38話 『歴史は動く』
お父様がリディの元へ来た経緯について補足
リディが今日一日ほとんど食べていないことを心配し、自分のパンをあげるよう提案しようとリディが向かった部屋を目指す。部屋に入るとリディがいない。ここへリディが来ていないことを女性から知らされる。リディを探すため、フリードに兵士を集めることを要請。フリードが兵士の招集をしている間に、なぜか鍵がかかって入れない部屋を見つける。リディがいるのではと心配に思い、武器を取りに行くのも時間がないので、拳で扉を破壊。
という経緯で、リディの元にお父様が来ました。
「私の娘に手を出したんだ。命はないと思え」
父の登場に唖然とし、固まった目の前の男は隙ができる。
「ぐはっ!」
それ幸いと、私は顎を膝蹴りし、拘束から逃れた。
「よし!」
「リディ、まだ起き上がるな!」
父が体制の崩れた宿主へ飛び乗り、床に叩きつける。
「くっ……!」
「私のタックルを受けても倒れないとは、なかなかやるな……」
「あなたも、50歳くらいのおじいさんのくせに、かなりの剛腕ですね」
上に乗っていた父が、宿主に蹴り飛ばされる。そして彼が起き上がると、父は腹部を思いっきり殴られてしまった。
「うっ!」
「僕は元軍人なんだ。おじいさんに負けるほどヤワじゃないんでね」
攻撃を受けて弱っている父に、宿主はさらに蹴りを入れる。
(どうしよう……お父様が劣勢だ)
老いが一番の要因だが、少ない食事に旅での疲労。それに、先程の扉の破壊でかなりの力を使ったはず。父を弱らせる環境は揃っていて、本調子ではないことは明らか。
しばらく攻防戦を繰り広げるが、時間経過とともに父の動きは鈍っていった。
(何か私にできることは……えーと、えっと……)
そうこう考えているうちに、父が宿主に下敷きになる構図が完成する。彼が拳を振り上げ、父の身の危険を感じ、私は咄嗟に戦いの渦へと入って行った。
そして、横から全力で彼の顔面を殴る。
「!?」
しかし、私の攻撃は全く効いておらず鋭い目つきで睨まれると、
「君は間に入ってこないでくれるかな?」
「リディ!」
元軍人の強烈な拳が飛んできて、私は咄嗟に目を瞑る。
……………………………拳が、飛んでこない。
恐る恐る目を開けると、
「お父様!」
父が宿主の拳をお腹で受け止めていた。
「私の娘に手を出したということは、覚悟はできているんだろうな?」
父は空気を切り裂く拳で、宿主の左頬を殴る。
「っ!!」
宿主は勢いよく吹き飛ばされ、完全に機能停止となった。
「はあ、はあっ」
「お父様!」
倒れる父を私は受け止め、ゆっくりと楽な体制になれるようしゃがんだ。
「リディ、怪我はないか?」
「は、はい」
「ならよかったよ……」
「あの、お父様……」
「謝罪は後で聞く。フリードが来るまで休ませてくれ」
そう言うと、父は私の肩に倒れ身を預けた。
その様子に、私はいたたまれない気持ちになる。
父が助けてくれた嬉しさ。そして、こんなことになってしまった申し訳なさ。
私が狙われたのは、確実にあの人のせいだ。私があの人に余計なことを言ったから、こんなことになったんだ――――
「お父様、ありがとう……ごめんなさい――――――――――え」
「ぼ、僕の勝ちだ…………」
血の付いたナイフが、コロンと床に落ちた。
☆ ☆
リディ。お前が無事でよかった。
怖かったよな。恐ろしかったよな。
怖い思いをしても戦おうと拳を振り上げるなんて、流石私の娘だ。
私は誇らしく思うぞ。
おいおい、反省しているのは分かっているから、そんなに悲しい顔をするな。
確かに許可なく移動したことには怒っているが、そんなことよりお前が無事であったことが嬉しいんだ。怒りなんて忘れるさ。
リディ。明日にはみんなで一緒に帰ろう――――
「ごはっ!」
一瞬にして血が喉を駆け上がり、血反吐を吐く。
「っ!!!!?」
胸部に耐えられないほどの痛みが生まれる。
そして、その痛みの後、呼吸することが困難になっていった。
「お父様!!!!!!」
胸を押さえてうずくまる。
声を発することもできない。この状況は、長年戦場にいた経験からすぐにわかった。
私は、ここで死ぬのだと。
泣き崩れるリディが見える。
泣くな。
私はお前の笑った顔が好きだ。
「リ、ディ……」
リディの顔に手を伸ばし、涙を拭う。
リディ、フリード、レオン。心から、愛している――――――
アンナ。今からそっちに行くから待っていてくれ。
ミュンシスタ王国、国王ジョセフ2世。
享年54歳、崩御。




