6話 『謎世界』
ここが異世界だと気づいて1カ月ほど過ぎた。
中々断定できなかったが、ある出来事から断定せざるを得なくなった。
少し時を遡ろう。
「リディ様、大丈夫ですか!?」
「う、うぅ……」
「熱い……! すぐにお医者様を呼びましょう!」
私はこの日初めて熱を出した。
生まれてこの方健康に生きてきたのだが、流石に無敵の身体というわけではないみたいだ。
その後すぐに医者がやってくる。
「高熱に食欲不振、嘔吐の症状ですか?」
「「「はい」」」
「額や関節に水で濡らしたタオルを当てて身体の熱を下げればおそらく発熱も治まるかと」
「わかりました」
「しかし、悪魔に憑りつかれた可能性もありますので、エクソシストも手配しておきますね」
「ありがとうございます」
……意識が戻ったとき、私は見たことのない光景に驚愕した。
病室には、悪魔を祓うため数人のエクソシストが私の部屋へ来て謎の踊りをし、謎の呪文も唱えている。
(何この謎世界!)
「リディ様、お目覚めになりましたか!? よかった……」
「リディア様は悪魔を追い払ったようですね。熱も下がっているように思います」
クレアが私の額に手を当てて、体温を確認する。
「ええ、下がっています。お医者様、エクソシストの皆様、ありがとうございました」
「お礼なんてとんでもない! 王女様のため、我々は何処へでも駆けつけますよ!」
(エクソシストの人たちは関係ない気がするんだけどな……)
「ただ悪魔に関しては、追い払ってもまた取り憑かれる可能性もあります。今は取り憑かれやすい身体になっているため、数日はこのエクソシストたちが傍にいた方がいいでしょう」
「わかりました」
そして、数日間私は乳母とお友達の3人とエクソシストと暮らすことになった。
その間に私が熱を出すことはなかったのだが、時々謎の踊りをし、私の髪の毛や涙を拭った布巾を持っては謎の箱に入れ、それを割ったりしていた。
本当にわけが分からない。
それに、診断の結果が『悪魔に憑りつかれた』って……
なんで誰も突っ込まないんだ!
(医学と宗教が混ざった世界……確信はないけど、ここは中世ヨーロッパの世界?)
私は歴史が大好きで、よくYou〇ubeで中世ヨーロッパの文化を紹介した動画を見ていた。
そのため、もしここが中世ヨーロッパだと仮定したら、ここがどういう世界か容易に想像できる。
(この世界、現代日本でスマホ大好き人間の私には生きるの無理ゲーじゃない……?)
まず中世ヨーロッパは医学レベルが極めて低い。
病気にかかれば終了の可能性がある。外科手術で。
それにトイレもなく、その辺に糞尿を捨てていたはずだ。お風呂にも入らないため、衛生面も極めて悪い。
食事も庶民よりはマシだったが、腐った肉が出たり手づかみで食べたりなど到底受け入れられなかった気が……
何度も言うが、中世ヨーロッパで生きるのは無理ゲーだ。
私の慣れ親しんだ現代日本での慣習では、この文化で生きていけない。
(だあああああ!!! ここって中世ヨーロッパだったの!? 嘘でしょ!?)
昔のヨーロッパであれば、聞き馴染みのない単語だらけなのも納得がいく。もしかしてこの国は歴史から消された国なのかもしれない。
私は事実を確かめるため、この国の生活習慣や文化を確かめることにした。
まずは食事だ。
私はニンジンやほうれん草を細かくしたような離乳食しか食べられないのだが、大人たちはどんなものを食べているのだろう?
乳母たち2人は食事をとる際1人ずつどこかへ行ってしまう。そのため、ミュンシスタの人たちが何を食べているのか全く分からなかったのだが、運よく食事を見ることができた。
屋敷内をサリーと散策していると、厨房に辿り着いたのである。
作られていた料理を前に、私は「あ」の口を開け呆然とした。
それもそのはずで、料理は「中世ヨーロッパ」とはかけ離れたものだった。
高貴な装飾が施されたトレイの上に、焼き立てのフランスパンだと思わしきパンと、ジャガイモ? や、にんじん?などが入った具だくさんのシチューだと思わしきスープ。
いやこれ現代日本の料理じゃん!
(いや、でも見た目だけで味は日本のフランスパンやシチューじゃないのかも……?)
と思い、サリーに内緒で指に少しつけてシチューを舐めてみたのだが、ちゃんとシチューだった。
次に確認したのは、この世界の衛生管理である。
もっとも、この世界が中世ヨーロッパであるならばトイレなどあるはずないのだが……
これも探索で分かったのだが、普通にあった。しかも水洗で。
流石に現代日本のようなスイッチ一つで流れるようなものではないのだが、不快な臭いもなく綺麗な国土であることから、下水処理がきちんとされていることが分かる。
もうわけが分からない(×2)。
この可笑しな世界を『そういうもの』と安易に受け止めることのできる単純な性格なら、『美人に生まれ変われたし、しかも生きやすい世界でラッキー』と完結できるかもしれないが、私は腑に落ちないことがあるとどうしても追及してしまうようだ。
キャパオーバーして思考することに疲れたにもかかわらず、この世界がどういうところなのか追求せずにはいられない。
答えなど永遠に出ないと、どこかで分かっているのに。
しばらくの間考えて、熟考の末結論付けた。
ここは地球ではなく、私の固定概念に当てはまらない別世界である、と。