ゾゾゾ……終わりの夏の始まり
…ジジジ…
ノイズ混じりの映像がスマホの画面に映し出される。
そこに映るのは、暗く荒れ果てた和室。
薄汚れた古そうな畳、剥がれかけた壁。
ぼやけたピントの向こうに、歪んだ柱や崩れかけた天井の影が映り込んでいる。
画面が斜めに揺れ、傷だらけの手がカメラを掴む。
ガクン、と乱れた後、アングルが修正される。
…ガサガサ…
ピントが合うと、一人の青年がカメラの前に現れた。
息を荒げ、必死な表情を浮かべている。
「皆さん、こんちゃっす! 不思怖チャンネルのショウタロウです!!!
これから俺が話すことは、間違いなく事実です! だから、みなさん!!!生きてるうちにチャンネル登録お願いします!!!」
―――――
「はい!オッケー!」
親友のカナタがスマホのカメラを俺に向けながら、オーケーサインを出す。
「ふぅ…さすがに夏にこれはキツいぜ」
俺は汗だくになりながら、頭に被っていた白く長いシーツをスルリと脱ぐ
「今回は絶対バズるよ!」
カナタがスマホを片手に嬉しそうに俺に駆け寄る。
「廃墟に映る白い影!!!子供を失った女幽霊が彷徨う事故物件に潜入取材!!!」
カナタはスマホの録画を俺に見せながら捲し立てるように続ける
「ショウちゃん、見てよ!よく撮れてるよ!」
汗をタオルで拭きながらスマホの画面に目を向けると、さっきカナタと一緒に撮影した映像が映っていた。
荒れ果てた廃墟の磨りガラスに、白い影がゆらりと映し出され、不気味にゆっくり消えていく。
「ここ!!!めっちゃよく撮れてるよな!!!」
カナタは満足げにスマホの画面を見つめた。
「って言ってもさ、ヤラセじゃん。」
俺が言うとカナタは「それを言っちゃおしまいよ!」とふてくされた顔をする。
「いやいや、演出も大事っしょ? 視聴者は本物かどうかより、面白いかどうかで見るんだよ!」
カナタはスマホを掲げてニヤリと笑う。
俺はシーツを畳みながら、大きく息を吐いた。
「とりあえず帰るか。編集は頼んだぞ、カナタ」
俺たちは、フォロワーわずか2000人の過疎配信者。
動画投稿サイトMetubeと、生配信プラットフォームユアキャスで「不思怖チャンネル」として活動している。
「次こそバズらせるぞ!」
カナタがスマホを操作しながら意気込む。
正直、俺もそうなればいいとは思う。
でも、大学受験を控えたこの夏、もう大人にならないと。
遊んでばかりもいられない。そろそろ現実を見ないといけない時期だ。
そう思っていた。
……この夏が、すべてを変えるまでは。
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