11話 『憧れ 後編』(フリードside)
葬儀は驚くほど単調に進んでいった。
時間の経過とともに、僕は冷静を取り戻す。そして徐々にこの国の現状を受け入れていった。
(悲しんでいても何も進まないからな……)
東棟3階。国を一望できるのはここしかない。僕はすっかり荒れ果ててしまった国を見る。
(やっぱりか)
東の村一帯の畑が焼け落ちているのが見える。そして、来るときはあまり気にならなかったが、王都に向かって崩壊した建物が多くなっている。紛れもなく、王都付近でプトロヴァンスの兵に襲われ、略奪された痕跡だ。
「プトロヴァンスの兵、ここまで来たのですね」
「……」
「この宮殿にはまともな防御力がない。それゆえプトロヴァンスが攻めてきたとき、城の防御で精一杯だった」
「……」
「……助けられなかったのですね、民たちを」
「……」
僕の言葉に父は驚くことなく、ただ黙って聞いていた。
「……失望したか? 父に」
「……いいえ」
「……私は、プトロヴァンスの策略にまんまと引っかかった」
父は今まで隠していたことを話す。
戦に勝ち、後退していったプトロヴァンスの兵を追いかけ敵の領内に突撃したこと。
今が好機と思ったため、守りの兵も裂いてまで突き進んだ。
しかし、それは罠だったのだ。
プトロヴァンスの戦力はもうないと情報を掴んでいたのに、一斉に敵の領地に乗り込むと、尋常じゃない数の兵がいた。
周りを敵で囲まれ、ミュンシスタは大敗した。
それに追い打ちをかけるように、ザル同然の宮殿に敵が攻める。
傭兵は宮殿を守ることに精一杯になり、敵の略奪を許してしまった。
僕たち王家の人間がこの宮殿からいなくなったこともあり、この地域の民は見捨てられたと誤解されてしまったと。
父は僕に4年間の出来事を語る。
「国民たちは辛かっただろうな」
「そうですね」
「愛する者を失い、財産も住む場所も奪われ、王家を憎んだだろうな」
「そうですね」
「……私はもう、戦争に勝つしかないのだ」
「……」
「戦争に勝てば前のように国民は私を慕い、王権は揺るぎないものになる!」
「……」
「プトロヴァンスの王妃の母国であるサヴィアン公国から、プトロヴァンスの機密情報を頂く条約を結んだ。この情報があればプトロヴァンスに勝つことができるかもしれない! だから私を信じて――」
「ここは休戦協定を結ぶべきです!」
「……!」
「このままではミュンシスタは内側から崩壊します!」
「……休戦協定を結べば、必ずミュンシスタに不利な条件を付きつけられる」
「分かっています」
「プトロヴァンスの機密情報を得ることができるんだぞ。それがあればプトロヴァンスの兵を一網打尽に――」
「でも負けるかもしれません」
「だが――」
「賭けに出るのは止めてください! 戦争は国家の命運を左右する手綱なのですから!」
戦争は命懸けだ。兵にとっても、国にとっても。
負けは絶対に許されない。
かといって勝てば良いというわけではない。
勝ったとしても、国が崩壊寸前になっていては本末転倒だ。
如何に損害を出さず勝つか。
それが、真の意味で戦争に勝つということだ。
「お父様も分かっているはずです。これ以上の戦争は国を崩壊させると。でも、後に引けないから強引に茨の道を進もうとしている」
「……民の心は私から離れている」
「……」
「勝たなければ以前のように国民と仲睦まじくできない……! 私に失望しているのだから」
「いいえ。それは違います」
「!?」
「お父様はまだ民たちに慕われています! 僕らがここへ来る際、罵声はありましたが誰も僕らに危害を加えようとしなかった」
「……」
「それに、宮殿は襲われた痕跡などありません。民たちが本気で王家に憎しみを抱いているのなら、宮殿内の調度品や食料を盗んでいるはずです!」
「……」
「でも、それは今だけの話。これからも戦争が続けば、国民は本気でお父様に失望します」
父は僕が幼い頃から国民にとても慕われていた。
それは、父の性格が素晴らしいからに他ならない。
例え身分の低い相手であっても、関係なく会釈をする父。
王都へ出かけた際もそこで出会った人に対し、気さくにあいさつをしていた。
戦いに出た際は常に最前線で戦い、誰よりも勇ましく戦っている。
部下を大切にし、決して無理強いをしない。
(――――そんなお父様に、僕は憧れているんだ)
僕もお父様のような君主になりたいと強く思う。
だからこそ、現状には耐えられないのだ。
「これは息子としてのお願いではなく、臣下としてのお願いです。休戦協定を結んでください」
僕は国王の前に跪き、そう言った。
「……賠償金の額はとんでもないぞ、分かっているのか?」
「承知しております」
「国民はこれだけ戦っておいて負けたのかと、怒りで各地から反乱が起きるかもしれない」
「はい」
「そもそも休戦協定を結べるかどうかも怪しい」
「分かっています」
「……失うものばかりだな」
「そうですね」
「建て直すのは大変だな」
「はい。ですが、いずれ取り返します! そしてこの国をもっと豊かで強い国にしましょう! そして、全てが整ったら休戦協定を破ってプトロヴァンスに完全勝利してみせます! 必ず!」
今は負けでもいい。
しかし、いずれ勝つのはミュンシスタだ。
この国をこれからもっと強くする。
プトロヴァンスを滅ぼせるくらい強大な力を手に入れてやる。
「……フリード、私は間違っていた。戦争に勝つことばかりを考え、周りをよく見ていなかった。優秀な息子に育ったことに気付かなかったことを含めて」
父は何処か力が抜けたような、安心したような顔を浮かべる。
「休戦協定を結ぼう。そしてこの国を建て直し、来る時が来たらプトロヴァンスに戦争を仕掛けるのだ。必ず勝てると確信できるその日まで。フリード、付いてきてくれるか?」
「勿論、私はミュンシスタのために身命を賭して働きます」
「頼もしいな」
「この国は絶対にプトロヴァンスに渡さない! ミュンシスタを治めるのはローズウェル家だ!」
いずれ必ずプトロヴァンスを滅ぼしてやる。
心の中でそう誓った。




