第4話 ゾゾゾ…八家の顔合わせ①
サクラが提灯で足元を照らしながら、俺は長い廊下を進む。
——この家、電気通ってないのかよ……
心の中でツッコミを入れつつ、軋む床の音に少しビクつきながら歩く。
「こちらです」
サクラが襖を開くと、そこには格調高くも静謐な和室が広がっていた。
灯りは最低限しかなく、壁際に並ぶ行灯の柔らかな光が、室内をほのかに照らしている。
天井の組子細工は仄暗い影を作り出し、緻密な模様を浮かび上がらせている。
襖には金泥で描かれた四季の風景があり、行灯の灯りが揺れるたびに、まるで絵の中の木々がざわめいているかのように見えた。
畳は分厚く、足を踏み入れると微かに沈む。室内には白檀の香がほのかに漂い、しんとした静寂が支配していた。
「ショウタロウ様、お召し物を整えましょう」
「えっ、着替えるの?」
「はい。八家の集まりは、とても特別なものですから、正装がございます」
サクラが当たり前のように俺の服に手をかけてきたので、慌てて制止する。
「い、いや! 待って!自分で着替えるから!!!」
微動だにしないサクラの視線を受けながら、用意された服に袖を通すが——
えっ、袴!?
帯の結び方が分からず悪戦苦闘していると、サクラがすっと近づいてくる。
「お時間がありませんので……」
「……はい」
完全に観念し、大人しくサクラに手伝ってもらうことにした。恥ずかしくて顔が熱くなり、変な汗が流れる。
——いや、冷静に考えて、着付けってこんな至近距離でされるもんなのか!?
そんな動揺の中、十数分後——
「お待たせしました」
鏡の前に立った俺は、思わずまじまじと自分の姿を見つめた。
サクラの手によって、俺は村の伝統衣装らしきものを着せられていた。
黒を基調とした紋付き羽織に、動きやすそうな袴。思ったよりしっくりくる……けど、やっぱり普段着慣れない格好だ。
「うわぁ……なんかすごいな」
「とてもお似合いです」
サクラが淡々と言うので、なんとなく照れくさくなる。
「最後に、こちらをお付けください」
手渡されたのは、艶やかな青の陶器の面。
精巧に刻まれた鬼の面は、無表情ながらもどこか威圧的に見えた。
——え、鬼の面? これつけるのか……?
不安が募るなか、サクラは静かに言った。
「では、大広間へご案内します」
俺の疑問をよそに、静かに襖が閉じられる音が響いた。