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愛した君は、怪物だった  作者: 三月うみ
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4.怪物の心情

 ルナの家を訪れた後、ライヤはルナから採取した血液をもとに“怪物”になった原因を探すための実験を行った。フィールは“怪物”について過去の文献を探したり、所長について町の人への聞き込みを行っていた。

 また、ルナから再度話を聞いたり、実験の途中経過を伝えたりするために、2人は時間があるたびに森に出向いていた。森の中で1人で住んでいる女の子が寂しくないようにと本やスケッチブックも持って行った。

 ある日ライヤが1人でルナの家に行き本を渡すと、困り顔のルナが本を受け取りながらつぶやいた。


 「気を使わなくていいんですよ。私はもう何年もここで過ごしているので…。」


 「ルナこそ気にするな。俺とフィールがやりたくてやっているだけだから。ああ、それと今日はこれも持ってきた。」


 ライヤが紙製の箱をルナに手渡す。箱には「パティスリームーン」の文字があった。パティスリームーンは町で有名な洋菓子店で、ライヤはそこでケーキを買ってきたのだ。箱を見たルナがパッと顔を明るくさせる。


 「ライヤさん! これ、有名なケーキ!」


 「ああ、好き…かなと思って。」


 少し幼く感じられるその反応と、怪物の姿のままでもわかるルナの嬉しそうな横顔に、ライヤは顔を赤らめた。思わず可愛いと思ったなんて、絶対に言えないだろう。


 「大好きです! 町にはもう行けなくなってしまったから、ムーンのケーキはもう食べられないと思っていました!」


 「そ、うか。喜んでくれたなら何よりだ。それより今日来た理由なんだが、この間ルナから採取した血液から新しい事実がわかったんだ。」


 ライヤが照れくさくなって話題を変えると、ルナはすっと笑顔を収め、真剣な表情でライヤを見つめた。


 「ルナの血液には北の地域で採れる植物の成分が含まれていた。この成分は人間の体内では生成しないものなので、何かしらの原因で取り込まれたということになる。恐らく“怪物”になる薬だろうと俺は踏んでいるが。」


 一応見せる、とライヤが血液検査の結果を見せたが、ルナは理解できないというように首をひねった。


 「その成分は身体に影響をもたらすものなんですか?」


 「この植物の成分自体は影響ないと思う。ただ、この辺では採れない植物だから、誰かが北の地域で採取して“怪物”になる薬に使った可能性があるかもしれないと考えているんだ。その植物を使う理由はよくわかっていないけれど。…ルナは北の地域に行ったことはあるか?」


 「行ったことないです。親戚の家もこの町だったので、この町から出たことはありません。」


 「そうか。やっぱり薬に含まれていた可能性が高いな。ありがとう、もう少し研究してみる。」


 ライヤがルナの頭をくしゃっとかき混ぜる。獣の毛に隠れてルナが赤くなっていることにも気が付かず、ライヤはケーキの箱を指さした。


 「ケーキ食べようか。ルナはどっちがいい?」


 「…ライヤさんの馬鹿。」


 ルナは赤くなった顔を手で隠しながら小さくつぶやく。ライヤはきっと意識せずに、それこそちいさな妹にするような気持ちで頭をかき混ぜているのだとルナはわかっていた。今は怪物の姿なので、女性に対しての行動でもないのかもしれない。しかしずっと1人で過ごしてきたルナにとってライヤの優しさは身に染み、好意的な感情を抑えることができなくなっていた。

 それでもルナは“怪物”。この想いは秘めたままにしなければならない。

 

 「ん? 何か言ったか?」


 「なんでもありません!チョコレートの方ください!」


 わいわいと話をするライヤとルナは、その時入口のドアの横にある窓から1人の男性が中を覗いていたことに気が付いていなかった。


◆◆◆


 翌日、ルナはひとつ思いついたことがあった。


 ーーーいつもライヤさんとフィールさんに森に来てもらっているけれど、たまには私が町に降りてみたらどうかな。木陰をつたって研究所の裏手まで行けば、誰にも見られずに2人に会えるかもしれない。


 もともと好奇心旺盛な方であるルナは、思い立ったらすぐ行動してしまう。今まで一度も森を出て町に行ったことなんてなかったのに、その考えを思いつくと居ても立っても居られずに、木陰にいても見つからないように真っ黒なケープをかぶり、家を出て、研究所に向かって歩き出した。

 森から町に入る手前でルナは一息をつく。ここからは隠れていても見つかる可能性は高まる。気を引き締めなければとケープを深くかぶった。

 町の入り口に3人の男性がいた。その男性たちの目をくぐり抜けなければ研究所に向かうことができない。


 ーーーひとまず休憩しよう。あの人たちがいなくなったらまた動けばいい。


 ルナは木陰に身を隠しながら男性たちがいなくなるのを待った。

 3人はなにやら青ざめた顔をしている。ルナは何事かと思わず話に耳を傾けた。


 「…ライヤが? 確かに最近森に行くところをよく見るけれど…。」


 「ああ、本当だよ! 俺見たんだ! 森の中でたまたま見つけた小さな家の中で、楽しそうに怪物と話すライヤを!」


 「でも、怪物は話せないっていうだろう? ライヤと話していたって本当なのか?」


 3人の話の熱は冷めない。ルナは声を出しそうになるのを必死でおさえていた。


 「本当だよ! あいつ、最近研究所で遅くまで何かやっているだろう。もしかすると怪物に洗脳されて人間を抹殺する薬を作ろうとしているんじゃ…。」


 「何言ってるんだよ。ライヤがそんなことするはずないだろう。」


 「わからないじゃないか。第一、ライヤだって村の新参者だ。村を壊滅させるために何か理由があって素性を隠して来たのかもしれないだろう?」


 ルナののどがひゅっと鳴った。幸い3人の男性には聞かれていなかったようだが、このままここにいてはいつか声を出してしまう。ルナはそっとその場を後にした。

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