3話 『衝撃の事実』
生まれ変わってから半年は経った。寝返りを成功させ、食事も母乳からお粥のような離乳食になったため、6カ月過ぎたことは間違いないだろう。
ハイハイができるようになったためベビーベッドを卒業し、行動範囲が増える。
だが、慣れない身体のせいなのかよく転ぶ。この前は転んで机の脚に頭をぶつけたためすごく痛かった。
気を付けようと試みても目に映るものすべてが新鮮で、好奇心が抑えきれない。
そのため、今日とて立派に部屋を探索しているのだ。
一緒に育ったお友達もいろいろなものに興味があるらしく、窓の外に釘付けになったり、動くおもちゃを永遠に眺めていたりと、私と同じように好奇心旺盛だった。
半年ほど経てば、いろいろなことが分かってくる。
まず、私の転生先は日本ではないのは確かだ。
その根拠として、出会う人全員が明らかに日本人顔ではない。そして、言語も違う。これだけでもう根拠として十分だろう。
金髪や赤髪、茶色が主流の髪に、彫の深い顔。西洋の特徴が強いため、ここはイギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国なのかもしれない。
私の顔も例に洩れず、亜麻色の髪に緑の瞳という日本人じゃ絶対にありえない特徴を持っていた。
窓に映る私の顔を毎日見ているのだが、結構な美形である。これは転生ガチャ成功かもしれない。
次に、言葉である。
私は英語が苦手なのだが、赤ちゃんの頭は物覚えがよく、お世話をしてくれる乳母たちの言葉がある程度わかるようになってきた。
ただ、リスニングになれてきたからと言ってスピーキングができる気はしない。
ああ、あれこれ考えていたらまた眠気が……
私は床に突っ伏して寝てしまった。
「――――ってことがあったんだ!」
目を覚ますと、フカフカの布団の上に仰向けになっていた。
「あ! リディ、目が覚めたのか!?」
兄が私をのぞき込む。
「ごめんリディ、起こしてしまって……!」
いいのよ、と私は微笑む。私は兄が来てくれて本当に嬉しい。
「あーう」
大丈夫だよ、と言ったつもりなのだがなかなか上手く発音できない。
「リディは優しい子だな」
まるで私の言いたいことを見透かしたように、兄は微笑んでそう言った。
「リディ、今日は久々にお父様から手紙が届いたんだ!」
(…………ん? お父様?)
「お父様は戦地にいて、リディが生まれてから一度も帰ることができなかったんだが、やっと会えるぞ! よかったな」
混乱する私を置いてきぼりに、兄は話を進める。
「なんだ? 嬉しいか!? ……そうだな、嬉しいな。お兄ちゃんもだ。僕も、お父様にずっと会いたかった!」
兄は本当に嬉しそうにしている。
私はというと、父はいないものだと思っていたため驚きひっくり返ってしまった。
「お父様はすごい人なんだ! 戦に強くて、各国から獅子王なんて呼ばれている。それに、民衆にも慕われて、お父様がこの国を治めてから一度も反乱が起きていないんだ! すごく立派な王様だと思わないか!?」
(ん? んん???)
「僕もいつかお父様みたいな立派な王様になりたい。そして、プトロヴァンスとの戦争を終わらせるんだ。もちろん、ミュンシスタの勝利で」
(?????????)
「リディ、お前は王女として生まれた。だからきっと波乱万丈な人生を歩むことになるだろう。辛い思いも、たくさんするだろう……でも、強く生きるんだ! そして、王女として人々を幸せにするんだ! 決して権力に溺れるな。民を導くこと、これが王女として生を受けたリディの使命だ。このことを、どうか忘れないでくれ」
そう、強い想いで兄は私に語りかける。真剣な表情は、これらの話が嘘ではないことを証明している。
ど、どういうこと?
実のところ、言葉の壁で何を言ったのか後半の方は全く分からない。
だが、大事なことは聞き逃さなかった。
父は王様で、兄は王子様? そして、私は――――
(お、王女様ってこと!!!?)
衝撃の事実に、私は驚いて声も出せなかった。