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37話 『事件』

 まだ敵国の王太子登場してません! すみません!

 うっすらと青白く輝く満月。時というのはあっという間で、気付けば一日は終わりにさしかかっていた。満月の美しさはどこか妖艶で、神秘的な魅力をはらんでいた。

 まるで、何かを見透かしているような――そんな雰囲気を纏う。


「明日にはこの生活も最後だな」

 父が固いパンを見つめながらそう言った。

「長かったような、短かったような、今となってはこの経験はいい思い出になるような気がします」

「姉さん正気? これがいい思い出って」

 レオンが怪訝そうに尋ねる。

「苦労したことは必ず私の人生の糧になると思うの! だからいつか思い返したら経験してよかったって思えるんじゃない?」

「そうかなあ。僕はただ嫌な思い出になると思うんだけど……」

「ポジティブに考えようよ。どうせ過去は変えられないんだから」

「この状況を肯定的に受け止めるなんて、リディは大した奴だな」

「ふふ、ありがとうございます」

 しばらく家族で談笑しながら食事をすると、私は本題に移るため咳払いをして、

「お父様、お兄様。お願いがあるのです」

 と言った。

「どうしたんだ、言ってみろ」

「私が助けた女性を……あのままにしておきたくないのです。だから、彼女の境遇を救う手伝いをしていただけませんか?」

 レオンと話していて気付いたことがある。それは、私の力では彼女を本当の意味で救うことはできないということだ。食べ物や飲み物を与えても、根本的な環境が解決しない限り、一時的な支援などかえって迷惑である。

 そのため、根本的な問題を解決するにはどうするべきかと考えた。

 しかし、考えうる限りの支援はどれも父と兄の許可がいることに気付く。私の力ではどうすることもできないと分かったら、潔く2人に協力をお願いするしかなかった。

「リディ。助けたい気持ちは分かるが、倒れている状態からこの宿に無料で宿泊。そして、食べ物と飲み物も提供している。これで十分だと――」

「まあすぐに否定するな、フリード。一応願いだけでも聞いてみてはどうだ」

「ですが――」

「それでリディ。私たちにしてほしいこととは何なんだ?」

 兄の言葉を遮るように父はそう言った。

「ごめんなさい。それはまだ彼女から聞いていないので分からないのです……」

 そう返答することしかできないので、私は不甲斐なく思う。

「今から食事を渡しに彼女に会って来るので、その時に境遇を聞き、必要な支援を考えます。だから少し待っていてくれませんか?」

「わかった。内容を聞いた上で私たちは行動するかしないのか判断するとしよう」

 こうして私は部屋を後にした。



 私たちの部屋から50メートルほどにある彼女の部屋の扉の前に立ち、コンコンとノックをする。

「……」

 返事が聞こえてこない。また寝ているのかな? そう思い、

「開けますよ」

 と、一声かけてドアノブに手を伸ばす。すると、

「どうしたんだい? お嬢ちゃん」

「!?」

 後ろから知らない男の人の声に呼ばれ、驚いて振り返る。

「あなたは……」

「ここの宿の主さ。君には1回会ったことがあるね」

「!」

 どこかで見たことがある顔だと思ったら、ここの店主だったか。そういえば受付をするときにいたことを思い出す。

「お嬢ちゃん、ここの部屋は誰もいないけれどどうかしたのかい?」

「えっ!? そんなはずはありません! 私と父でここの部屋の宿泊手続きをしたのですから!」

 予想外のことを言われ困惑する。

「ああ、そうだね。ここには女性が宿泊していたね。でも、この部屋からネズミが出てきて、部屋の変更を申し込まれたんだ。だから彼女は今別の部屋にいるよ」

「そうなのですか!?」

「彼女に何か用があるのかい?」

「はい。このパンを渡そうと思って……」

「それじゃあ僕が案内しようか? 少し遠くの部屋になるのだけど」

「あー、えっと……」

少し遠くなる。私はその言葉を聞いて少し不安になった。

父たちからはなるべく動くなと言われている。私がここ周辺から出たなら、きっと心配するだろう。

 でも、今行かなければ……

「どうしたんだい?」

 宿主が不思議そうに首をかしげる。

「いや、その、遠くなるなら……」

 父たちに許可を貰おう。そう思ったのだが、

「遠くって、1階に行く()()だよ」

 と、店主が再び不思議そうにそう言った。

「1階……」

 確かにたかが1階に行くだけ。それに、ここで断れば店主にも怪しまれてしまう。

「わ、かりました。それでは案内お願いします」

 私は父や兄の許可なしに、この人について行くことを選んだ。



「着いたよ。ここが彼女の部屋さ」

「案内ありがとうございました」

 案内されたのは、1階の一番奥の部屋だった。

 早速私はノックをし、一声かけて部屋に入る。


「!!!?」


 一瞬何が起きたのか分からなかった。ただ一つ言えるのが、扉を開けた瞬間、私が突き飛ばされたということ。

 勢いよく背中を押され、私は固い床に頭をぶつける。

「痛っ!」

 そして『ガチャ』と、鍵をかける音が聞こえた。


「――――――!!!」




 鍵をかけた人物を見て、私はすべてを察した。



 ――――――これは、罠だ。


「ごめんね、手荒な真似をして」

 月明かりに照らされた宿主の恐ろしい顔は、私が今まで生きてきて初めて向けられるものだった。

「っ!!!?」

 助けてという間もなく、宿主は私の口を手で押さえ、言葉を発することを禁止される。

「君、プトロヴァンス人だけどミュンシスタのことを庇っているんだろう? あんな恐ろしい国の肩を持つなんてイカれてるね」

「!!!!!!?」

 その言葉で、私はここに連れ去られた原因の人物が誰なのかすぐに分かった。

「ミュンシスタ……ミュンシスタのせいで、僕は今夢を諦めてここでやりたくもない仕事をしている。プトロヴァンスにとって憎い国の擁護をするってことは、分かってるよね? 君はもう自国にとって必要ない人間だってこと」

「~~~~~!!!!」

 必死に助けを求めようとしても声が出せない。息が詰まりそう。

 私は全力で力を振り絞っても、この人にはびくともしなかった。

「暴れても無駄さ。僕は元兵士なんだ。君みたいな若い女の子が敵う相手ではないよ」

 恐怖から解放されたくて身体をじたばたさせる。持ちうる限りの抵抗をした。

 でも――――――

「さあ、君はどうしたい? 先に殺されるか、侵してから殺されるか」


「~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!」


 声にならない悲鳴。嘘でしょう? 私、こんなところで死ぬの……?

 マルガレータ様の元でせっかく学んだのに。

 私には王女としての使命があると思っていたのに。

 こんなあっけなく死ぬの?


 そんなの嫌だよ。まだ死にたくない。


 だからお願い。誰か、誰か助けて――――――



『バキィ!』


「「!!?」」


ドアがバキバキ壊れる音と共に現れたのは、大好きな父だった。


「う、嘘だろ……あの分厚い扉を……!」


「私の娘に手を出したんだ。命はないと思え」


 今までにないくらい低い声で威嚇する父は、最高にかっこよかった。


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