第9話 告げられた事実
「おはようっ 調子どう?」
朝食を終え、薬を飲んでいると昨日の男性が入って来た。
確か…“アル”と呼ばれていはず。
「お、おはようございます。お蔭様で…っ 昨日は助けて頂いて、本当にありがとうございました。痛っ!」
私はベッドの上で彼にお辞儀をするが、背中が痛くてあまり深く頭を下げられない。
「ああっ 無理しなくていいよっ それにしても驚いたなぁ、まさかあんたが刺されるなんて思いもしなかったから」
「…はい…」
レナータの顔を思い浮かべた。
私を憎々し気に見下ろすあの瞳を。
そして、セルゲイ様と口づけを交わした後に見せたあの微笑みを…
「いや〜っ 血だらけになった人間を放置するわけにいかないでしょ?」
彼は肩を竦める。
私はひとつ気になっている事を遠慮がちに尋ねた。
「あの……もしかして……盗みに……入るつもりで、様子を窺って…いたのでしょうか…?」
「………え? えええぇ――――!? 俺の事、盗っ人だと思ってたの?! この俺を! 君を助けた!! 命の恩人の!!! この俺を!!!!」
彼は右手の親指で自分を指しながら捲くし立てた。
「…え…っ!? あ、あの…いえっ 助けて頂いて、本当に感謝しています! そ、その…っ す、すみませっ…」
そ、そんなに全力で否定されるなんて…っ
だって、あの状況でいきなり部屋に現れたらそう思わないかしら?
最近、盗人が現れていると聞いたし。
助けて頂いて、心から感謝しているけど…
戸惑う様子の私を見て、彼は突然電池が切れたように傍にあった木椅子にドスンと腰かけた。
「まあ、あの状況じゃあ、そう思われてもしかたないか。時々、俺や仲間たちが現地調査のために潜入するから、盗っ人と間違われているのかもな…」
髪をかき上げながら、何かブツブツ言っている。
“仲間” “現地調査” “潜入”
耳慣れない言葉がところどころ聞こえる。
そういえば…この人何者なんだろう?
そして彼は徐に、質問を始めた。
「う〜ん、とりあえず、君にはいろいろ聞きたい事があるんだ。そもそも何で君は刺されたわけ? 君を刺した女は誰? 隣にいた男は?」
「……あ…男性はあの屋敷の当主で…私の……夫……なんです…。私を刺した女性は……夫の愛人……です…」
「はああぁぁ!? じゃあ何!? 旦那が愛人と共謀してあんたを亡きものにしようとしたのか!?」
「……そ、それで…今頻発している盗人に…殺された事に……しようと……」
この人に隠し事をしても無駄な気がして、私は起こった事を全て話した。
「はへええぇぇえ〜~っ!? 盗っ人と遭遇したあんたが、抵抗して刺されて死んだと見せかけるために、あんなに部屋が荒れていたのか。そしてわざわざバルコニーの扉を開け放した…と。危うく俺のせいになるところだったじゃん! あぶねぇあぶねぇっ! あれ? そういえばあの部屋で例の……もしかしてあの女……じゃあ、たぶん男の方は……」
男性は頭の後ろで手を組み、背中に重心をかけゆらゆらと椅子を浮かして動かし始め、またブツブツ独り言を始めた。
この人、独り言が多い…
ガタン!
いきなり椅子を戻したかと思ったら、私を見据えた。
「あ、あの…っ?」
「旦那が当主っていったね。あの屋敷はシュヴァイツァー家だ。君は侯爵夫人って事?」
「は、はい、私はコルネリア…シュ…」
シュバイツァーと名乗っていいのかしら?
私は戸惑い、言葉が止まった。
「コルネリアだなっ 俺はアルボルト・ガルロ。アルって呼ばれている。あと、侯爵の愛人ってレナータ・パルスか?」
「そ、そうですが…どうして知って…」
「なるほどな。さて、ここからが大事な話なんだ。
あんたの旦那は………薬で操られているのかもしれない」
「……え?」
薬…?
操られている…?
この人は何を言っているの!?