第10話 ゾゾゾ…八鬼祭の予行②
じいちゃんの掛け声に応えるように、八木家と八幡家の人たちがぞろぞろと集まってきた。
その中で、ひときわ柔らかな空気を纏って近づいてきたのが、ワシオさんだった。
「ショウタロウくん、よろしくね」
柔らかく目尻が下がった細い目、常ににこにこと笑みをたたえている。 ふくよかな体つきも相まって、見るからに安心感がある。
……癒し系のおじさんって感じだよなあ。
そんな安らぎのひとときも束の間――
「ショウタロウ! ボサッとせんでお前も手伝え!! ガハハハ!!」
じいちゃんが、片腕で軽々と柱みたいな丸太を二本も担ぎ上げながら俺を呼んだ。
勘弁してよー……バケモンかよ、じいちゃんっ!!
がっくりと肩を落としながら、足を引きずるようにじいちゃんの方へ向かう。
その横では、女性陣たちが既に動き出していた。 大きな木のタライに米を研ぎ、せっせと炊き上げていく。
炊き出しの準備か? サクラも梅さんもばあちゃんもいる。
耳を澄ませば、薪のはぜる音と、女たちの小さな笑い声や、子どもたちのはしゃぎ声が聞こえる。
……なんか、こんな不気味な村とは思えないほど、ふつうに“生活”してるんだよな、みんな。
じいちゃんにしごかれながら、俺は黙々と作業を続ける。
丸太を持ってヒイコラ言ってる俺の隣で、
じいちゃんはというと、一本の丸太を肩に担ぎながら、
「おーい、ワシオくん、そこはもう少し手前だ!」
と、現場監督モードで叫んでいた。
「了解です〜」
ワシオさんが、にこにこしながら杭を打ち直す。
……いやいや、なにその余裕。
俺なんてもう両腕がプルプルだってのに!
「ショウタロウ!! もっと腰を落として持たんと腰やるぞ! タイガを見てみろー!! ガハハ!!!」
じいちゃんが笑いながら、横からダメ出しを飛ばす。
タイガを見ると、
腰をしっかり落とし、黙々と木材を運んでいた。
あの華奢な体のどこに、あんなパワーがあるんだよ。
無駄のない動きはまるで機械みたいだし、額には汗ひとつ浮かんでない。
なんなんだよ……人間じゃないのかよ…
俺カッコ悪すぎだろ…
「よし! そろそろ休憩だー!!」
はあー……エグすぎる……
どっと腰を下ろした瞬間、魂まで抜けそうになる。
「ショウタロウくん、お疲れ様ー」
ワシオさんが、冷えたタオルを手渡してくれた。
「……神様っすか……」
思わず声が漏れる。
ワシオさんは、相変わらずニコニコしながら麦茶まで差し出してくれた。
俺は、首にタオルを巻きながら、麦茶をもらって一気飲み。
喉の奥を冷たい流れが駆け抜けていく。
だけど、炊き出しのいい匂いはするのに、疲れすぎて、食欲がわかない。
みんなはおにぎりや味噌汁に夢中で、場はすっかり昼休みムードだ。
あっ……今だ……!
この隙に……カナタに電話しよう!
俺はそっとその場を抜け出し、石段へ向かう。
石段にたどり着くと、空気がひんやりと冷たくなっていた。
周囲に誰もいないのを確認して、俺はポケットからスマホを取り出した。




