会社で空気扱いの俺、転生したら酸素になってました
この作品は、会社で空気扱いされていた男が、本当に「酸素」になって異世界に転生するお話です。
最初はギャグ寄りに進みますが、チートっぽい展開やヒロインとの絡みも盛り込んでいく予定です。
「空気だった俺が、世界で一番必要とされる存在に」という逆転劇を楽しんでもらえたら嬉しいです。
気楽に読んで、クスッと笑っていただければ幸いです!
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それでは、本編へどうぞ!
俺の存在感は、会社の中で限りなくゼロに近かった。
会議で意見を言っても誰も反応しない。
むしろ数分後、隣の席の同期が同じことを口にすれば――
「さすが○○くん!視点が違うな!」と拍手喝采。
……いや、それ、さっき俺が言ったんですけど?
さらに昼休み。
上司に「コーヒー買ってきて」と頼まれ、律儀にコンビニまで走った俺。
汗だくで差し出したその瞬間、後ろからひょこっと出てきた後輩がこう言った。
「ついでに俺の分も買ってきました!」
結果。
「おお、気が利くなぁ!」
褒められたのは後輩。
俺が渡したコーヒーは、誰の記憶にも残らなかった。
……これもう、空気じゃん。
名前すら覚えられていないのも日常茶飯事だ。
「えーっと……君、えーっと……」
「うえまつです」
「ああそうそう、うえだくん!」
……違います。
そんな扱いを受け続けて二十四年。
気づけば、心の中で自虐することすらルーチンワークになっていた。
⸻
その日も、終電ギリギリの時間まで残業して、会社を出た。
冷たい夜風が、頑張った俺をせめて労ってくれる。
「はぁ……」
白い息が街灯に溶けて消える。
ふと。
視界の端から、大型トラックが突っ込んできた。
「……え?」
クラクション。
ブレーキ音。
俺の身体は、あっけなく宙を舞った。
⸻
気づけば、真っ白な空間に立っていた。
いや、「立っていた」というより――浮いていた?
「おっ、君か~。なんか一人ぽっかり死んじゃったから、転生させるわ」
サングラス姿の、軽いノリの神様らしき存在が目の前にいた。
「え、俺死んだんですか!?」
「死んだね。トラックにドーン。チーン。南無」
「そんな軽い感じで!?」
俺が動揺している間にも、神様はスマホをいじりながら言葉を続ける。
「んで、転生特典あげるから。君ねぇ……“空気扱い”でしょ?」
「……ええ、まぁ」
「じゃあ、本当に空気にしとくわ」
「は?」
「はい、“酸素”」
「ちょ、ちょっと待ってください!? もっとこう、剣とか魔法とかチートスキルとか――」
「酸素、最強だから。人、酸素なきゃ生きてけないから。モンスターも魔法も燃えねぇから」
「理屈はわかるけど納得はできない!!」
俺の抗議は無視され、神様は指をパチンと鳴らした。
⸻
次の瞬間。
……透明になった。
「え、待って。俺、手がない。体がない!? ちょっと!!」
呼吸しようとしたが、そもそも俺が呼吸だ。
肺がどうとかいう以前の問題だった。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
気づけば俺は、森の中に漂っていた。
木々が風に揺れ、鳥が羽ばたき、草花が朝露に濡れている。
……あ、酸素って、完全に空気じゃん。
試しに小さな炎に近づいてみる。
――ボッッ!
瞬間、炎が勢いを増した。
「おおお!? 俺、関与しただけで火が強くなった!?」
次は、森を歩く獣の鼻先へ。
「クシュン!」
盛大なくしゃみをされた。
「……俺のせい?」
酸素として関与するだけで、世界に影響を与えてしまう。
どうやら俺は、本当に「いなきゃ死ぬ」存在になってしまったらしい。
⸻
会社で空気扱いだった俺は、今や本物の空気。
透明で、形もなく、存在感ゼロ。
だが――
この世界は、俺なしでは成り立たない。
「……これ、チートすぎない?」
俺の新しい人生(?)が、今、始まった。