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近くにある恐怖

リサイクル

作者: 杉孝子


 週末の土曜日、朝の部活から帰って来た僕はベットに寝転んでスマホで漫画を読んでいた。階下から母が自分を呼ぶ声が聞こえる。


「拓海、ちょっと降りてきて手伝ってよ」


母の声が階段を上がって来て拓海の部屋に近づいてくる。母の正美がドアを開けるより早く僕は自室のドアを開けて何用か確認する。


「なに?何か手伝う事あるの」


「明美の荷物を運んで欲しいの。ちょっと手伝って」


 父は朝早くからゴルフに行って男手は自分しかいない。仕方なしに階下に降りていくと叔母の明美が自宅前に止めた車から荷物を降ろしている途中だった。


「拓海くん、休んでるところ悪いわね。ちょっと大きな物買っちゃったから、運んで欲しいのよ」


 僕はサンダルを履いて玄関から出ると叔母の車のトランクルームに積み込まれた小さな箪笥のような物を見て後に立っている母に言った。


「また、リサイクルショップで買ったの。古くて傷だらけだな」


「千円もしなかったのよ。レトロ感満載でいいでしょ。片側持ってくれる。当てないようにね」


 明美が笑顔で言うと、僕に片側を持つように促す。僕は、もう傷だらけなのにと言いたくなるのを抑えて、取り合えず明美と二人でトランクルームから降ろして玄関に持って入る。


 叔母の安川明美は、僕の母である佐々木正美の妹にあたる。母の正美より4つ下で今年38歳バツイチ、子供なし。20代で結婚したが、一年経たずに離婚したらしい。それ以来祖母とアパートで暮らしている。最近、一軒家を建てるという事で色々な物をリサイクルショップで見つけては買い込みだした。母は、家が建ってからでもいいんじゃないかと何回か言っていたが、明美は、自分の欲しいものがあると即決してしまうらしく、買って来ては荷物を一旦僕の家に持ち込んでくる。おかげで二階の一部屋は叔母の買ってきた荷物で溢れかえってきている。


 玄関に持ち込んで一旦置いた棚は幅50センチメートル、奥行きも同じくらいで、高さ1メートル程。手前に片開きの扉のあるものだった。扉の取っ手には巻物らしきものを握る手が取っての替わりについている。外観は木材で作られていて、最近の大量生産の棚よりもしっかりとして重厚感はある。しかし棚の上部には、グラスを置いていたような輪っかの跡が見た目に判る程にくっきりと残っている。


 僕は屈みこんで、巻物を握っている取っ手を回して扉を開けた。湿気とかび臭い匂いが鼻にくる。中も少し汚れた状態だった。


「これは何処に置くの」僕は、また二階の一室に入れるのだろうと思いながら明美と母に聞いた。


「ベットの横に置こうとおもうの。サイドテーブルみたいに。上にスタンドを置いて、下にも物が入れられるし。千円じゃないよね。いい買い物したわ」明美は新居に置くことを想定しているようだった。


「傷だらけじゃん。ここにもコップの跡が付いてるし。リサイクルショップで売っている物なんかに遺品整理の物なんかもあるんでしょ。黴臭いし。誰が使ってたかわからないのは僕は嫌だな」


「これは、一旦拓海の部屋に入れたいの」


 僕の話に割り込むように母が言うと、僕と明美に二階に持っていくように促す。


「えー。いつもの部屋に置くのじゃないの」僕が反発すると、


「もう入らないわよ。取り合えず、明美の家が建ったらすぐに除けるから。それまではちょっと置いて欲しいの」


 有無を言わさず二階に先に上がった母は、僕の部屋のドアを開けて待っている。


 ベッドの反対側の角に置かれたサイドテーブルが僕の部屋には不釣り合いだった。叔母の新居が建つまで置いておくことになったが、どうしても視界に入ってしまう。暫くは慣れないだろうと諦めて、電気を消してその日は寝ることにした。


 何時だかわからないが、カリカリとゴソゴソという物音が微かに聞こえる。物音で目覚めたのではないと思ったが、耳を澄ますと余計に気になる。暗闇の中でどこからか推測している間に再び眠りについてしまっていた。


 サイドテーブルが僕の部屋に置いてから毎晩のようにカリカリ、ゴソゴソという音が聞こえる。はじめは虫やネズミの仕業だろうかと考えて、電気を付けて部屋の中を見渡したりしてみたが、音だけは止むことなく続いている。虫やネズミなら何処かに逃げて行ってしまうように思ったり、壁の中に入っていてそこから聞こえるのかもしれないと思ったりしてみたが、原因はわからなかった。

 

 一週間が経った深夜、やはり謎の音で目が覚めた。毎夜音が大きくなってくるようにも感じてる。電気を付けると集中して音のする方へ向かう。目の前にはサイドテーブルがある。天板にはコップが長い間置かれていたような形跡がある。もしかすると、病人のベットのそばに、置かれていたもので、飲み物が入ったコップなどが毎日長い間置かれていて、その人が亡くなり遺族がリサイクルショップなどに持ち込んだ品かもしれない。


 僕は恐る恐るしゃがみ込んで、握り拳の取っ手を回して扉を開けて見る。一週間ぶりに開けた中は、やはり何もなかった。虫もネズミも入ってはいない。奥を覗き込むと、何やら黒っぽい靄のようなものが一瞬見えたが、目の錯覚かもしれない。僕は元通り扉を閉めた。いつの間にか音は止んでいる。


 ベットに戻り、電気を消すと知らない間に夢の中に入っていた。


 その夢の中では、高齢の老人がベットに寝ている。その横には、僕の部屋にあるのと同じサイドテーブルが置かれていた。天板には、水の入ったコップと病院の薬が入っている紙袋が置かれている。


 朝に目が覚めるといつもは日が差し込むはずの僕の部屋は暗いままだった。おかしいと思いながらも体を動かそうとするが、自分には、肉体がないことを知る。まだ夢の中なのだろうか。ここは何処なのだろう。


 肉体が無いのに自分だと認識ができる。朝も昼も無いくらい中でどれだけの日数が過ぎて行ったのだろう。


 ある日、自分が持ち上げられるのを感じた。いや、僕がいる空間ごと持ち上げられている。車に乗せられて何処かへ運ばれていく。微かにエンジンの音が聞こえる。いや、耳が無いのだから聞こえるはずはないのだが。


 もう一度持ち上げられるとどこかに置かれた気配がする。ガチャと何かが回る音が闇の中に光が差し込んでくる。明美叔母さんが覗き込んできた。僕は声をあげたつもりなのに、何も聞こえないようだった。


「少し汚れているから、後で乾拭きでもしよっかな。拓海ありがとね預かっててくれて。後でごちそうするから」


 明美は、振り返って拓海にそう言うと扉を閉めた。



お読み下さりありがとうございました。

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