22話 『最強国家への道のり』
兄が帰って来て数えて10日ほど。
黄炎病の脅威から国を守るため、兄は今日も今日とて奮闘していた。
(すごい匂いだな……)
私は様子が気になり匂いのする厨房の方へ行くと、予想通り兄と数人の従者が鍋とにらみ合っていた。
「お兄様、何してるの?」
「おお、リディか」
振り向いた兄はいつもと変わらない笑顔だが、額にはうっすら汗が浮かんでいる。
蒸留装置? だろうか。兄は謎の液体を蒸発させ、その蒸発した液体だけを集めている。
鍋のその先に管が伸びており、その先からちろちろと液体が落ちているのだが、私はその正体を一瞬で当てることができた。
「アルコールを作ってるの?」
この鼻がツンとなるような独特の匂いは、アルコールで間違いない。
「よく分かったな、リディ」
「まあね。作り方は知らないけど」
「アルコールは酒を何度も蒸留させることで作られるんだ。ちなみに、アルコールは何に使われるか知っているか?」
「もちろん! 消毒液でしょ」
「正解だ。よく勉強できているな」
(本当は前世の知識なんだけどね……)
前世ではアルコール消毒は一般的でしたなんて言えないため、身に余る称賛を受け取った。
「ま、まあそれよりアルコール消毒液を何に使うの?」
確かアルコール消毒液はミュンシスタではあまりメジャーなものではなかったはずだ。東方の技術として忌避されているため、作ったところで売れるとは思わないのだが……
「ああ、それは黄炎病対策さ」
「!」
「黄炎病はきちんと予防すれば怖い病気ではないが、衛生管理がずさんな地域では恐ろしい病となる。致死率はほぼ100%だからな。だからアルコール消毒液をたくさん作って、農村地域に配ろうと思っていたんだ」
「なるほど!」
「まあ、それですべて解決とはいかないんだがな」
「そうだね。飲み水とか、下水処理とかはアルコール消毒液を配って解決させることはできないからね」
「ああ。だからアルコール消毒液と並行して井戸水の調査も行っているところだ。お、ちょうどアルコール消毒液ができたぞ」
フラスコに溜まったアルコールを兄は嬉しそうに見せる。
「ほんとだ!」
「みんな、今の作り方で大丈夫だ。あとはこれを1日10リットルは作ってくれ」
「「「「かしこまりました」」」」
「これが終わったら次は農村へ視察して、議会に出席して、やることだらけだな」
兄はやれやれと頭を悩ませている。
「ごめんね、私邪魔しちゃったかな。もう行くね」
申し訳なく思い私は場を後にすると、
「リディが来て邪魔だなんて思ったことはないさ。いつでも来てくれていいんだぞ」
兄は私の頭を撫でながらそう言った。
「次の授業は何だ?」
「経済学だよ」
「そうか、頑張れよ」
「うん!」
兄に激励を貰い、私たちはそれぞれの行くべき場所へ赴いた。
(お兄様がいれば、この国はもっと豊かで強い国になること間違いないね)
私の予想通り、兄が帰って来てからというもの、マルガレータ様の元で学んだ手腕を発揮し、議論がまとまらず停滞していた黄炎病の施策は驚異的な速さで講じられた。
黄炎病対策は、国民に外出の自粛を進めるべきだという人と、それに反対している人とで分かれ、足並みがそろわない状態だったのだが、気づいたときにはもうその状態も改善し、一丸となって公務に取り組んでいた。
ミュンシスタがどちらを選んだかと言うと、自粛を求めない方針を選択した。
国民に自粛を求めるのは、リスクが高いと判断したためである。
活動の自粛ではなく、衛生管理を整え、清潔を保つ。
そして、免疫力を低下させないため、国民に規則正しい生活ができるような政策も打ち出した。
例えば、国民の税を一時的にゼロにする政策である。国民は、自らの生活の安定と税を納めるため、程度の差はあれ毎日長時間労働をしている。また、中には無理な労働で睡眠時間が奪われ、不規則な生活を送っている者もいるのだ。そうなると、掃除や食事に気を使う暇もなくなり、不規則な生活と不衛生な環境から免疫力が低下することは必然だ。
それに気づいた兄は、税を免除し国民の生活を豊かにすることで、それらを改善しようとした。
結果は大成功。安定した休息を取れるようになった国民の生活習慣は改善され、健康状態に良い兆しが見られた。
その他にも様々な良い政策を打ち出したことで、ミュンシスタの黄炎病患者はほぼ0となった。
これは、諸外国から見たら異常なことである。
他の国は黄炎病をどうしたら治せるのかに着手し、医師や何故かエクソシストを支援している。しかし、ミュンシスタはどうしたら罹らないかに着手し、病気を事前に防ぐことに力を入れていたことが要因であるのは間違いない。
黄炎病対策が終わったら、今度は国防やインフラ整備など、家臣や義姉たちと協力して次々と革新的な改革を進めていった。
ミュンシスタはかつてないほどの繁栄を築き、もうだれも『敗戦国』だと嘲笑う人はいなくなる。
一方プトロヴァンスでは、王妃が亡くなったことで不穏な空気が漂っていた。




