第14話 ゾゾゾ……満月の祈り①
誰も息をしてないんじゃないかと思うくらい、 夜道はしん……と静まり返っていた。
自分の足音だけが、やけに大きく感じる。
……こええよ……
月明かりを頼りに進んでいくと、やがて目印の鳥居が見えてきた。
「よしっ……」
気合を入れて、石段を一気に駆け上がる。
中段に差し掛かったあたりで、 スマホを確認すると――
「……きた!」
画面右上に、電波のマークがふわっと立った。
慌てて操作しようとして、手が少し滑る。
あっ……くそ、手汗で濡れてる……
思いの外、ビビってんのか!?俺っ!!
急いでシャツで指を拭いてから、カナタのアイコンをタップ。
1コールもしないうちに―― 「ショウちゃーーーーん!!!!」
耳をつんざくカナタの叫び声が響く。
「ビビるわっ! この時間にそのテンションやめろって!」
「だってさ! 昼からずーーっと連絡待ってたんだよ!?」
カナタの声を聞いた瞬間、ふっと体の力が抜けた。
……なんか、少し安心する。
「なあ、カナタ。村について何かわかった? 調べてくれてたんだろ?」
「んー……それがさ、全然出てこないんだよ……」
「えっ?」
「いや、“八鬼祭”どころか、“八鬼村”って名前すらヒットしない。ゼロ。ネット掲示板の噂すら見当たらないのよ」
「マジかよ……」
「一応、駅まではネット地図に載ってた。でもそこから先が完全に空白。衛星写真もモザイクかかったみたいにボヤけてて、道のデータも飛んでるっぽい」
「やっぱ変だよな……車で送られてきたから、方角も距離感も全然わかんねぇし。周りに目印もないしな……」
「それじゃさ、伝承のヒントになりそうな単語とか、何か他にない?」
「んー……」
一瞬考えて、パッと浮かんだ。
「あっ、あった。“聖杯”って名前の儀式道具。それと、“井戸”!」
「聖杯!? 井戸!? なにそれ、完全に中二ワードじゃん! 最高!! 詳しく話して!!」
通話越しでも分かるほど、カナタの呼吸が荒くなってる。
「お前、興奮しすぎだろ……」
「はぁ、はぁ……だってさ、今までネットにすら出てこなかった謎の村で、誰も知らない秘密に迫ってんだよ!? これ、マジで俺らの人生変わるかもしれないって!!」
だけど
……俺、マジで“地図にない村”から帰ってこれるのか……?
思わず、少し不安になる。
「とにかく、聖杯と井戸、調べるからさ!!!ワクワクするね!!!」
俺の不安なんてお構い無しにカナタは楽しそうに語る。
その時、スマホの音声が一瞬だけチラついた。
「……あ、電波ちょっとヤバいかも」
「えっ、ちょ、ま――」
プツッ――
通話が切れた。
……やっぱり、電波は不安定だな。
ポケットにスマホを戻そうとして、ふとある言葉が脳裏に浮かぶ。
シズカさん……たしか“祷り湖”って言ってたよな
気になって仕方がなくなる。
……行ってみるか
俺は再びスマホを取り出し、懐中電灯アプリを起動。
それから、録画モードに切り替える。
「これから、“祷り湖”に潜入します」
スマホを前に構えながら、昼間見つけたあの湖の方向へと歩き出した――。
祷り湖に着くと、あたりは静寂に包まれていた。
雲ひとつない夜空に、まん丸な満月が浮かんでいる。
その光が湖の水面にゆらゆらと映り込み、幻想的というより、どこか不気味な美しさを漂わせていた。
スマホのライトを落とし、ナイトモードに切り替える。
画面越しに見ると、肉眼よりも鮮明に景色が浮かび上がってくる。
白と青のコントラストが強調されて、静けさの中に妙な緊張感がにじむ。
しばらく録画を続けていると――
……ん? あれは……?
対岸の、霧がかった水辺に、人影があった。
長襦袢をまとったまま、腰まで湖に入り、胸の前でそっと手を合わせている。
――ツグミさんだ。
月明かりに照らされたその姿は、まるで絵から抜け出してきたようだった。
濡れた髪は首筋に張り付き、白い布越しに肌のラインがほんのり透けている。
……また、祈ってる?
俺は思わずスマホのズームボタンを押し、息をひそめたまま、その姿を捉えようとした。
その時――
「……ッ」
ツグミさんの体がピクリと動き、ゆっくりとこちらを振り返った。
……ヤバッ。
目が合った。




