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57話 『誘い』

しばらく忙しくて更新できません

「……」

 朝の日差しがカーテンの隙間から現れると、私はゆっくりと目を覚ます。

 まだ覚醒途中の意識が捉えるのは、綺麗な赤い髪。ぼやけた視界が完全に直ると、美しい青年の寝顔がそこにあった。

「…………うわあ!」

 アルベルト様の顔を見て、私は一瞬で飛び起きる。だがすぐに、

「あ、そうだ。昨日一緒に寝たんだった」

 と、気付くことができた。

「……」

 気持ちよく寝ている夫を見て、昨夜のことを振り返る。

 私をベッドで寝かしたのは、きっと罪悪感から。そう、彼の少しばかりの罪滅ぼしだったのではないかと思う。

 でも、そう言う理由とはいえ、私を無防備になる睡眠時に隣へ置いてくれた。その事実はプラスに捉えていいよね……?

 私に少しでも心を開いてくれたと解釈していいよね?


 彼を落とすのは億劫に感じていたから、関係が良好になるのは有難い。

 最初会った時は偉そうで捻くれていて、性格の悪い王太子だと思っていた。

しかし、私は彼の不器用な優しさに触れて、きっと非情にはなりきれない優しい人なのではないかと認識を改める。


「捻くれてなければ完璧なんだけどな……」

 ふと、アルベルト様と前世で私が大好きだった幼馴染の康太くんが重なる。

 彼も不器用な優しさを見せる人だった。


「――――――って、何で私好きな人と重ねてるんだ! アホか!」


 謎に恋が始まりそうな雰囲気をぶった切る。本当にアホか私は。私が好きになっちゃ駄目なんだって!


 寝顔を見ているとあれこれ考えてしまいそうなので、

「アルベルト様、朝ですよ」

 と言いながら、彼の身体を揺する。

「………………」

「朝になりましたよ、起きてください」

 目が合って鋭い目つきで睨まれたが、私はお構いなしに揺らす。

 怖い顔をされたって、私には寝起きの悪い子どもにしか見えなかった。とういか実際そうだ。

「ほら――」

「出てけ」

「!」

「今すぐ」

「出ていきますよ、そりゃあ――」

「うるさい。早く行け」

 アルベルト様は布団を被り、猫みたいに丸まった。

「こんな朝早くに起こすな。ミュンシスタの犬」

「なっ……! ミュンシスタの犬って!」

「昨夜は情けでベッドに寝かしてあげただけのくせに馴れ馴れしく起こしやがって。思い上がるな」

「……!!」

「今後は俺に近づくな。分かったらさっさと出てけ」

「…………ええ。ええ! 分かりましたよ! 起こしてすみませんでしたね!」


 怒りを抑え、急いで部屋を出て扉を閉める。




 ……前言撤回。間違いなくあいつは捻くれ性悪王太子だ!


(あの男……! 私じゃなかったら殴られてたでしょ! 温厚で優しい私に感謝してよね!)


 平常心、平常心と自分に言い聞かせながら顔に出さないよう必死に取り繕う。

 全てはミュンシスタのため。世界平和のため。私はいついかなる時も、冷静で淑女らしくいなければならないのだから。

 その強い意志に則り、私は淑女らしく歩きながら自分の部屋へと戻る。



「リディア様よ。昨晩アルベルト様と寝室を共にしたらしいわ」

「本当ですか!?」

「あの気難しいアルベルト様と初夜を……!?」

「ですが噂では失敗したと聞きました」

「私もですわ。なんでもアルベルト様に拒まれたとか」

「まあ!」

「お可哀想ですこと」

「淑女として……ふふ。惨めですわね」


「……」


 歩いていると、聞きたくない雑音が耳に入る。

 私たちが一晩同じ部屋で過ごしたことは、宮廷中の噂になっていた。


(はあ……もう噂になってるとはね)


 地獄耳とは厄介なもので、聞きたくないのに意識したとたん遮る木陰のない日光のように容易に入ってくる。

 まあ、今の私は菩薩。全く気にするつもりは無いのだけれど。


「リディア様。噂になってるね」

「……」

 振り返らなくてもわかる。この声と敬意のない口調。

「ごきげんよう、ミリアン様。私に何か御用でしょうか?」

 歩きながらそう答えると、

「君を慰めに来たんだよ」

 と、一向に目を合わせない私を除き込んでそう言った。

「慰め……?」

 怪訝に思い、一旦足を止める。

「そうさ。だって、昨夜アル様に拒まれたんだろう?」

 ミリアン様はさも事実であるかのようにそう言った。

「夫に拒まれるなんて妻として、ミュンシスタの王女として可哀想だなって思って」

 哀れな目で、しかしどこか見下したようにそう言うが、生憎私には効かない。その噂自体が間違いであるから。

「……生憎、私はアルベルト様に拒まれていません」

「!?」

 当然のようにそう言ってのけると、彼は目を丸くして驚く。ざまあみろ。

「ですので、慰めなど必要ありません。寧ろ余計なお世話です」

 では、と軽くお辞儀をしてその場から退く。

 しかし、

「ちょ、え!? ちょっと待って!」

 ミリアン様は私を自由にしてくれなかった。腕を掴まれたため、無視することもできない。

「アル様としたってこと!?」

「いいえ。それは違います」

「2人は部屋で何してたの!?」

「何も。本当に何もありません。ただ一緒に寝ただけです」

「アル様に八つ当たりされて酷いこと言われたとかは!?」

「……」

 それは事実なので否定できない。でも、この男の慰めなんていらないため、

「いいえ。特に何も」

 と返答した。

「……そうなんだ。それ本当に?」

「ええ」

「いやー、あのアル様が八つ当たりしないとは思えないんだけど」

「なら思っていただかなくて結構です。あなたに誤解されたって私は構いませんから」

「辛辣なことを言うんだね」

「そうでしょうか? そう捉えてしまったのならお詫び申し上げます」

 一向に私を離してくれないため、

「理解したなら離してください。私は自分の部屋へ戻りたいので」

 と、少しイラつき気味に言ったが、この厚かましい男には効かないらしい。


「困ったな……」

「?」

「リディア様を慰めようと思って、街へ出る許可証を頂いたんだけど」

「……はあ?」

「ねえ、今度俺とデートしようよ」


 既婚者に何言ってんだこいつは……!

 恥ずかしいセリフを言われたことより、非常識な目の前の公爵子息様に驚くのだった。


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