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33話 『マルガレータ・エステル』

「この暴動は仕込まれたものよ。そして、黒幕の目的はあなたたち。あなたたちを国に帰す途中で、無防備になったところを攫う予定なのよ」


 マルガレータ様の言葉に衝撃を受け、理解が追い付かない。その理解を補うため、淡々と詳細を話し始めた。

 

 暴動は無害な国民が主導していた。そして、代表者の男性を説き伏せ、この暴動は解決するつもりだったのだ。

 しかし、一発の銃弾が男性の頭を打ち抜く。それはあまりにも不自然だった。男性は誰の目から見ても明らかに無害。殺す必要などない。

 それを見て、マルガレータ様は察した。この暴動の陰には黒幕がいると。そして、男性を撃った兵士は暴動を大騒ぎさせるために動いたことも。

 ちなみに、男性は黒幕に脅されているとマルガレータ様は推測している。

 暴動を大騒ぎさせて、私たちを学校から追い出すことが目的だったのだ。暴動が収まりそうだったため、焦って撃ってしまったのではないかと推測している。

 リーダーの男性を撃たれたことで、混沌が始まった。銃声も響き、その場はパニック状態になる。

 そしてその混乱に乗じてマルガレータ様を狙う者が、彼女の左腕を撃った。

 というのが、暴動の概要だった。



「ここまで聞いて一つ気になったことがあるのですが……」

「どうしたのリディア、言ってみなさい」

「マルガレータ様を狙った者は、わざと左腕を狙ったのでしょうか? それとも急所を外したのでしょうか?」

 狙撃手がマルガレータ様の命を狙っていたのか、それともわざと急所を外したのか。それが気がかりでならない。

「おそらくわざとだと思うわ」

「どうしてですか?」

「私を殺す理由がないからよ。目的はあなたたちを外に出すこと。であればあの暴動を大事にするため、私を撃ったのではないかと推測しているわ。私が撃たれたとなれば一大事だしね」

「た、確かに……!」

それを聞き、私は納得して頷く。

「ふふ、黒幕は私が撃たれたのは事故としたかったのでしょうけど、目論見が外れたわね」

 不敵な笑みを浮かべ、そう言った。

「国民に銃を向ける兵士がいなくてよかったわ。銃を使って場を収めようとしたのは許されないけれど、そこは褒めてあげなきゃね」

 マルガレータ様は笑顔でそう言うが、やはり怒りが隠しきれていない。


「ここまでの話を聞いてみんなに質問よ。黒幕とは何者でしょうか?」

「それは……」

「プトロヴァンスに決まっています」

 マルタはすぐ断定してそう言った。

「……そうね。あまり憶測で話したくはないのだけれど、プトロヴァンスによるものだと私も考えているわ」

「……」

「だからリディア、お願いがあるの」

「何でしょうか?」

「私の代わりに手紙を書いてくれない。宛先はフリードよ」

「は、はい!」

「そして、書いたらオウナーフクロウに届けてもらうわ。私、フリードが番のオウナーフクロウを持っているの」

「オウナーフクロウ!?」

「兄様は番登録しているのですか!?」

 青い翼に虹色に光る瞳。その神々しい姿は、私たちを魅了する。

 オウナーフクロウ。どんなところから飛ばしても、絶対に番の元へ飛んでいく習性を持っている。

 この習性を利用し、主に機密文書を伝える際活用するのだとか。

 普段情報を伝える際は、おおむね1週間ほどかかるのに対し、オウナーフクロウは1日ほど。とても利口なフクロウなのだ。

 そして、オウナーフクロウはとても希少で、番登録しているのが1羽でもいればすごいと言われている。

「ええ、機密文書を届けるにはこの子が最適でしょう。兎に角、このことは早くミュンシスタに知らせないとね」


 兄に届ける内容は以下の通り。

・プトロヴァンスが人質として私たちを狙っていて、今日本格的に動き始めたこと。

・私たちが国に帰るのかここに残るのかは、国王の判断に任せること。

・万が一国に帰る選択をするのであれば、護衛として5万ほどの兵を派遣するべきだということ。

・早い返事を求めていること。



 2日後、兄からの返事がきた。

 その返事に則り、私たちは国に帰ることが決まった。

 今、急いでトルティ王国に向かっている最中だという。

軍は、父と兄が率いるミュンシスタ最強の強者つわもので構成されている。その数およそ5万人。これはプトロヴァンスへの牽制も兼ねているのは言うまでもない。



 不安や悲しさ、また父兄に会える嬉しさ。色々な感情でいっぱいになっていると、その時はすぐにやって来る。

 地も震えるほどの壮大な足音と共に、5万の大軍を引き連れてやってきたときは、その圧巻さに本当に驚いた。

 そしてそのまま父兄との再会の余韻に浸る時間もなく、身支度を整え出発することになった。



 出発の日。その日も、

「本当に行ってしまうのね」

「はい。マルガレータ様やほかの学生の皆様に迷惑をおかけすることはできませんから」

「……あなたたちの選択に口出しする権利は、私にはないわ」

 そう言ってマルガレータ様は左手を上げると、門が瞬く間に開場した。

「今までよく頑張ったわね、リディア、レオン、エイリ、シノ、マルタ。離れていても、あなたたちは私の大切な生徒よ。気軽に手紙を送ってくれると嬉しいわ」

 私たちは最愛の叔母であり尊敬する師に、最大の敬意を表す。

「マルガレータ様、今まで本当にありがとうございました。ここで学んだことは決して無駄にはしません。私はミュンシスタの王女として、恥ずかしくない生き方をします」

 私に続き、みんなも丁寧にお礼を言った。

 ここでの生活が蘇る。どれもかけがえのないものばかりだ。ただ一つ後悔があるとすれば、兄と違って、私はマルガレータ様の公務に同行できなかったこと。

 兄より2年短い留学期間なので仕方ない部分はあるが、残念である。一度、彼女がどのような仕事をするのか見たかった。


「あなたたちはこれからの人生、波乱万丈に生きるでしょう。権力者に翻弄される人生かもしれないし、権力者になって翻弄する人生かもしれない。ただ、どんな人生を歩んだとしても、私が望んでいるのはただ一つ。幸せになりなさい。これが、私のただ一つの望みよ」


 その時初めて、尊敬する師が母親の顔に見えた。



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