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「大分かかったな」

「ああ。だが、やっと捕まえることができた」


 人目につかない場所まで移動すると、二人の男はぐったりと力の抜けた身体を抱え直した。

 一見、この世界における典型的な「女子大生」の格好をした女。男たちからすればこちらの世界における仮の姿に過ぎないが、意識のない若い女性に手錠までかけて連れ去ろうとしているのはまるっきり人さらいか変質者だ。目立たないに越したことはない。

 加えて、片方は金髪でラフなサンダルをひっかけた格好、もう片方は黒髪に眼鏡でスーツ姿である。組み合わせとしてはどうしても違和感が拭えない。


「しっかし面倒なやり方だったな。もうごめんだぜ」

「同感だが、他に方法があったか?」

「いや、ないけども」


 金髪の男が唇を尖らせる。元の世界の言葉で歌った曲をこちらの世界で流行らせて、「転移」した罪人をあぶり出すとは、あまりに回りくどいやり方だ。


 砂漠、というハンドルネームで投稿した例の曲には、歌声に「魅了」の魔法が使われていた。この世界でも通用するかどうかは賭けだったが、同じ人間であれば「音」に関してはある程度共通した感受性を示すらしい。しかも魔法に耐性のないこの世界の人々は、面白いほどに歌を聞いて感動し、拡散してくれた。

 魅了の魔法が効きにくく、かつ元の世界の言葉が理解できる。そんな人間でなければ、あの曲に本能的な拒否感を示すことはない。しかも、歌詞の内容はごく個人的な憎しみを書き連ねたものだった。それこそ、特定の人物しか反応しないような。

 しかし、魔法の感受性は人それぞれである。成功率はとても高いとは言えない。そのため、他にもいくつか網は張ってあった。結果的に上手くいったものの、半年もの時間がかかってしまったのは遺憾だ。


「てか、あちらさんの擬態技術が上がりすぎなんだよな」

「確かにな。今回も、目で見分けることはとてもできなかった」

「しかも本人は転移した記憶が封印されてると来てる。都合よく仮の親や友達、仕事先まで用意されちゃな……」



 ――異世界転移による、罪逃れ。



 最近横行しているこの手口で、不当に逃れようとした罪人を捕らえるのが男たちの役割だった。


 本来、転移は偶発的にしか起こらない事象である。ほぼ一方通行で、何もかもランダム。やろうと思ってできることではなかったのだ。

 しかし、その転移を人為的に発生させる方法が開発された。

 元々は、男たちの世界に転移してきた人々を「こちら」に返すために研究された仁術だったらしい。だが、それがとある組織によって悪用され始めた。向こうの世界で罪を犯した人間を、組織に大金を積んで「こちら」に逃がすことで「あいつは死んだ」と偽る。そしてほとぼりが冷めた頃にひそかに戻すのだ。


 元々、転移すると外見には多少変化が現れることがある。どういう力が働くのかは分からないが、その世界に違和感のない、適応した姿に変わるのだ。とは言え性別や年齢や見た目が大きく変わることはないし、本人も転移したことは覚えている。それ故、男たちが罪人を見つけることも今ほど難しくはなかった。

 だが、組織はどんどん技術を上げ、とうとう性別や年齢まで大きく変化させることに成功し始めた。しかも本人の意識さえ改変してしまっているので、一見するとこちらの普通の人間と区別がつかない。となると、男たちもあの手この手で工夫しなければならないのである。


「でも、このやり方はもう使えないだろ」

「そうだろうな。組織も馬鹿じゃない。こちらの出方も研究しているはずだ」

「あいつら、絶対こっちに協力者を作ってるよな。そうでなきゃこんなに擬態できないって」

「それはお互い様だ。俺たちにも協力者がいるようにな」


 つまり、今後はもっと難しくなる。

 スーツの男は女を抱えたまま眼鏡を取り、ネクタイを緩めて深呼吸をした。


「何回着ても、この格好は肩が凝るな」

「もうちょっと楽な服着ればいいだろ。オレみたいに」

「それが似合うのはお前くらいだ。俺がやるとかえって目立つ」

「まあ、それはそうか」


 快活な笑い声をあげた金髪に、黒髪の男は肩をすくめた。


「仕事は終わりだ。さっさと帰るぞ」

「へいへい。次の逃亡者がお待ちかね、ってな」

「……言うな。そもそもあの組織を放っておく上層部がだな」

「あーハイハイ、愚痴は帰ってからいくらでも聞くから。決めただろ?」



 ――不正転移は許さない。オレたちは、自分の仕事をするだけ、ってな。



 片目を瞑った金髪の男に、黒髪が苦笑して「そうだったな」と頷く。

 間もなく目映い光に包まれて、女を抱えた二人の男の姿はかき消えた。


 道路に落ちたスマートフォンは、やがて通行人に拾われ警察に届けられた。

 警察は通信会社に調査依頼し、持ち主は判明したものの、引き渡し期限を過ぎても誰も取りに来ることはなかったという。



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