45話 『戦争』
戦争が始まるときは、誰にも止められない。
いつも唐突に始まり、唐突に終わるものだとどこかの国の学者が言っていた。
しかし、これは国家の利権や不和、国際状況などを何も知らない一人の一般人の意見。実際は、始まるときも終わるときのおおよその検討が付くものだ。
と、王女として片隅にそんなことを考えていたのだが、まさか私が――――――ううん。考えないようにしていただけで、分かっていたのかもしれない。
戦争を終わらせるキーパーソンも、プトロヴァンスを滅ぼすキーパーソンも、私だということを。
☆ ☆
戦争が始まるのは早かった。
戴冠式が終わり、その1日後に兵が出発したのだから兄たちは、もしかしたら父が亡くなるより前から準備をしていたのかもしれない。
とまあそれは置いておいて、戦局はというと当たり前のことだが、ミュンシスタ優勢で進んでいる。
私が何か策を用いなくても、賢い兄は無駄に兵を減らすこともなく、最小限の犠牲で最大の利益を出す戦いをしている。
例えば、プトロヴァンス内で裏切り者を作ったり、情報で攪乱したりと、戦う以外の戦略も用いて攻略していた。
その結果、瞬く間にプトロヴァンスは壊滅状態となり、戦争を始めて1カ月で白旗を掲げている。
しかし、兄はそれに応じることはなく次々とプトロヴァンスを攻めている――というのが、今の状況だ。
「ところで、父から陛下のご活躍について伺っております。先王にも負けない程の勢いで城を攻略していると」
私の自室に集まり、いつもの5人で世間話をしていた。
そして戦争の話題に私が誘導したとき、エイリがそう言った。
「流石は兄様ですね」
「ええ、フリード様は稀代の名君です」
みんなが口々に兄へ賛美を送るが、私はそれが聞きたいわけではない。
「休んでいるところを私は見たことがないのですが、リディ様は陛下がプライベートで何をしているかご存じですか?」
「エイリ、話を逸らさないで」
「!? な、何のことですか?」
「戦争の話題からお兄様の話題に逸らしたでしょう」
「そ、そんなことは……」
誤魔化すのが下手なエイリは言い淀む。
「……みんなに探りを入れるのは止めて正直に話すね。戦争関連で私に隠していることがあるんじゃないの?」
みんなが強張った表情を浮かべる。
私に隠し事をしていると思ったのは、つい最近。
宮廷人たちに向ける私への視線が妙に多くなったからだ。私を見つめる瞳は悲しみや哀れみ、そんな感情を含んでいた。
そのことを義姉に伝えたら、妙に動揺していて、そのことについては調べるから待っていてほしいと言われたが、その言葉は嘘っぽく思えて仕方がなかったのだ。
私に隠していることが戦争であるというのは、私の勘である。勘が当たっているかどうか4人を通じて調査したが、話を逸らされたあたり当たっているようだ。
「私は絶対に誰にも言わないから教えてほしいの……これは、幼馴染であり大切な友達であり家族でもあるみんなにしか頼めない」
私は隠すことはせず、思いを正直に打ち明ける。
「……では、リディ様。もしリディ様の言う通り、隠し事があると仮定したときの話をしましょうか」
沈黙を打ち破るようにシノがそう言うと、
「シノ様! このような話は……!」
マルタが遮るようにそう言った。
「マルタ様、落ち着いてください。私はあくまで隠し事があるということを仮定して話を進めているのです。この件に関して肯定も否定もしていません」
冷静にそう返すと、
「リディ様。あなただけに知られたくない秘密というのは、言わば知ってしまったらあなたが傷ついたり悲しんだりするということに繋がるのではないですか? フリード様はそれを危惧しているからリディ様に知られたくないのだとしたら、あなたが知ろうとするのは兄の意思と反していることになりますよ」
と、物事の核心を突いたような言い分をする。
いつも悪いことを考えているシノからは想像できないほど真剣な表情だった。
「そうね」
シノの言うことは正しい。だけど――――
「でも、私は私に隠していることでお兄様が傷ついているのが嫌なの。私も力になりたいのに、お兄様は一人で解決させようとしている。きっと私に話したら解決することなんじゃないの?」
兄は最近かなり精神的に参っているようで、過労だけではないことが窺える。
毎日そんな辛い兄を見るのは苦しい。義姉や臣下たちもそんな兄を心配する声を多く上げていた。
(お兄様の苦しさを無くすことができるなら、私はなんだってしたい)
でも、そんな願いはやはり聞き入れてくれなかった。私の大切な家族や友人、侍女たちであっても。
だから私は考察するしかなかった。
戦争関連で私に知られたくないことを。知ってしまったら、私が悲しむあるいは――――――
「――――――もしかして……」
確証など無い。だが、恐ろしいほど確信できる答えが見つかった。
☆ ☆
「……お兄様」
執務室に籠りきりの兄の元を尋ねる。コンコンとノックをして返事を確認すると入室した。
「尋ねたいことがあります」
「何だ、リディ」
優し声を取り繕っているが、睡眠不足からかイライラが隠しきれていない。
そんな兄を一時的に地獄に突き落とすことを許してほしい。
「私がプトロヴァンスに嫁ぐのは本当ですか?」
「――――――!」
私の結論に確証はなかったけれど、兄の顔を見て今それを得た。




