第5話 ゾゾゾ……八鬼祭の巫女②
その時ーー
「俺は大歓迎だぜ!!! ショウ!!!」
ショ、ショウ!? えっ、俺!?
突然、明るい声が場の空気を一変させた。
深紅の面が外されると、快活な青年が立ち上がった。少し浅黒く日焼けした肌に、屈託のない笑顔——。
その登場に、思わず俺も目を見開いた。
「東京から来たんだろ!? 東京ってすげぇんだよな!? 俺も大学はマサアキさんみたいに東京に行きてぇんだよ!!!」
「お、おう……」
勢いよくまくしたてる青年に、俺は圧倒されるばかりだった。
——ゴチン!!!
突然、鈍い衝撃音が響く。
「『アキラ』!!! このアホンダラ!!!」
じいちゃんよりもさらに大柄な男が勢いよく立ち上がり、分厚い拳をアキラの頭に落とした。
「いってぇぇぇ!!! このクソジジイ!!! 何すんだよ!!!」
頭を抱えてうずくまるアキラを、深紅の面をつけた大男は腕を組んで睨みつけていた。
深紅の面をつけたその姿は、まるで本物の赤鬼のようだった。
こえぇよ……
「おっと、すまなかった……」
大男はスッと面を外し、続けた。
「俺は八代家当主のゲンキチだ。そして、このアホンダラは孫の『アキラ』だ。」
そう名乗ると、ゲンキチさんは腕を組みながらアキラを睨みつける。
「いてぇ……もうちょい手加減しろよ、ジジイ……。」
アキラは頭をさすりながら不満げに呟くが、ゲンキチさんは一切意に介さない。
「礼儀も知らんで騒ぐからだ。いいか、ショウタロウくん。うちのアホが失礼をした。」
ゲンキチさんは俺の方を向き、低い声でそう言うと、軽く頭を下げた。
「えっ、あ、いや……全然、大丈夫っす……。」
予想外の展開に戸惑いながら俺が答えると、ゲンキチさんは満足そうに頷く。
「……うむ。それならいい。」
一方、アキラはまだ不満げに頭をさすりながら、俺を見てニッと笑った。
「ま、よろしくな、ショウ!後でいっぱい話そうぜ!」
俺は苦笑いを浮かべながらも、どこか憎めないその笑顔に、自然と「よろしく」と返していた。
「ガハハ!!! 皆にも言っていたが、改めて紹介するぞ! こいつがワシの孫のショウタロウだ!!!」
じいちゃんがバンバンと俺の背中を叩きながら、皆に俺を紹介する。
「くっ…東京から来ました、八木ショウタロウです…ゲホゲホ…」
俺は咳き込みながら情けなく挨拶をしたが、じいちゃんは満足げに俺を見守っていた。
「それではーー私たちもーー」
先ほどの八家紹介の際に聞こえた甲高い声が再び響くと、静かに座っていた人物が純白の面を外した。
シワの刻まれた老婆が、真っ白な長い髪を一つに束ね、鋭い眼差しで俺を見つめる。
「八乙女家当主のカガリです。そして、曾孫のツムギです。」
紹介された少女が静かに面を外す。
その瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
陶器のように滑らかな白い肌、腰まで届く漆黒の髪を赤い紐で結び、白い着物をまとったその姿は、まるで神聖な存在のようだった。
「八鬼祭の巫女を務めさせていただきます、ツムギと申します。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。」
そう言うと、ツムギは美しい所作で三つ指をつき、深々と頭を下げる。
次の瞬間、まるで儀式のように、周囲の者たちが一斉に膝をつき、恭しく頭を垂れた。
八鬼祭の巫女……
この祭りって一体なんなんだよ……