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第1話 裏切りの香り

 !!!ドン!!!


「ぐっ…かはっ…!!」


 後ろから何かがぶつかる衝撃を受けたと思った瞬間、激しい痛みが背中を貫いた。

 

 な……に…?


 ガクンと膝から崩れ落ち、その場に倒れ込む。


 「あっ…く…っ!」


 痛い痛い痛い

 苦しい苦しい苦しい 

 

「ごほっ! ごほっ!」


 上手く呼吸ができないっ

 口の中に錆びた鉄の味が広がる。

 吐き出した唾液は、床を真っ赤に染めた。


 何? 何が起きたの!?


 目の前に二人分の足が見えた。


 ゆっくり目線を上に向けると、そこに立っていたのは……セルゲイ様!

 私の……愛する夫……


「まだ生きてるの? コルネリア。しぶといわね」


「!!」


 そう言いながらセルゲイ様の隣で私の様子を窺っているのは……レナータ!

 もっとも信頼していた侍女……

 その右手には血塗れのナイフ…!


 〈私…刺されたの…? 

 それに…まさか…セルゲイ様の愛人がレナータだったなんて…〉


 二人が並んで立っている姿を見ても、その状況を受け入れる事ができなかった。


 …けれど…いつからか違和感は感じていた―――…


 セルゲイ様の態度が急によそよそしくなった事に。


 一緒に食事をしていてもぼんやりする事が増え、何か思い悩んでいる様子が伺えた。


 もしかして…他に好きな方が…そんな考えが頭を(よぎ)る。


 気のせいであって欲しい…そう願わずにはいられなかった。

 けれどその願いも(むな)しく、私の不安がまさかこんな形で現実のものとなるなんて。


「行きましょう、どうせ助かりはしないわ。部屋は荒らしておいたから盗っ人と鉢合わせして殺されたと思うでしょう」


 キイィ…


「バルコニーに出た際、盗っ人が押し入って来たとね。最近、このあたりで屋敷に忍び込んで盗みを働く事件が続いていたからちょうどいいわ。」


 そう言いながら、レナータは()き出し窓を開け放した。


「成金貴族のくせに偉そうに私に指示してずっとムカついていたのよね!」


 そう言うと憎しみを込めた目で私を(さげす)む。


 偉そうにしたつもりはなかったけれど、彼女はずっとそう感じていたのね。

 彼女は私と同じ子爵家の令嬢。


 でも我が家は、元々男爵家。

 父がお金で爵位を買い、子爵家となった。


 生まれながらに子爵令嬢のレナータからすれば、そんな私に仕えるのは屈辱だったのだろう。


 私を殺したいほどに…


「セル…さま…」

「……」


 セルゲイ様に手をのばしても彼は何も言わず、美しいグリーンの瞳はただ私を見下ろしているだけ…


「セルゲイ様、愛してるわ」

 血に汚れた手で、セルゲイ様の頬に触れるレナータ。


「俺もだよ…」

 セルゲイ様が引寄せられるように、レナータに口づけをした。

 いやらしい音が部屋の中に響き渡る。


 2人が共謀して私を殺した。

 2人が私の死を望んでいた。

 

「行きましょう、セルゲイ様」

「ああ…」


 そう言い残すと二人の足音が遠ざかる。


 甘い香りだけを残して……



 ―――――パタン―――――


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