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愛した君は、怪物だった  作者: 三月うみ
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2.怪物の家

 ライヤが町へ帰ってくると、研究所の前で所長とフィールが待っていた。フィールは青ざめた顔をしていたが、ライヤの姿を見つけるなり全速力で駆け寄ってきた。


 「ライヤさん! 無事っすか?」


 「ああ、フィールこそ大丈夫か? 顔がまだ青いようだ。」


 フィールの頬に触れるとひんやりとしていて、かなり恐怖を感じていたことがわかる。フィールはライヤの手の上から自分の手を重ね、へへっと笑った。


 「俺は大丈夫っす。ライヤさん、怪物には何もされませんでしたか? 戻ってくるの遅かったっすけど…。」


 一瞬ライヤは固まった。本当のことを話すか迷ったからだ。怪物と話をしたこと。その怪物から怪物になった所以を教えると言われ、明日また来てもいいと言われたこと。

 フィールは素直に信じてくれるかもしれないが、今はこんなに怯えているのに伝えるのもおかしいだろう。

 それに所長がここにいる。所長は怪物の噂を軽んじているようだったし、あの嘲笑は何か引っかかる。所長の前で怪物の話をするべきではないだろうとライヤは判断した。


 「…大丈夫だ。逃げてきて少し気持ちを落ち着かせていた。」


 「そうだったんすね! 良かったっす。」


 心からほっとしたという顔をするフィールに、ライヤは申し訳ない気持ちを抱いた。


 ーーー明日、フィールの顔色が良ければ、本当のことを話してもいいだろうか。


 「ライヤくん、フィールくん。今日はもう遅い。薬草は明日取りに行ってもらうとして、今日は休みなさい。また明日、よろしくね。」


 そうして話していると所長が口を挟んだ。所長は特にライヤを心配している様子ではなく、どちらかというと薬草のことを気にしているようだった。


 「えっ、所長! また森に行かせる気っすか!」


 フィールは大げさなリアクションをとりながら、所長に返事をした。

 ライヤは本当のことを言い出せない複雑な気持ちになりながらも、明日また森に行く機会ができたことを嬉しく思った。


◆◆◆


 翌日、研究所につくなりライヤはフィールとともに森へ行くよう指示をされた。天気は晴れ、気温もちょうど良く、これがピクニックなら最適な日だっただろう。

 それでも昨夜のことがあったため、フィールは腰が引けている。ライヤもフィールに本当のことを言うべきか悩んでいた。


 「…ライヤさん、昨日本当はなにかあったんすよね。」


 そう考えているとフィールの方から話しかけられた。しかも昨日のことはお見通しと言わんばかりの発言。

 それでもライヤは頬をかきながら、本当のことを言うべきかはぐらかすべきか迷っていた。


 「どうしてそう思う?」


 「わかるっすよ。俺ライヤさんのこと大好きっすから!」


 ニカッと笑ったフィールは本当にライヤのことを信頼してくれているようだった。ライヤはフィールには隠し事をするべきではないと観念した。


 「…そうか。確かに昨日俺はただ逃げて帰ってきたわけではないんだ。昨日俺は怪物と話をした。」


 ライヤは昨日の出来事をすべてフィールに伝えた。すべてを一気に話して落ち着いたライヤがフィールを見ると、一瞬恐怖や疑いの表情を浮かべていたが、それは徐々に好奇心に変わっていった。


 「怪物と話しただけじゃなく、また来てもいいって言われたんすか! ライヤさんやっぱりすごいっすね! 俺も怪物に興味が湧いてきたっす! 今日は怖がらないで、ちゃんと話してみたいっす!」


 すごいのはどっちだよ、とライヤは笑った。昨日あんなに怖がっていたくせに、こんなに興味を持って怪物に気持ちを向かわせるなんてその方がすごい。 

 2人が森の中を進んでいくと、昨日見つけた開けた場所に出た。昨日見た通り、小さな家が1軒建っている。今日はまだドアが開いていないようだ。

 2人は警戒しながらゆっくりと家に近づく。窓から中が窺えるかという距離まで近づいたとき、静かにドアが開いた。フィールがビクッと肩を揺らす。


 「あなたは、昨日の。」


 ドアから出てきたのは昨日と同じ“怪物”。フィールは初めて見る怪物の姿に怯えた様子だったが、話しかけられたことに対して驚きと興味を示したようだった。ライヤも怪物に向き直り、会釈する。


 「こんにちは、昨日はどうも。お言葉に甘えてまた来てしまった。」


 「いえ、嬉しいです。」


 ふふっと小さく笑った怪物は、右手を広げ家の中を示した。


 「もし怖くなければ、家の中でお話しませんか。お茶をお出しします。」


 そう言って怪物は家の中に入ってしまった。フィールがすかさずライヤに駆け寄り耳打ちする。


 「どうするっすか! 確かに悪い人じゃなさそうっすけど…あ、悪い怪物かな?」


 「あの子は悪い子じゃないと思う。本当のことを知るためにもゆっくり話を聞いてみたい。」


 ライヤがドアに向かって歩くと、フィールも意を決したようにライヤの後をついてきた。

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