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第22話 ゾゾゾ……前夜祭のかがり火③

石段を駆け上がると、そこにはまるで「異界」に迷い込んだかのような光景が広がっていた。


斜面を囲むように、いくつもの“かがり火”が灯されている。 炎はざわめく木々の影をゆらりと歪め、その奥で、村の夜景までもが煙に溶けて揺れていた。


八家の「関係者」たちは、高価そうな御座の上で精進料理をつまみ、盃を手に静かに火を囲んでいる。


宴というよりも、明日の“八鬼祭”に備え、粛々と心を鎮めているような──そんな重さがあった。


「よう来たな、ショウタロウくん」


低く渋い声に呼び止められ、思わず足が止まる。 声の主はゲンキチさんだった。


火に照らされた顔はいつもより険しく、目の奥に鋭い光が宿っている。


「……お前んとこのじいさん、腰どうだ」


「……ソゴロウさんに診てもらってます」


そう答えると、ゲンキチはわずかに頷き、再び火へと視線を戻した。


「……なら、いい」


それだけ言って、沈黙が戻る。


ふと火の向こう──御社の前に立つ白装束のツグミさんの姿が目に入った。


ゆっくりと頭を下げ、長い黒髪が炎に揺れている。 手を胸の前で組み、祈るような仕草をしていた。


「……なあ、ショウ。飯食わないのか?」


アキラがそっと近寄り、ひそひそ声で尋ねる。


「あ、うん……」


なぜだか、ツグミさんから目が離せなかった。


──彼女は、この祭りが偽物って知ってるんだろうか?


それとも、すべて分かった上で、“役目”を受け入れてるってことか?


ツグミさんは静かに顔を上げると、こちらに歩いてきた。 白装束の裾が、夜風にさらさらと揺れている。


一瞬、目が合った。


けれど何も言わず、すっと視線を外し、そのまま北の石段へと消えていった。


「ショウタローさーん!」


じいちゃんの治療を終えたソゴロウさんとソウイチが駆け寄ってくる。


「どうでした?」


「うん、明日には良くなってるってさ」


──マジかよ。この村の医療、どんだけハイレベルなんだ……


皆が御座に腰を下ろすと、背後から刺すような視線を感じた。


振り向くと、そこにいたのは──八上家の当主、タケコさんだ。


……この人、顔合わせの時も凄く感じ悪かったよな…。


いや、間違いない。 この目つき、完全に“敵意”あるわ。


てか、俺、なんかしたっけ……?


「ショウタロウくん……ちょっと、いい?」


ふいに肩をつつかれ、視線を戻すとシズカさんが手にお酌を持って隣に座っていた。


「今日はありがとう。……どうぞ」


「え、あ、俺、未成年なんで……」


「ふふ、甘酒よ。大丈夫。」


シズカさんは、ぐいっと近寄ると、俺の唇に近づけるように盃を傾けた。


「 ……それより、ねえ、少し話せる?」


「……はい」


差し出された甘酒を口に含むと、ほんのり甘くて温かかった。


俺は、先に立ち上がったシズカさんの背中を追って歩き出した。


かがり火から少し離れた場所で、彼女が立ち止まる。


「……コハルから、少し聞いたかしら。ワシオ様とのこと」


「……はい、まあ……多少……」


──き、気まずすぎるっ……


「コハルは心配してるけど、私は受け入れてるの。だから……今日のことも、忘れてちょうだい。」


……え?あんなに嫌がってたように見えたのに?


「……あ、あれ……」


なんか、ぼーっとする。 手足の感覚が遠い……頭がふらつく……おかしい……


──ドサッ。


俺はそのまま、木にもたれるようにして崩れ落ちた。


「あら……甘酒で倒れちゃうなんて、お子様ね、ショウタロウくん」


ちゅっ……


かすかな甘い音とともに、唇にやわらかな感触が触れた。


ふんわりと花のような香りが鼻をくすぐると、俺は完全に意識を失っていた。



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