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55話 『初夜 前編』

 フェルナンド様に問答無用で連れていかれた場所は、アルベルト様がいるという部屋の前。


(やばい。ほんとにやばい……エイリ、マルタ、助けて……!!!)


 何やっているんだ私は……! なんで避妊薬を飲まなかったの!


 と、過去の私に怒ってももう遅い。フェルナンド様も目の前にいる以上、私はこの部屋に入るしか選択肢は残されていない。


「緊張しますか?」

 私の震え具合を見て心配に思ったフェルナンド様が、そう声を掛ける。

「ええ! 少々お待ちを!」

 震える身体を必死に抑え、息も整える。落ち着け、落ち着けと、自分に言い聞かせながら。

 しくじった……完全にやらかした……!

 まさか結婚式の後に初夜があるなんて。兄が結婚したときはそんなのなかったため、完全に油断していた。

 これも、プトロヴァンスの文化をきちんと調べなかった私の責任だ。


(落ち着け、落ち着くんだ、リディア。まだここから逃げる方法があるかもしれない……! ………………いや、ない。ないわ!!! どうしよう! 完全に詰みだ!!!)


 部屋に入らない選択肢はやはりもうない。避妊薬を取りに行くこともできない。

 もう私は部屋に入るしか――――――――――ん?


(待てよ。待って待って待って。私は部屋に入る。それは確定している。でも……)


 部屋に入る=そういう行為をする

 とは、決まっていなくないか?


 そうだ。部屋に入ったからといって初夜を迎えるとは限らない。

 男女が一緒の空間にいたら、全部そうなるなんて馬鹿げた話。

 そうだよ。その通りじゃないか!

 部屋に入ってもそういう事をしなければいいんだ!


 それに気づいたら、目の前がぱっと明るくなる。

 緊張も解け、身体の震えも治まった。


 そうと決まれば話は早い。如何にしてアルベルト様とそういうことをしないようにすればいいかを考えればいいから。

 彼から求められた場合……私が拒んでは、関係に亀裂が入ることになる。(すでに関係は微妙だけど)

 となれば、したいけれどできない――――――あ!


(女の子の日だということにすればいいのでは!?)


 そう。この口実があれば、絶対に私たちはすることができない。

 彼も諦めざるを得ない。

 我ながら完璧な作戦だ。


「……あの、リディア様? 覚悟は決まりましたか?」

 怪訝そうに尋ねられる。私は、

「はい! 決まりました!」

 と、元気な声で言って戦場へ赴く。

 さあ、かかってこい。という意気込みも込めて、コンコンとノックをした。


「誰だ」

「リディアです」

「来るな」

「????????」


 ほんの3秒ほどの会話を理解するのに倍以上の時間がかかる。


(ん? どういうこと? 私、断られた……?)


「あの――」

「来るな」

「???????」


 困惑し固まっていると、

「アルベルト様。フェルナンドです」

 と、助け船の如く傍にいるフェルナンド様がそう声を掛ける。

「何だ」

「困りますよ。国のしきたりに従ってもらわなければ」

「あ?」


 フェルナンド様は私からドアノブを奪うと、それをひねり部屋を空ける。


「え? うわあ!」


 そして、私の背中を押して無理矢理部屋の中へ入れた。ドアが完全に閉まると、ガチャっと鍵がかかる音がする。


「!!?!?!?!?」


 完全に閉じ込められ、困惑する。

 目の前にはふてぶてしく寝転んでいる夫がいた。



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