嬉しいです。
気楽に読んで、クスッと笑っていただければ幸いです!
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それでは、本編へどうぞ!
森を漂って数日。
俺はもう「透明な人生(?)」にも慣れてきた……いや、慣れたらダメだ。
「くそっ……! 今度こそ“ありがとう”って言われたい!」
そう決意していたその時――
⸻
◆助けを求める声
「きゃあっ!」
木々の向こうから悲鳴が響いた。
振り返ると、茶髪の女の子が足をくじいて地面に倒れ、魔物に追われている。
「やばっ! これはイベント発生だ!」
俺は全力でそちらに漂った。
だが当然、姿は見えない。
「……もういい、人の体を借りるしかねぇ!」
⸻
◆緊急搭乗
ちょうど近くに、剣を落として気絶している男がいた。
俺はその男の口元から――スッと入り込む。
ズズッ!!
「おおっ!? また入れた!」
『うわああ!? 勝手に体が動いてるーー!!』
男の体を操り、剣を拾う。
「よし、今度はちゃんと戦ってみるか!」
『ちょ、まっ、やめろ! 俺、文官だぞ!?』
叫ぶ男の意識を無視して、俺は魔物に突撃した。
「この子を守るのは――俺だぁぁぁ!!」
ズバッ!!
一閃。
魔物が崩れ落ちた。
⸻
◆功績、横取りされる
「はぁ……助かった……」
女の子が胸を押さえて呟いた。
俺は男の体を操って、カッコつけて言おうとする。
「大丈夫か? 怪我は――」
その瞬間、俺の意識がスポーンと抜けた。
「あ、やべ」
中身の抜けた男は、状況が飲み込めないまま剣を見下ろした。
「えっ……お、俺が倒したのか……!?」
「すごい! ありがとうございます!」
女の子は涙を浮かべて男の手を握った。
……おい。
ちょっと待て。
今の、操ってたの俺だからな!?
「俺だぁぁぁぁぁぁ!!」
風が木々を揺らす。
鳥が飛び立つ。
でも、誰も俺の声には気づかない。
⸻
結局、また空気扱い。
助けたのに、存在はゼロ。
「……もう慣れたけどな!!」
いや、慣れたくはない。
俺は悔しさを胸に、また森の風へと溶けていった。