14話 『リディア王女の幸せな幼少期』
『親愛なるリディ、レオンへ
リディ、8歳の誕生日おめでとう。
8歳になったリディの肖像画を見ました。リディはお母様によく似ているね。
美人に育った妹に早く会いたいと毎日思っています。
レオンももうすぐ5歳になりますね。
レオンが私に会ったのは、生後一か月の頃。
レオンは私のことを覚えていないと思うけれど、私はずっと可愛い弟のことを覚えていますよ。
私たちが離れてからもう5年ほど経ちましたね。
私は今日も変わりなく、マルガレータ様の元で学んでいます。
最近は公務に同行することも増えてきました。
彼女の政治手腕には毎日驚くばかりです。
立派な王太子になって帰って来るので、今しばらく待っていてください。
ところで、最近病が流行しているのをご存じですか?
この病は東の方からやって来て、各地で恐れられていると聞きました。
2人とも、病に負けず健康に過ごしてくださいね。
リディ、レオン。愛しているよ。
フリード・ローズウェル』
「~!!! お兄様からの手紙だ! ねえレオン、お兄様の肖像画があるよ!」
「ほんとだ! お父様そっくり……!」
「かっこいいよね! お兄様はもう21歳か……」
月日の流れは早いもので、リディア・ローズウェルとして生まれ変わってから、あっという間に8年の時が流れた。
私はつい最近8歳の誕生日を迎え、お祝いの手紙が兄から届いたのである。
「早くお兄様に会いたいな……それに、今のミュンシスタを見てびっくりしてほしい!」
「そんなに昔のミュンシスタって酷かったの?」
「そうだよ。昔は戦争でボロボロになってクーデターが起きる一歩手前だったんだから!」
「えぇ、信じられないんだけど……」
戦争が終わってから5年ほど経ち、ミュンシスタはあの頃と見違えるほど変わっていた。
まずは財政である。
プトロヴァンスへの賠償金。さらに戦争で破壊された国土の修繕費。それを復興するための人件費。など、とにかくお金が必要だった。
そこで、政府は大胆な財政政策を打ち出した。
初めに行ったのが、歳出の削減である。
まずは政府の役人の数を3分の2に減らし、人事の刷新を行った。
これにより、自分たちが贅沢したいだけでろくに仕事もしない無能な上流貴族を政治に関わらせないことに成功する。
この政策には重役たちの反対があったものの、『反対すれば削られるのは自分になる』というデマを信じた利己的なアホ貴族がこぞって賛成票に投じたため、なんとか政策を通すことができたようだ。
有能な役人が揃ったら、その後の政策案はスムーズに通っていく。
質素倹約から、小作料の削減、商業の奨励などの画期的な政策で、ミュンシスタはみるみるうちに回復し、ついに借金の完済に成功した。
これも、父と父を支える優秀な側近たちのおかげである。
(思い返してみると本当に凄いなあ……)
あんなにボロボロだったミュンシスタがほんの数年で立ち直ったのは、本当に凄いことだと思う。
父はいつも『私ではなく、すごいのは側近たちさ』と謙遜しているが、優秀な人物を登用し、自らの能力を理解しているのは誰にでもできることではない。
身内の忖度なしに、間違いなく賢王であると思う。
また、ミュンシスタがここまで復興に力を入れることができたのは、プトロヴァンスの王が亡くなったことが大きい。
休戦協定を結んで半年ほど経った後、病で王が亡くなり、まだ26歳と若いエドワルド3世が王位に就いた。
彼が王位に就いたことで彼に近い有力貴族が力を持ち、その親族が利権を独占したため内部争いが勃発したらしい。
その影響で、プトロヴァンスはミュンシスタとの休戦協定を破って攻める余裕がなくなったのだ。
ミュンシスタの人間として、これ以上幸運なことはない。できるならあと30年は争っててくれ。
この5年間、質素倹約によって贅沢な食べ物を一切禁止されていたため食事の面では辛かったが、私の生活は幸せで満ち溢れていた。
戦争中は部屋の外へ行くことさえ憚られていたのだが、今は自由に宮殿を歩き回り、許可が下りれば街へ行くことも可能になった。
そして、勉強の合間を縫っては友達や弟と従者を連れて遊び、楽しく暮らしている。
また、勉強の方も順調である。
クレアとサリーに2歳頃から文字を叩き込まれ、私は既に文字をマスターしていた。そのため、第一段階をクリアしていたのは幸いだ。
最初に言語の勉強から始めていては、私は勉強を好きになれなかったと思う。
この世界の勉強は面白い。現代日本のような退屈さを一切感じない。
家庭教師と一対一で授業をし、疑問に思ったことをとことん突き詰め、議論をする。
次は家庭教師を納得させようと書物を読み漁り、議論を楽しみにしながら自然と知識が増えてゆく。
勉強は好きな人とする以外で楽しいと思ったことはないけれど、形式を変えるだけでこんなに面白いものになるとは思わなかった。
そして、私は運命の学問に出会ってしまったのだ。『兵学』に。
兵学とは、戦争を学ぶ学問である。過去の戦争で使われた戦術・戦略を学ぶのは面白い。
前世では生粋の歴史オタクで、部屋に一人籠っては歴史系You〇ubeを見て楽しんでいた私にとってはまさに運命の学問といえる。
それも、兵学は男性の学問と言われ、女性が学ぶことをあまり良しとしない風潮があるのだ。しかし、家庭教師は『学問に男女の壁はなし』と考える人で、女の私にもこうして兵学を教えてくれている。
この家庭教師がいなかったら絶対に出会えなかった学問であるため、運命だと尚更思っているのだ。
その他にも、哲学や神学も面白い。しかし、私は王家に生まれ学問を究めるだけでは許されない立場であるため、淑女教育というとても退屈な授業も受けさせられている。
それがダンスやテーブルマナー講座などの、社交界で身に着けるスキルだ。
これらはどうしても好きになれない。
前世で現代日本人として生きてきた私は、こういった堅苦しい貴族のマナーは肌に合わないのだ。ただ、王族として社交界などに参加する機会は多く、恥をかかないためにも避けられない。
仕方なく今日も淑女マナーを叩き込まれるのだった。




