第25話 ゾゾゾ……ドキドキWデート②
屋台の並ぶ通りを、俺たちは四人で歩く。
コハルは大きなわたあめを両手で抱えて、頬をふくらませながらニコニコしていた。 アキラはいつの間にかヨーヨー釣りで取った赤い風船を、得意げにブンブン振っていた。
「……子供かよ」
思わず言いかけて、唇の裏で止めた。
周りを見渡せば、誰も彼も子供みたいな顔をしてる。
普段は真顔で畑仕事してそうなじいちゃんばあちゃんが、金魚すくいに夢中になっていたり、 はしゃぐような笑顔でたこ焼きを頬張っていたりする。
そっか。
この村の娯楽って、こういう時にしかないんだ。
だから、みんな真剣に“楽しむ”。
なんだか、笑ってるみんなより、俺のほうが感性が鈍ってるみたいで……ちょっと情けなくなった。
「ツグミは、何かやってみたいことある? 食べたいものとか……」
呼び捨てにした途端、喉の奥がムズムズと変な感じがする。
ヤバいっ!めちゃくちゃハズイ……
さっきの勢いが抜けてきて、急に距離感が気になりだしたからだ。
「……はい。では、焼きとうもろこしを」
「……了解。あっ、俺、いい店知ってるかも。」
ふ、とマユカさんの事を思い出して、店を探す。
激辛坦々ソースって言ってたけど、普通のも売ってるよな…たぶん。
「ちなみに、辛いのって大丈夫?」
「……少しなら。」
ふっと、ツグミが小さく笑う。
その笑顔が、巫女じゃなくて──ただの“女の子”って感じで。
一瞬、視線のやり場に困った。
「ほら、ショウ!あそこ、マユカさんの店!!」
アキラが指差す先には、例の白タンクトップのマユカさんが腕を組んで仁王立ちしていた。
腰には唐辛子柄のエプロン。
とうもろこしじゃなくて、もはや、唐辛子屋じゃんっ!!
「いらっしゃ──って、え!? ツグミ様!? ウッソでしょ!? 本物!?」
屋台の前で、マユカさんが目をひん剥いて叫んだ。
「今日はツグミと呼んでください。」
ツグミが、ちょっと照れたように言ったその一言に、俺は少しだけうれしくなった。
「ええっ!?……じゃあ、おっけー!約束通りサービスしてあげるね!」
マユカさんは急にノリノリになって、網の上でとうもろこしをくるくると転がしながら言った。
「今夜のおすすめは、激辛坦々ソース味と、バター醤油。どっちにする?」
「激辛……」
ツグミが小さく首をかしげた瞬間
「バター醤油でお願いしますっ!」
と、俺が割り込むように言ってしまう。
俺が即答する横で、ツグミがーー
「……私は」
「激辛で。」
「えっ」
思わずツグミの顔を見てしまう。
「さっき、“少しなら”って言ってたよな? これ、全然“少し”じゃないと思うけど……」
「試してみたいだけです。……ダメですか?」
「いや、ダメじゃないけど……」
マユカさんはもうニヤニヤが止まらない顔で、たっぷりと真っ赤なソースを塗っていく。
──嫌な予感しかしない。
「あーっ、じゃあ俺もそっちにするわ!!」
アキラが勢いよく割り込んできて、コハルが慌てて止めに入る。
「ちょっとアキ兄、それ口から火ふくやつだよ……!」
「それがいいんだよコハル!!カッコいいじゃん!!」
「…カッコいい……じゃあ!あたしもっ!!」
ノリに乗ったコハルも、勢いよく手を挙げる。
やがてとうもろこしが焼き上がり、マユカさんが誇らしげに差し出してきた。
「はいっ、激辛坦々3本と、バター醤油ね!楽しんでって!」
俺は迷わずバター醤油を手に取り、残りの3人は地獄の様に赤いとうもろこしを一人ずつ受け取る。
恐る恐る、ツグミがひとくち──
「……っ!!」
眉をぴくりと寄せて、目を丸くする。
舌先がしびれているようで、わずかに震えているのが分かる。
でも、無理に平静を装ってるのが、なんだか健気だ。
「……おいしいです」
「いや、絶対辛いだろそれ。顔、真っ赤じゃん……」
「……いえ、大丈夫です」
その強がりが妙に可愛くて、思わず笑ってしまう。
一方でアキラとコハルは早々にギブアップして、氷を口に放り込みながら必死で冷やしていた。
コハルなんて「もう無理ぃ……」と半泣きでうずくまってる。
「ショウ悪ぃ!!御命井様んとこから水もらってくる!!コハルも俺もマジで死ぬっ!!あとは頼んだ!!」
「お、おう……大丈夫かよ」
返事をする頃には、ふたりは走り去っていた。
「ツグミ、水、平気?」
「ええ。たぶん、あのお二人が食べたものよりは、辛くなかったのかもしれません」
「えっ、マジ?」
ツグミが差し出した焼きとうもろこしをひとくちもらって食べてみると、確かに辛いけど──ちゃんと旨みもあって、ほどよい刺激。
「……ほんとだ」
「ショウタロウ、少し……歩きませんか?」
ツグミのその言葉にうなずいて、俺たちはにぎやかな屋台の列から少し外れ、小道へと足を向けた。
灯りの少ないその道では、祭りの喧騒が嘘のように遠ざかり、ひんやりとした夜の空気が肌を撫でていく。
ツグミは、手に残ったとうもろこしを小さく噛みながら、ぽつりと呟いた。
「……たぶん、マユカさんが……気を遣って、私の分だけ特別に唐辛子の量を減らしてくれてたんだと思います」
「……ああ」
言われてみれば、確かにあの辛さは“地獄”ってほどじゃなかった。
「皆と同じようにしても、私が“八乙女ツグミ”である限り……本当の意味で“同じ”には、なれないんです」
「“ツグミ様”扱い、ってこと?」
ツグミは、少しだけ視線を伏せた──
「はい」
その声が、やけに遠く聞こえた。
「……」
「誰も悪くないんです。ただ、そういう……立場なので」
「……それって、やっぱり…寂しいよな」
その一言に、ツグミの足が止まった。
月明かりに照らされた彼女の横顔は、どこか張りつめていて、それでも少しだけ脆さがにじんでいた。
「……仕方のないこと、なんです」
「でもさ、俺は──」
一度、深く息を吸ってから、言った。
「俺には“ツグミ様”なんて関係ないし、ただの“ツグミ”だって思ってる。……これから先も。東京帰ってもさ。」
ツグミはこっちを見て──それから、ゆっくり目をそらした。
けれどその目は、逃げているんじゃなくて──なにか、考えようとしている目だった。
「……ありがとうございます。ショウタロウには、初めから私の忠告も聞かず、ハラハラさせられてばかりですけど……」
「……あ、だよね、本当に…ごめん……」
身に覚えがありすぎる。
「でも、私を特別扱いしなかったから……だから、きっと、どこで…嫌いになれなかったんだと思います」
ツグミが振り返る。
月明かりに照らされたその笑顔には、涙が光っていた。
その涙が、流星みたいに静かに頬を伝っていって……
すごく、綺麗だった。
俺の心臓が、ドクドクと脈打つのをよそに、
ツグミがまた歩き出そうとした、その時──
「誰か、助けてぇーっ!!」
境内の奥から響いた叫びが、真夏の空気を、一瞬で凍らせた。
いよいよ、ゾンビ村の本編が始まります!
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