01 ある報道
奇妙なニュースだった。その原稿を読むキャスターもほんの短いあいだ、けれども確実に怪訝な表情を浮かべてしまったのを僕は見た。でもそれは仕方のないことだと思う。なかなか理解しにくい種類の内容だったからだ。
その男は川面に向けてひたすらガスガンを撃ち続けていたそうだ。最初の目撃者の証言によると日が沈む前には開始され、通報した目撃者によるとすでに日が昇ってからしばらく経っていたという。一晩中ものあいだ撃ち続けていたのかもしれないし、途中で休憩を挟んだのかもしれない。そこで賭けろと言われたら僕は前者に賭ける。まあ、どちらにしろまともとは言えそうになかった。
あまりない種類のニュースに興味を惹かれて、僕はテレビをじっと見ていた。
男性は名前の伏せられた会社員で、年齢は四十代。僕にはあまり親近感のない肩書と年齢だった。
彼は大小さまざまなキューピー人形に囲まれて、というか周囲に設置してその行為を続けていたらしい。そしてそれはなにかの目的物があったわけではなく、川のただ一点だけを目がけていたのだという。魚は狙われなかったと報道は結論付けていた。ニュースを見ている途中で気付いたが、彼がその儀式を行っていた場所はその気になれば自転車で行ける距離にあった。もしかしたら物好きな野次馬が集まっているかもしれない。でも気にする必要を僕は感じなかった。
他にこれといった情報はなかった。それでは次、とキャスターが言いかけた辺りで僕はテレビの電源を切った。
世間的には異常だけど、事件と呼ぶには微妙な出来事だった。明日になれば多くの人はこのことを忘れるだろう、と僕も思った。もしかしたら明日には衝撃的な猟奇的事件が起きてしまうかもしれない。そうなれば世間の目は確実にそちらを向くのに決まっていた。そんなものがなくても誰も注目していないような気もした。そもそも耳目を集めるような力自体がないのかもしれない。
僕は座っていたベッドに身を倒して目を閉じた。そしてできるかわからないけど、その四十代男性の心を追ってみようとした。彼の身にどんなことがあってあの儀式にたどりついたのか。世界中が見向きもしなくても、僕だけはそうしてやりたかった。