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10話 『憧れ 前編』(フリードside)

 僕の憧れは、何時だって父と母だった。


 獅子王と呼ばれ、武勇に優れた勇ましい父。

 その父を支える優しく慈悲深い母。


 僕にとって父と母は憧れであり、目標だった。



     ☆   ☆



 母の葬儀を行うため、僕は4年ぶりに屋敷を出る。

 皮肉なことにずっと帰りたいと思っていた宮殿に、母の葬儀で帰ることになるとは……


(戦争に勝って、家族みんなでまたあの宮殿で過ごしたかった……)


 母の死で、プトロヴァンスへの怒りが更に膨れ上がる。

 プトロヴァンスがさっさと負けを認めていれば、母はもっと腕利きの医者に診てもらうことができ、命が助かったかもしれない。


(あぁ! プトロヴァンスが憎い! 僕が国王になったら和解なんて生ぬるいことはせず、国ごと滅ぼしてやる)


 視界に広がる田舎道を進みながら、僕はプトロヴァンスを滅ぼす策を考える。


 内側から国を崩壊させる策や、プトロヴァンスと他の国を戦わせて漁夫の利を狙う策などを考えていると、いつの間にか田舎道ではなくなり王都に辿り着いた――――しかし、そこは僕のよく知っている華やかな場所ではなくなっていた。


 かつてはあんなに華やかな活動の舞台であった王都だが、街には浮浪者や物乞いで溢れている。

 僕やリディが帰って来て歓声が上がるかと思ったが、そんな声は一切なく罵声のみが浴びせられる。


『俺たちを置いて逃げたくせによくのこのこと帰ってきやがったな!』

『私たちが食べるものもなくて苦しんでいるっていうのに、さらに重い税を課したせいで生まれたばかりの我が子は亡くなったのよ!』

『俺たちの税金はお前らが贅沢するために払ってるんじゃねえ!』


(どういうことだ、なぜ王都がこんなに荒れ果てている……!? それに僕らは逃げたわけではない、この国を見捨ててなどいない!)


 僕の覚えている民衆は、国王である父と母を慕い、この国を愛し生き生きとしていた。

 それがたった4年でこの変わりようである。


(4年間で一体何があったんだ……!)


 収まらない罵声の中、僕はただ馬車を引くことしかできなかった。



 母の葬儀は懇意にしていた教会で行われた。

 集まったのはせいぜい20人ほど。王妃の葬式にしてはあまりに貧相だった。

 喪主の父はいつもの威厳に満ちた姿など無く、ただ茫然自失となっている。

 僕は母の死を悲しむ気持ちと、この国の現状についての困惑で脳内を乱されていた。


 乱れる頭の中で、4年の間に王家の信頼を揺るがす『何か』が起きたということは確信していた。


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