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16話 『再会』

『親愛なるリディ、レオンへ


 この手紙が届くころには、もう知っているかもしれないけれど、僕は7月30日ミュンシスタに帰国することが決まりました。

 婚約者のリアナ・メンドーサ様とは留学先で知り合いました。

 彼女は出会った初日にいきなりプロポーズしてきてね。そういう規格外なところが気に入りました。

 きっと2人も気に入ると思います。


 僕は2人に会えることを楽しみにしています。

 お体に気をつけて。

                           フリード・ローズウェル』


 兄が帰って来ると知った翌日、手紙が届いた。

 婚約者の肖像画も入れて。

 透き通った銀色の髪、サファイアのように輝く青い瞳の煌びやかで美しい妖精のような人――――


「フリード様の婚約者様、とても美しいですね」

「うん……本当に美しくてびっくりした」

「フリード様とお似合いです!」

「そうですわね!」

「優しい人だといいね、お姉様」

 宮殿に遊びに来ているエイリ、シノ、マルタと私たち姉弟で手紙を読むと、兄に会えるという嬉しさがより込み上げる。

 そして、義理の姉になるリアナ様への期待も高まった。


「私のお父様がおっしゃっていたのですが、結婚式は今までにないくらい壮大なものにするそうですよ」

 シノの父は式や立会人の準備を一任されていた。相当気合を入れているので、どんな式になるのやら。

「本当ですか!? 楽しみです!」

「シノ様のお父様なら、きっと素晴らしい式になりますね!」

「叔父様に言っておいて! ローストビーフは絶対出してって」

「僕はピザがいい!」

「では私も何か頼もうかしら」

「私も頼みたいです!」

「分かりました。お父様に伝えておきますね」


 こうして楽しく日々を過ごしていると、時はあっという間に過ぎていった。




 1週間後の早朝。その日は雲一つない青空で、兄を迎える日には最高の日だ。

 ミュンシスタの首都、ブランデンに先程兄が入ったのが私室の窓から見える。

 私はクレアとサリーに着せ替え人形の如く化粧にヘアセットと身支度を整えていた。

「フリード様、ついにブランデンに入りましたね」

「そうだね」

「あと10時間くらいでしょうか。会えるのが楽しみですね」

「うん」

「リディ様、落ち着いていられますね。昨日は眠れないとおっしゃっていたのに」

「ほんと。蝋を消してほしくないと駄々をこねていたのが嘘のよう」

「駄々はこねてないでしょ、からかわないで2人とも」

 こうしてサリー、クレアと他愛のない話をしていると身支度が整ったようで、私は迎えに来た父に連れられ貴賓席に座るよう促された。

 どうやら兄が来るまでこの席で待つようだ。もちろん私たち王家は中心に座っている。私の隣にはそれぞれレオンとシノがいる。

 王家の他にも、父の側近の貴族は貴賓席にいて、エイリやマルタの姿も見えた。


 待っている間は、そこら中で教会の鐘が鳴り、聖歌隊がそれに合わせコーラスを歌う。行く先々でアーチや舞台が上映され、これ以上ないくらいのド派手な歓迎パレードだった。

 皆、帰ってきた兄と未来の国母に熱狂している。


 軽快な音と共に兄一行の馬車はついに宮殿へ到着する。

 馬車が止まり、御者が降りると、皆固唾をのんで見守った。

 緊張や不安が走る中、出てきた兄の姿見て、それは杞憂だったと分かる。

 優雅で凛とした佇まい。どこかの御伽噺に出てくるようなかっこいい王子様。それに加え、威厳や、王としてのオーラが兄には備わっていた。

 そして、その兄に負けないくらい婚約者であるリアナ様も神々しいオーラを纏っていた。

 皆が2人に見入り、それ以外が見えなくなる。


(本当にお兄様だ……やっと帰ってきたんだ……!)


 私はというと、兄が帰ってきたという実感で喜びに満ち溢れていた。



 そこからは申し訳ないのだけれどあまり覚えていない。

 婚約者のリアナ様と挨拶をしたのを最後に、私は永遠と眠気に襲われる。

 結婚式は神父の話が長く、ただただ退屈だったのが原因だろう。

 15歳プラス8歳の私ですら退屈だったため、レオンは途中で寝てしまい、クレアに運ばれていった。


(王族の結婚式って退屈なんだな……)


 壮大なパーティーを想像していたので、少しがっかりする。

 その後に開かれた舞踏会では、子どもは参加できなかったため、兄とは一言も話すことなく今日が終わろうとしていた。

 外の景色は暗くなり、窓には自分の姿が映る。気付けば時刻は夜になっている。

 食事をしたい気持ちにもなれず、大好きなローストビーフも手つかず。けれど喉が渇いたので、私は水差しからコップに水を注ぎ一気に飲み干した。


「リディ様、大好きなローストビーフですよ。そろそろ食べないと固くなってしまいます」

「ローストビーフは常温に置いておいても固くならないから大丈夫だよ」

「はあ~、レオン様はクレアが寝かしつけてすぐ寝ましたよ。だからリディ様も早く食べて寝てください」

「……うん、分かった。ごめん」

 レオンを引き合いに出され食事を促されたため、仕方なく手を付ける。

「リディ様、明日になればフリード様とはお話しできますよ。今日は大人たちのお相手で忙しくて会えないだけ。フリード様もリディ様に会いたいと思っています。だからそんなに落ち込まずに――」

「分かってるよ、仕方ないことだって。ただ、私が寂しいだけなの。お兄様やお父様に怒ったりはしてない」

「……」

「ただ気持ちの整理ができないだけ」

「……そうですね、リディ様は駄々をこねる子ではありませんからね」

「こんな時間まで起こしちゃってごめんね。起きていたらお兄様が迎えに来てくれるかと思って――でももう諦めることにするよ。早く食べてお風呂入って寝るね――!?」


 その時、扉から確かにノックの音がした。

 急いでフォークを置き、扉の前に立つ。


「リディ、起きてるか?」

「お兄様!」

 私は勢いよく扉を開ける。すると、

「リディ、遅くなってすまなかった」

 5年前と変わらない笑顔で、大好きな兄は私の前に現れた。

「……!」

「待っててくれたんだよな?」

「……遅いよ」

「悪いな、挨拶とか挨拶とか挨拶とかで時間がかかって」

「全部挨拶じゃん!」

「とにかく会いに行けなくてごめんな」

「……いいよ、お兄様のせいじゃないし」

 そう言って、私は兄にぎゅっと抱き着いた。

「会いたかったよ、お兄様!」

 精一杯の笑顔で感謝を示す。


(今日一日疲れているはずなのに、私に会いに来てくれたんだよね)


「ああ。僕も会いたかった」

 兄は私の頭を優しく撫でた。お父様と違ってグラグラしない、優しい手つきで。

「ねえお兄様、5年間の話を聞かせて! あと妻のマーガレット様についても知りたい!」

「いくらでも教えてあげるさ」

「ありがとう!」

「ただしリディのことも教えてくれよ。レオンやエイリ、シノ、マルタたちのことも」

「もちろん!」

「サリー、リディと話していてもいいか?」

「……本音を言えば、リディ様には今すぐにでも寝てほしいのですが、私が無理に寝かしつけても今日は寝られないでしょう」

 流石私の育ての親だけあって、私のことをよく分かっていらっしゃる。

「今日だけですからね」

「ありがとう、クレア」



 それから私たちは時が許す限り、5年間の空白を埋めるかのように語り明かした。

 兄の5年間は、最初、辛いことばかりだったという。

 本来マルガレータ様の元で学べるのは、彼女が優秀だと認めた子息子女のみだ。そのため、甥である兄は身内贔屓で入ってきたのだと思われ、子息たちに良く思われていなかったそう。

 加えて敗戦国ミュンシスタの王太子であるため馬鹿にされ、軽いいじめを受けていたと言っていた。

 しかし、兄はそれを実力で黙らせ、くだらない噂や憶測を蹴散らしていったのだから本当に凄い。

 妻のリアナ様に出会ったのは4年前だという。

 彼女の根性と強かさを気に入ったと言っていた。

 兄はどうして突然帰ってきたのかも教えてくれた。

 それは――――――


「リディ、リディ」

「…………ん?」

「朝だぞ、起きろ」

 瞼を開け目に飛び込んできたのは、太陽の光に照らされた兄の顔だった。

「あれ……? いつ寝たっけ?」

 記憶を辿っても、本当に思い出せない。どうやら寝落ちしたようだ。

「さあな。2人揃って寝落ちだ」

 私は体を起こし、伸びをする。徐々に昨日の夜のことを思い出すが、

「ねえお兄様! どうして突然帰ってきたんだっけ?」

 このことはどうしても思い出せないので、もう一度兄に尋ねた。

「なんだ、忘れたのか?」

「うん」

「黄炎病だよ」

「……黄炎病」

「黄炎病からミュンシスタを守るために、僕は帰ってきたんだ」


 高らかに宣言する兄は、とても頼もしかった。


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