第10話 ゾゾゾ…八鬼祭の予行①
ミタキ様が語り終えると、広間に再び静寂が満ちた。
誰も言葉を発さない。
ただ、重くのしかかる“なにか”を、それぞれが黙って呑み込んでいる。
しばらくの沈黙のあと――
「……パチッ、パチッ」
静かな拍手が、どこからともなく聞こえた。
誰かが場の空気をほぐすように手を叩き、それにつられるように、ぽつ、ぽつ、と拍手が広がっていく。
やがて、控えめながらも確かな拍手の波が、広間に満ちていった。
拍手が収まると、カガリさんが一歩前に出て、軽く咳払いをする。
「それでは、これより“八鬼祭”の具体的な手順と、皆様の役割についてご説明いたします」
……マジかよっ!
想像以上にどうかしてるじゃん、親父の実家……!!!
そりゃ逃げたくもなるわけだ。
“八鬼村”のことが、どこかの文献や記録に残ってるのか――
新聞でも古書でも何でもいいから、真実を知りたい。
とにかくカナタに共有しなきゃ!
けど、今は電話は無理だ。
(……落ち着け。とにかく、隙を見てかけるしかない)
その時だった。
「では、儀式の段取りについてお伝えいたします」
カガリ様が、淡々とした声で言葉を継ぐ。
「巫女役は、我が八乙女家よりツグミ。」
ぴくりと空気が動いた気がした。
ツグミ……って、あの、控えめで無表情な……あの子が、巫女か……。
「護衛役は、八代・八砥・八上より各一名。
八代からは“アキラ”、八砥からは“ソウイチ”、八上からは“トキミツ”を任命します。」
「えっ、俺か! やった!」
アキラが思わず立ち上がるが、すぐにゲンキチさんに首根っこをつかまれて押し戻される。
「清め役は、八川家“シズカ”、八潮家“コハル”。」
シズカさんの名前を聞いた瞬間、さっきのウインクを思い出して顔が熱くなる。
……が、
「死ね」
間髪いれずコハルが俺に小さく呟いた。
くっ……この子、怖すぎなんだよっ……!!
「そして、櫓の建設は、八木家と八幡家の皆様にお願い致します」
……やばっ! めっちゃ肉体労働じゃん……
「各自、後ほど細かい説明を受けていただきます。以上です」
カガリさんの声が、静かに広間に消えていく。
しばしの間、誰も動かず、場には重たい余韻だけが残った。
その時――
白衣の巫女たちが、左右からミタキ様に寄り添い、その腕をそっと取る。
ミタキ様は一言も発さず、ゆっくりと歩き出した。
振り返ることもなく、そのまま奥の襖の向こうへと消えていく。
襖が音もなく閉じる。
……まるで幻だったみたいだ。
次の瞬間、それを合図にしたかのように――
「パンパンッ!」
じいちゃんが手を叩いた。
「さあ!準備を始めようじゃないか! 櫓作りはこっちへ!!!」
ついに、本格的に祭りの準備が始まるらしい――




