30話 『暴動 後編』
「っと、こっちからの方が近いよね」
私は急いで向かう。ここへ来た初日、石造りの塀の外からでさえ見えたトリニティアカデミーの図書館のバルコニーに。あの場所なら、どこにいても見ることができる。思い切り叫べば、声も届く範囲にある。
齢15歳、普通の令嬢なら飛び越えるどころか降りられない木も、幸い私は軽々と行うことができる。
父の遺伝子のおかげか、生まれつきの運動能力が高くてよかった。体力もあってよかった。
「姉さん!」
「っえ!?」
腕を掴まれて後ろに倒れそうになる。
「レオン!? なんでいるの!」
倒れそうになる私をレオンが支えてくれたおかげで、怪我をせずに済んだ。と、このことは置いておいて、
「危ないでしょ、戻りなさい!」
「戻るのは姉さんだよ! 今からでも一緒に戻ろう」
「でもマルガレータ様が……」
「姉さんが行ったところで悪化するかもしれないだろ! もっと冷静になって」
「わ、分かってるけど……あー、もう! 時間ないし付いてきて!」
こんなところで言い合いをしている暇もないので、仕方なくレオンも連れていくことにした。
「あ! ちょっとどこ行こうとしてるの!?」
「図書館のバルコニー! あそこなら全員が注目できるでしょ」
急がなきゃ。もし手遅れになったら――――――
私たちは、体力の許す限り全力で走った。
☆ ☆
「はあ、はぁ……」
「姉さん大丈夫?」
「う、うん……」
流石私の弟だ。私より体力があるし、運動能力も高い。私は全力疾走だったのにもかかわらず、レオンはまだまだ余裕の表情を浮かべていた。
「そ、それより……」
何が起きているのか知りたい。視界がくらむ中、レオンに支えられ私はあと少しのバルコニーを目指した。
「はあ、はぁ、ありがとう、レオン」
バルコニーの手摺に体を預け、そう言った。
「…………」
「? レオン?」
「ね、姉さんあれ……」
「え?」
ぼやける視界の中から懸命にマルガレータ様を探す。視界に捉えることができるよう、懸命に。
「……………………………………え?」
それを見たとき、疲れや身体中に廻った熱さは一瞬でなくなった。
ただ、目にしたものが信じられなくて、信じたくなくて、私はその場でしゃがみ込む。
「う、嘘……………………」
信じたくない。信じられない。どういうこと? 何が起きたの?
そんな感情より、
「うわあああああああん!!!!」
辛くて、現実を受け止めたくなくて、涙が止まらない。鼻水が垂れてくる。口の中にわけのわからない液体が溢れ返り、嗚咽まじりの咆哮はみっともなく響く。
私が見たのは、彼女を介抱する兵士と、真っ赤に染まった身体。
(嘘。嘘だよ。どうして………………)
私は暗くなった世界を彷徨い、気が付いたらそこそこ見慣れた天井が視界に入っていた。




