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第5話 ゾゾゾ……八鬼祭の巫女①

顔を上げると、鬼の面たちがじっと俺を見つめていた。


ひっーー!!!


その迫力と不気味さに、背筋が凍りつく。


「がっはっはっは!!! もういいだろ、こいつはこんなこと慣れてないんだ!許してやってくれ!」


突然、豪快な笑い声が響き渡る。


鬼の面たちはしばし沈黙していたが、やがて、重々しくうなずくように視線をそらした。


——いや、そんな無言の圧力、やめてくれよ!!!


「悪かったな、ショウタロウ!これはこの村の風習なんじゃ!」


そう言いながら、じいちゃんは俺の肩をポンポンと優しく叩く。


そして、青い鬼の面の紐をスルリとほどくと、ゆっくりと面を外した。


わずかな沈黙が流れ——


「……そうですね。こちらこそ、客人に大変失礼なことをしましたな。」


低く落ち着いた声が静寂を破る。


「ショウタロウくん、遠路遙々よく八鬼村にいらっしゃった。」


そう言いながら、緑の鬼の面をつけた人物が、ゆっくりとその面を外す。


現れたのは、年の頃は五十代ほどの、穏やかな笑みをたたえた中年の男性だった。


「私は、八砥家の当主、ソゴロウと申します。そして、隣にいるのは息子の『ソウイチ』です。」


「ショウタロウさん、よろしくね!」


明るい声とともに、ソウイチが面を外す。


そこに現れたのは、予想外にも、小柄で華奢な十四歳くらいの少年だった。大きな瞳が好奇心に輝き、どこか幼さの残る顔立ちをしている。


「さあ、皆さんも」


穏やかにソゴロウさんが促すと、周囲の鬼たちが次々と面を外し始める。


紫の面が外されると——


そこに現れたのは、四十代ほどの、落ち着いた雰囲気をまとった美しい女性だった。

しっとりとした長い黒髪を結い上げ、上品な紫色の着物を纏っている。


「ショウタロウさん、はじめまして。八川家当主のアケノです。こちらは娘の『シズカ』です。」


アケノさんが穏やかに微笑みながら紹介すると、その隣に座る女性がゆっくりと面を外した。


現れたのは、どこか艶やかな雰囲気を持つ、二十歳前後の女性。

くるんと柔らかく巻かれたミディアムヘアが、肩で軽やかに揺れ、ほんのりと色づいた唇が柔らかく微笑んでいる。


「ふふっ、ショウタロウくん。思ったより可愛い子ね。」


少し垂れた瞳が優雅に細められ、その表情にはどこか小悪魔的な魅力が宿っている。


「緊張しなくて大丈夫よ。せっかく八鬼村に来たんだから、楽しんでいってね。」


シズカさんは、ゆったりとした声でそう囁くと、すっと指先を伸ばし、頬にかかった髪を耳にかける。

その仕草は、決して意識してやっているわけではないのに、妙に色っぽかった。


ゴクリ…


思わず息をのみ、シズカさんに見惚れていると——


「その下品な、気持ち悪い目でシズカ様を見ないで!!!」


げ、下品!?き、気持ち悪い!?


怒りに満ちた声が空気を切り裂いた。


バッ!


鋭い音を立てるように、黄色の面が乱暴に外される。


そこに現れたのは、ショートカットの黒髪に鋭い眼差しを宿した少年だった。


右の目元の下に黒子があり、その視線はまるで獲物を威嚇する獣のように鋭い。

小柄な体格ながらも、その目つきには気迫があり、全身から敵意がにじみ出ている。


年の頃は十四、十五歳ほどだろうか。


その場にピリついた空気が漂う中——


「『コハル』!なんて口をきくんだ!!」


怒気をはらんだ声が響いた。


そう言いながら、隣に座る男がゆっくりと面の紐をほどき、慎重な仕草で黄色の鬼の面を外す。


現れたのは、がっしりとした体格の中年の男性だった。


短く刈り込まれた髪はわずかに白いものが混じり、厚みのある眉と険しい表情が、厳格な人柄を物語っている。


深いため息をつきながら、その人は俺に向き直った。


「申し訳ありません……。」


苦々しげにそう前置きすると、静かに名乗る。


「私は八潮家当主のマンジです。この礼儀知らずのバカ娘は『コハル』と申します……。」


その声には呆れと苛立ちが滲んでいる。


コハルの方を一瞥すると、さらに低くため息をついた。


しかし、当のコハルはふんっとそっぽを向いたまま、まだ不満げに口を尖らせている。


えっ!!!!こいつ女なの!??


俺は驚きのあまり、心の中で叫び声をあげた。


その瞬間、コハルが不機嫌そうに顔を背けながら、眉をひそめて言葉を放った。


「なに?こっち見ないでくんない!?」


その声は明らかに怒りを含んでいる。


「あっ、いや…」


思わず動揺して言葉を詰まらせる俺に、マンジさんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「コホン…」


誰かの咳払いが聞こえると、桃色の面がゆっくり外された。


そこには、ツルツルと頭が光った恵比寿顔の初老の男性が微笑んでいた。


「コハルちゃんもまだ子供ですから、ショウタロウくんも許してやってねえ。

ワシは八幡家当主のオンゾウといいます。隣は倅の『ワシオ』です。」


オンゾウさんが優しく微笑んでいると、その隣に座っていた男性もゆっくりと面を外した。


現れたのは、40代半ばくらいの、少し太めの恵比寿顔をした男性だった。

オンゾウさんとよく似た顔立ちをしており、どこか親しみやすい雰囲気を漂わせている。

しばらく沈黙が流れた後、ワシオさんがようやく口を開いた。


「失礼しました、ショウタロウさん。挨拶が遅れましたね。」


少し照れくさそうに頭を下げると、父親と同じような穏やかな笑みを浮かべながら続ける。


「どうぞよろしくお願いします。」


「ど、どうも…よろしくお願いします。」


俺が少し緊張しながら返事をすると、ワシオさんは柔和な表情で頷き、軽やかな手つきで扇子を開いて仰ぎ始めた。


「さて、次は私たちの番ですかね。」


気の強そうな女性の声とともに、漆黒の面が静かに外される。


現れたのは、鋭い目つきをした中年の女性。まるで値踏みするように俺を見つめ、その視線には冷たい軽蔑のような色が滲んでいた。


「八上家当主のタケコです。隣は息子の『トキミツ』。」


タケコが淡々と名乗ると、隣の青年も無言で面を外す。


トキミツは無造作にメガネをかけ直し、冷めた眼差しのまま軽く会釈する。俺と同い年くらいだろうか。


「八木家は『マサアキ』さんが祭に参加する予定だったのでは?」


タケコさんがじいちゃんを見て、不満げに問いかける。


親父のことか……。


「ガハハ! マサアキは仕事でなあ、その代わりに孫が来てくれたわけだ!」


じいちゃんは豪快に笑いながら、自慢げに俺の背中をバンバンと叩く。


「いってて……。」


容赦ない一撃に思わず顔をしかめるが、じいちゃんはまったく気にしていない様子だ。


タケコは鼻を鳴らし、腕を組んで俺を一瞥する。


「ふん……そうですか。」


短くそう言うと、それ以上は興味がないとばかりに視線を逸らした。


一方、トキミツはメガネの位置を直しながら静かに俺を見つめる。


「……よろしく。」


それだけ言うと、再び無表情で視線を落とした。


絶対に歓迎されてないじゃん……


俺は心の中でため息をつきながら、じいちゃんの方へ目を向けた。



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