茨の道になりそう…
取り合えず5話目です。
この物語はフィクションです。
よろしくお願いします。
テンの町に帰還した時、兵士の一人が駆けつけてきた。
「ミリアさん!お怪我はありませんか!」
「ええ、大丈夫です。」
この兵士は、さっきの襲撃でも声をかけてくれた兵士かな。
よく見ると、アレクさんだ。
「アレク、町の状況は?」
「あれから襲撃はなく、現在は物資の受け入れ中です。」
「そうか、まだ一息つく時間はありそうだな。マリー、話がある。」
ゴリアテは神妙そうな雰囲気でマリーを連れ出した。
私は自分の部屋に戻り、装備を整えた。
途中、へリスが話に来た。
「マリーは魅了を受け付けなかった。どう思います?」
混乱は解けていない様子。
「マリーは自分の意志で魔王を好きになったんじゃない?だから魅了は最初から受けていないんじゃないかな?」
「しかし!会って早々惹かれるなど…。」
「恋心は誰にもわからないからね…。マリーが好きになった相手が魔王なのはどうかと思うけど。」
「私は、ここに来るまで努力を重ね、神に祈り、マリーの力になってきた。なのに…なのに…。」
ああ、へリス。ごめんね。マリーの好みはイケメンなんだ。
へリスは頑張っているし、魅力的なところもあると思うけど、几帳面で…その…。
いつかいい人が現れると思うから、マリーのことは諦めて、別の所に目を向けた方がいいと思うな。
私はそのアドバイスを告げることができず、沈黙することしかできなかった…。
次の日には物資が整い、兵士も補充され、テンの町の防衛強化が行われた。
士気を高めるため、ゴリアテが樽の上に乗り、演説していた。
「我々は!魔王城まで魔族を押し込めている!我々がここで踏ん張れば、他の地域の支えになる!」
私たちの中でも一番大きな声を出し、兵士に何を言えば士気が高まるか理解している。
それは元々、ゴリアテが兵士養成の教官だったからだろう。
へリスも神官として勤め、宗教を広めている。
演説もお手の物だろう。
マリーは勇者として発言力もある。
私は…。
そう考えていると、不意に肩を触れられた。
「大丈夫ですか?気分が優れないようですが。」
「アレクさん。大丈夫ですよ。」
「瘴気に当てられているかもしれませんね。良かったらこれを。」
首飾り。
赤く輝く宝石がはめられ、瘴気を跳ね除けてくれるというものだ。
「あ、ありがとう。でも、これは兵士にこそ必要なものだと…。」
「私たちは支給されるものがありますし、鎧にも埋め込まれているので。」
私は、アレクさんの広げた両腕の間で身を任せた。
アレクさんは首飾りの留め具を止め、髪を鎖の外に優しく払う。
自然な行動に甘えてしまったが、こんな扱いは初めてだった。
ちょっと浮かれた私に報告が入った。
魔族の女による単身の来訪だった。
「マリーとか言うやつを出しなさい!」
ひどく暴れた魔族は二本角を振りかざし、マリーの名を呼んでいる。
そこにマリーが登場し、魔族は一旦動きを収めた。
「あんたがマリーか!魔王様の妃になろうなどと宣う不届きものめ!」
「あなたは魔王の何?」
「私は魔王様の四獣星、フェニクスのファリア!貴様をここで亡き者にしてやる!」
袖の飾りを振り回し、指から炎の爪を生やした。
踏み込みからの初速は大砲の如く、初歩から最速を極めた。
それをマリーは剣で防ぐ。
弾かれたファリアは跳ね退き、間合いが生まれた。
「魔王様の妃に相応しいのは、私を置いて他にはいない!」
怒りに身を任せ、全身の羽を逆立ている。
「その気持ち、私には分かるわ。でも、私も負けるわけにはいかない!」
今度はマリーが踏み込む。
魔王と戦えるだけあって、こちらも速さでは負けてはいない。
剣を左から右へと振るい、フィリアの防御を剥がす。
すかさず放たれる突きはフィリアの胸元を捕らえた。
寸でのところでマリーの突きを躱すが、服が破れてしまう。
羽毛に覆われた胸があらわになるが、フィリアは構わず攻撃を繰り出した。
一進一退の攻防を見ると、フィリアが相当の実力者であることが分かる。
この魔族が無差別に攻めてきていたら、並の兵士では歯が立たないだろう。
私も…。
遅れて到着したへリスが宝石を投げた。
「補助を構築します!」
「いい!この人とは決着をつけなきゃいけないから!」
マリーはへリスの補助を断り、フィリアに向かって行った。
補助なしとはいえ、マリーと渡り合える魔族は排除するべきだと思う。
しかし、こう言いだしたマリーは止まらない。
へリスは拳を握り、見守ることしかできない。
「他の魔族が攻めてくるかもしれん!守りを固めろ!」
ゴリアテの声が響く。
唖然と見ていた兵士たちが慌ただしく配置に着いた。
私は魔法で援護をしたいが、こうも動き回られると難しい。
また、自分の無力を知った。
マリーの攻撃は着々とフィリアの体力を削っている。
フィリアが着地するときに足をずらし、攻撃を受けた個所を抑えていた。
マリーの剣によって魔法は剥がされる。
魔法で防御する類の魔族にとっては戦いづらい相手なのだろう。
「そこ!」
マリーの渾身の蹴りが側頭部を捕らえ、フィリアは真横に飛ばされた。
大木に衝突したフィリアから炎が噴き出す。
たちまち大木が炎を上げ、崩れ去る。
炎は周辺を焼き始めた。
兵士の魔法部隊が駆けつけ、水を放出する。
私も駆けつけ消火に当たった。
足を引きずりながらフィリアがマリーの前に立つ。
「人間の癖に…!人間の癖に…!」
悔しそうだ。
「魔王様は強き者を好む…。私では不足か!」
フィリアが力むと炎が吹き荒れた。
近くにあった建物を巻き込み、周辺に着火する。
魔族にもまだこんな奴がいたんだ。
こんなんじゃ、命が幾つあっても足りないよ。
両手を上げたフィリアの上に大きな火の玉が発生し、どんどん大きくなっていく。
「あれはまずい!魔法部隊!対応を!」
へリスが力いっぱい叫んだ。
魔法部隊は周辺の消火で忙しい。
私は杖を地面に突き立て、呪文を唱える。
「悲しみは涙に、涙は川に。憂いを持ちて炎を流せ!」
杖を火球に向け、魔法を放つ。
空気中の元素をまとめ合成、大きな反動と反し、作成した大量の水が火球に向かって行った。
大量の水にさらされた火球は爆発を起こしながら小さくなり、やがて消失した。
助かった。
「おのれ!私たちの戦いに邪魔立てするか!」
フィリアが私に向かって炎の矢を放つ!
大魔法を放った隙が出来ている私は動けない!
そこに割って入ったのはマリーだった。
「大丈夫?」
炎の矢はマリーによって弾かれ、消失していた。
「引きなさい!あなたはここまで力を使っても私には勝てなかった!ここにいる者を全員相手にして生きて帰れないことは明白でしょう!」
マリーの掛けた声に反論が出る。
「いや、ここで討伐するべきだ!こいつの強さは脅威になる!」
正論の主はゴリアテだ。
すかさずゴリアテが斧を振り上げ、フィリアに襲い掛かる。
へリスはゴリアテに補助を与えた。
そのおかげで、重い鎧を装備しているとは思えない速度が出る。
しかし、フィリアはそれを簡単に回避し、空へと移動した。
「いいだろう!邪魔も多いからな!この決着は次にしてやる!」
そう言い残し、フィリアは去っていった。
私の前にいたマリーが剣を収め、振り返る。
「さすがミリアね。あの火球はどうしようもなかったわ。」
その言葉を受け入れる器が私にはないのか、炎の矢を回避できていればと思ってしまう。
「ありがとう。マリーが防御してなかったら…。」
「お互い様でしょ?私からも、ありがとう。」
出来た人間だ。これも勇者たる所以だろう。
「でも、魔王との結婚は茨の道になりそう…。」
これがなければなー。
お読みいただきありが等ございます。
続きはそのうち上げますー。