第22話 ゾゾゾ……前夜祭のかがり火②
普通…か…。
この村からしたら、俺のほうが“異常”なんだろうな。
ヒグラシの鳴き声が、夏の夜風に乗って広がっていく。
「シズカ様は、アタシの姉ちゃんみたいなもんなんだよ……」
コハルが、ちらりと俺のほうに視線を向けた。
「……ああ、そうだったんだ。」
納得。どこか他人とは違う距離感があるとは思ってた。
「うん。母さんが、アタシが三つのときに死んでさ…… しばらく何も話せないくらい塞ぎ込んだけど…… シズカ様が、寄り添ってくれて……支えてくれたんだ。」
コハルの声は、さっきまでの勢いとは違って、やけに静かだった。
「……そりゃ、誰にも取られたくないよな……」
俺がぼそりとこぼすと――
「違うっ!!!」
コハルが強く否定して、思わず肩をすくめる。
「……男はみんな…っ……シズカ様を、自分の物にしようとするんだよっ!」
その言葉に、ワシオさんの姿が脳裏をよぎる。
「…まあ、美人だしな。でもさ、シズカさんって、許嫁いるんじゃないの?」
「……いるよ。……ワシオ様。」
「えっ…そうなんだ。」
許嫁なのに、あんなことするもんか?
「でも、ワシオ様が本当に好きだったのは……アケノ様。」
…アケノ様って、確か、八川家党首で、シズカさんの母親だよな……?
「アケノ様の許嫁に選ばれなかったの。 でも……シズカ様が生まれてから、ずっと、二十年……待ってたんだよ。」
「……確かに、それは……恐いくらいの執着だな。」
「シズカ様には、ちゃんと幸せな結婚してほしかったんだよっ。 でも、八幡家って、いつも“特別扱い”だから……!」
そのとき――
「おーい!!! コハルー!! 飯だってー!! かがり火も始まるぞー!!」
アキラの声が、石段の上から響いた。
「あっ、そろそろ行かないとっ! アンタも行くんでしょ?」
「そっか、そうだった!」
「アタシ先行くから! アンタも早く来なさいよっ!」
「ああ、わかったって。」
コハルは立ち上がると、駆け足で石段を駆け上がっていった。
その背中を見送ってから、俺はポケットの中のスマホを取り出した。
……カナタに、電話しなきゃ。
スマホの発信ボタンを押すと、すぐに、いつものハイテンションな声が飛び込んできた。
「ショウチャーーン!!! 待ってたよーー!!! 俺、いろいろ調べたんだけどさっ――!」
その言葉を遮るように、俺は言った。
「わりい! あんま時間ないんだっ!」
少し間を置いて、息を整えてから告げる。
「カナタ、いい知らせっつーか、残念な知らせっつーか……儀式、ハッタリだった。」
「……は?」
カナタの声が一瞬、静かになる。
「聖杯までたどり着いた。でも、中身は……ただの水だった。」
「……ま、マジ!? でも俺さっ、他にも資料とか――」
「ショウ兄ーィー!!!」
……ショウ兄???…って俺!!?
背後から響く呼ばれ慣れない言葉に、とっさに振り返ると、コハルが階段の上から手を振っていた。
やべ、時間がない。
「悪いっ! 明日終わったら帰るから、続きはそんとき話す! 一応、映像は撮れたから!」
「えっ、ちょ、待ってショウちゃ――」
ーーープツ。
通話終了ボタンを押して、俺はスマホをポケットに滑り込ませた。
そして、石段を駆け上がる。
……このときの俺は、明日の祭りを終えて東京に帰ることしか頭になかった。
それで良いと思ってたんだーー




