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21話 『馴れ初め』(フリードside)

「結婚してください!」


(…………………………は?)


 初めて会った令嬢にいきなり求婚された。

 わけが分からなくて一瞬フリーズする。困惑した頭を整理すると、

「いや、無理なのだが」

「………………………え?」

「だから、無理なのだが」

「????????」

「じゃあ」

 と言い、非常識な令嬢の元を去って行く。

 しかし、

「ちょ、なんで!!?」

 この令嬢は引き下がらない。彼女は本当に納得できない様子で、僕に詰め寄る。

「もしかして他にもう婚約者がいらっしゃるの!?」

「違うが」

「じゃあ私と結婚でもいいじゃないですか! お願い結婚して!」

「するか馬鹿!」

「なんでよー!」

「あのなあ、いきなり結婚してくれって言われて承諾する奴がいるか!」


(あー! なんなんだこいつは! 調子が狂うな)


 先程まで紳士の礼を取っていたのが馬鹿らしくなる。

 この令嬢、本当にここの試験を突破したのか? 想像を絶するほどの馬鹿さに、合格者かどうか疑わしくなる。

 僕の言葉でようやく状況を理解したようで、あの口を開けて固まった。

「それに気づいてなかったのかよ……お前、さては相当の馬鹿だな」

「馬鹿ってひどいじゃない! 私、ここの試験に受かるくらい賢いのに!」

「とにかく、僕は君とは結婚するつもりはないよ。リアナ・メンドーサ嬢」

「!?」

 リアナ・メンドーサ。カスティリア王国の元女王候補だったが、不義の子だという疑いをかけられその身分を剥奪された。

 以上はメンドーサ家の養女となり、慎ましく暮らしていると記憶している。

 まさか、こんなところで会うとは思わなかったが。

「君はカスティリア王国の女王候補だったがその地位を奪われ、今は小貴族メンドーサ家の養女。どうせろくな持参金も出せないのだろう?」

「そ、それはそうだけど……」

 どうやら図星のようだ。持参金の出せない令嬢など僕の中では無価値。やはり礼節をもって接する相手ではない。

「僕と結婚したければ持参金3000億ヴェータは持ってくることだね」

「3000億!?」

「それでは失礼いたします。レディ」

「……!」

 と、若干嫌味も込めてわざとらしく紳士の礼を取り、去って行く。


(とんでもない令嬢がこの世界にはいるんだな……)


 まさか初めて会った相手にいきなり求婚する令嬢がいるなんて思わなかった。

 非常識な部分に呆れつつも、求婚する勇気だけは認めよう。

 だが、一つ思うのは、もう僕に関わらないでくれ。


(付きまとわれたら面倒だな……まあ、あれだけきっぱり断ったし大丈夫だろう)


 しかし、僕の予想は甘かった。

 規格外な令嬢はやはり規格外だった。


「フリード・ローズウェル様。私、あなたを諦めないことに決めたわ! たくさん勉強して私を持参金以上に価値のある女だってこと認めさせてやるんだから!」


 昨日きっぱりと求婚を断ったのに、彼女は懲りずに僕を夫にすると宣言した。


(はあ……めんどくさいのに絡まれたな)


 僕の妻に求めるのは持参金と、政治に関わってこないこと。そして、僕に従順であること。

 そのため、優秀であるかどうかはどうでもいい。僕が優秀なのだから、妻の力を借りなくても問題ない。

だから勉強を頑張ると宣言されてもさほど意味がないのだが……


 僕はここへ来て以来一番大きな溜息をつく。


(まあ、勉強を頑張ると言っていたし、僕に弊害がある訳ではないか)


 面倒ごとを増やさないためなるべく避けるようにしよう。

 そう心に誓った。


 しかし、僕がどれだけ避けても、冷たく接しても、リアナはしつこく僕に付きまとう。

 何度も「あなたが振り向いてくれなきゃ私の人生終わるの!」と、泣きつかれながら。


 どうして僕にそんなにこだわるのだろうか? 一度気になって聞いたことがある。

 彼女の壮絶な人生と共にそれを語ったときにはさすがに絶句した。

 そして、少しだけ彼女を見直した。諦めない根性だけは。

 この歪な関係は3年間続いて、正直に言うと、僕はリアナと関わるのをそれなりに楽しんでいたのかもしれない。

 僕の論述に言い返してくるのはリアナだけだし、何より彼女と過ごしていたら退屈する暇なんてなかった。


 ――――だから、国に帰ると決まったときは待ち望んでいたはずなのに、それなりにショックだった。



(さてと、どう諦めさせるかな)


 自室の窓から照らされる月光に導かれるように空を見上げる。

 美しい夜空を見ていると、リアナをきっぱりと振ることがたいそう辛くなる。

 僕は最低だ。





「そろそろ受け入れてくれてもいいじゃない」

「……」

 非常識な時間に、2人きりで話さないかとリアナに呼び出された。

 いつになく真剣な様子。彼女は本気で僕を落とそうとしているのだろう。

 都合がいい。今日はここではっきりとリアナの求婚を断ろう。

 そう思っていたのに、僕の気持ちは何故か苛立ちや葛藤でぐちゃぐちゃになっていた。

「……今は疲れているんだ。お前の話なんて聞きたくない。どっか行ってろ」

 思ってもいないことを口にする。

 自分でもよく分からない。

「呼び出しに応じておいて私の話は聞きたくないって何よ!」

「今日はそういう気分なんだ! どっか行け!」

「~!!!」


(ごめん、リアナ……)


 呼び出しに応じておいてこんな態度を取るなんてどうかしている。

 本当に僕は何がしたいんだ……


 リアナは戸惑った表情をするもすぐに冷静になり、

「私に怒りをぶつけるのは止めて! 何かあるんでしょう、言ってよ!」

 と、僕の心を見透かしたようにそう言った。

「!」

「言って!」

 いつもと変わらないリアナ。

 その様子に少し安心すると、気持ちが少しだけ楽になった。

 今なら言える気がする。

「……………はあ~、聞いても泣くなよ」

 僕は少し考えるように俯くと、ゆっくりとその重い口を開けていった。


「僕、国へ帰ることにした」


「――――――え?」

「だから、国へ帰ることにしたんだ。1カ月後に」


「え? 意味わかんない。急すぎじゃない」

「黄炎病から国を守るためだ。お父様も僕の力を必要としてくれている」


 賢い彼女ならば、この先のことが分かるだろう。

 僕は君を振りに来たのだと。

 それに気づくと、リアナは瞳から水滴を一粒落とす。


「――――――え、じゃあ今日は私を振りに来たってこと………?」

「…………」

 かける言葉が見つからない。

 それどころか、なぜか僕は彼女の顔を見ていると悔しさや悲しさでいっぱいになり、気遣う余裕なんてなかった。

 重い沈黙が続くと、それを破るようにリアナは口を開く。


「じょ、じょう……」

「……?」


「冗談じゃないわ! そんな理由で振るなんて!」

 彼女から返ってきた言葉は、僕の予想と大きく外れていた。

「私、3年間必死に頑張ったのよ! あなたに振り向いてもらおうと人生で一番勉強して、持参金がなくてもそれ以上に価値のある女だって認められたくて! なのに、なのに……………!」

 悔しそうにそう言う彼女に唖然としていると、

「帰国するから振るって意味わかんない! だったら今、帰国土産として私を貰っていきなさい!」

 今までにないくらいの気迫に圧倒される。

「いい! 今から私とフリード様が結婚するメリットを論じるわ。それに反論できなくなったら私と結婚してもらう。拒否権はなしよ!」

「お、おい……」

 僕が何かを言う間もなく、リアナは論じ始める。

「まず1つ目に、私は賢い。これは反論できないでしょう。実際、この学び舎で私とあなたの2強だったんだし。2つ目は、私には頼れる親族がいないことよ。嫁いで自分の親族を優遇してほしいと願う王妃は、歴史上多々いたわよね。その王妃の親族たちを優遇するあまり、古くからいる貴族たちに反感を買い、そして政府は滅茶苦茶になった。事実としてそうなのよ。でも、私は頼れる親族もましてや優遇してほしい人もいない。だからそうなる心配はないと断言できるわ。3つ目は、私は絶対にミュンシスタのために尽くすことよ。私はカスティリア王国の元王女。当然、カスティリア王国のことなんて好きではないし、ミュンシスタに嫁いでその国を優遇してほしいなんて言わない。そんな政策も絶対しない。絶対に、ミュンシスタのために尽くすの」


(確かにそうだ)


 リアナの話を聞いていて僕は納得する。

 リアナを妻に娶るメリットを聞いて、僕は不覚にも悪くないと思い始めていた。

「そして、最後4つ目は――――」

「?」

 リアナの顔がみるみるうちに赤くなっていく。

 その様子を不思議に思い、首をかしげていると、

「私が、あなたを……フリード・ローズウェル様を好きだからよ」

「!?」

「こんな美人で賢くてあなたを大好きな人逃したら、一生後悔するわ!」




「……………リアナ。君の勝ちだ」

「……!?」

「お前を、僕の婚約者にする」



 あの時はきっと勢いで承諾したのだろう。

 僕としたことがリアナに言い負かされてしまった。

 ただ、後悔しているとは思わない。

 彼女の笑顔を見る度、それは確信していった。




       ☆    ☆




「馬車であのときのことを思い出してたの」

「? あのときって?」

「私を婚約者にするってフリード様が言ってくれた日よ」

家族旅行を終え、僕らは宮殿に着くと、眠れないのか偶然にも庭園のベンチで出会い、他愛のない話をしていた。

「あの時は嬉しくて聞けなかったんだけど、実際どうなの? フリード様は私のこと好きなの?」

 からかうようにそう言うリアナ。主導権を握られているようで少し悔しい。

「さあな」

「ふーん。否定しないんだ」

「肯定もしてないだろ」

「またそんな屁理屈言って」

「お前、屁理屈の意味分かってんのか?」

「分かってますよーだ」

 悪戯っぽく笑うリアナに何か言い返してやりたいのだが、生憎疲れていて返答できなかった。

「そう言えば、まだ私たち一緒に夜過ごしてなかったよね。このまま過ごす?」

 リアナは気分が高揚しているのか、一晩中話していたいと馬鹿げたことを提案する。

「? こんな場所にずっといたら風邪ひくだろ、馬鹿」

「そういう意味じゃないって、私が言ってるのは初夜の話」

「バッ……!!」


(こいつ……!)


 完全にからかっている。後で恥ずかしくなって、昨日のことは忘れろと迫って来るに違いない。


(……………ん、待てよ)


「ねえ行こうよ。私たち夫婦なんだし、そういうこともするでしょ?」

「………」

 このままリアナの誘いに乗ってみるというのもアリなのでは?

「ねえ、フリード様!」

「………」

 ミュンシスタの今後のためにも世継ぎは必要だ。

 ローズウェル家はお世辞にも盤石な玉座とは言えない。

 そのため、早く元気な男の子をリアナに産んでもらう必要がある。

「フリード様?」

「……」

 リアナの頬を優しく撫で、雰囲気を作る。

 こういうことは初めてだが、リアナが乗り気なため、有難いことにこの雰囲気に合わせるだけで済みそうだ。


「ミュンシスタを繫栄させるためには世継ぎが必要だ。リアナ、お前が世継――――」

「ふんっ!」

「い、痛ってえ!!」

「痛っ!!」

 僕がキスをしようと顔を近づけると、リアナの頭が飛んできた。

頭と頭がぶつかり、激しい衝撃音が響き渡る。

「な、何するんだ、リアナ!」

「何するんだはこっちのセリフよ! この変態! エロ王子!」

「エ、エロ王子だと!?」

「私の承諾なしにしようとするんじゃないわよ!」

「お前が誘ってきたんだろうが!」

「冗談に決まってるじゃない! 真に受けないでくれる!?」


(本当に何なんだこいつは……!)


 自分からそうしたいと迫ってきたくせに、僕がその提案に乗ったら掌返し。

 リアナはいつもそうだ。

 リアナは僕の予想とは違う行動を取る。その行動に驚かされ、振り回され、散々だ。


(全く、困った奴だ)


 この先もリアナといれば、こんな風に驚かされることばかりなのだろう。

 やれやれと思いつつも、彼女と過ごせることを楽しみに思う自分もいるのだった。



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