44話 『戴冠式』
お父様、私を助けてくれてありがとう。私を愛してくれてありがとう。
あなたに生かしてもらった命、大切にします。決して無駄にはしません。
どうか、天国で見守っていて――――――
「お父様、今までありがとうございました」
私は葬式に参加できなかったため教会に行き、こうして父への感謝を告げる。
「レオン、サリー、クレア。心配かけてごめんなさい。そして、心配してくれてありがとう」
私は一緒に教会まで付いてきてくれた3人にそう言った。
「当たり前だろう。姉さんを心配するのは弟として当然じゃないか」
「そうですね。レオン様の言う通り、心配するのは当然ですわ」
「ええ。何はともあれ、リディ様がこうして前を向いてくださって私たちは嬉しいですよ」
3人との会話で、私は日常に戻ったのだと痛感する。
「……リディ様、前と雰囲気変わりました?」
「私もそう思いました。大人びたというか……」
サリーとクレアは不思議そうにそう尋ねる。
「サリーもクレアも姉さんが変わらない方が可笑しいじゃないか。目の前でお父様を殺されて、何も思わないわけないよ」
と、レオンは私の代弁をする。
「ふふ、みんな可笑しなことを言うんだね。私は変わってないよ」
私はクスッと微笑んでそう言うと、
「ただ、覚悟を決めただけ。プトロヴァンスを滅ぼすつもりのお兄様について行くというね」
改めて決意を露にした。プトロヴァンスを滅ぼすのは容易くない。戦争をすれば勝ちはほぼ確定しているが、勝ったとして滅ぼすことに直結するかと言われればそうではない。
滅ぼすには、長い年月と時間が必要だ。
その長い年月の間、私はどんなことがあっても兄について行くのだと覚悟を決めた。
「……兄様の戴冠式の後、正式にプトロヴァンスへ攻めることを宣言するらしいね」
「そうね」
きっと国民は熱狂するだろう。兄は、歴史に残る偉大な名君になるだろう。
「兄様は優秀だから助けなんていらないかもしれないけれど、困っている時は僕たち2人で兄様を支えていこう、姉さん」
「うん」
兄の戴冠式は刹那のように始まった。
私たちの予想通り国民は熱狂し、若く美しく優秀な国王の誕生を憂いている。
それは戴冠式でのスピーチにある。
誰もが感動し、その場にいる者を傅かせるほどの力があるスピーチは、ミュンシスタの誇り、偉大さに満ち溢れていた。
こんな素晴らしい国の一員であることに誇りを感じると同時に、プトロヴァンスへの憎悪が生まれる。
こんなにも誇らしい国のトップを、プトロヴァンスの手によって殺されたから。
許せない。許せない許せない。
誰もが憎悪に染まったとき、国王は国民が一番望んでいる言葉を言った。
『こんな野蛮で残虐な民を生かしておけない。プトロヴァンスを攻めることは、我々ミュンシスタの使命だ』
その言葉を聞いたとき、聴衆はよりいっそう拍手喝采となり、『国王陛下万歳』とコールが始まる。
こうして、稀代の名君フリード1世が誕生した。




