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#91:祐樹の過去(6)圭吾の初デート【指輪の過去編・祐樹視点】

お待たせしました。

今回も指輪の見せる過去の祐樹視点です。

祐樹の過去もどんどん長くなっていて申し訳ないですが、

もうしばらくお付き合いください。

「#23:仮初の恋人」の圭吾と舞子の初デートの部分の祐樹視点です。


 俺は圭吾のお見合いの翌日、社員食堂で圭吾と一緒になり、「昨日はどうだった?」と訊いた。もちろん、覗きに行った事は言うつもりもない。俺はこの時、圭吾が嬉しそうに報告してくれる事を想像していた。しかし、圭吾は薄っすらと微笑んで「祐樹にいろいろアドバイスしてもらったお陰で、上手く言ったよ。でも……」と言って、溜息を一つ吐いた。

 何だよ、その溜息は……。今幸せの絶頂にいるはずの圭吾が、どうしてため息なんかついているんだよ?


「でも……って何だよ?」

 圭吾の様子を見てイライラしてきた俺は、つい怒ったように訊き返した。


「ああ、これからどうしたらいいのかと思ってさ……」


「これからって、結婚を前提にお付き合いするんだろ?」

 何、当たり前の事聞いているんだよ?!


「お付き合いって……、何をすればいいのかな?」

 俺は眩暈(めまい)がしそうだった。いまどきの中学生でも、そんな事悩まないぞ。

 心の中で激しく突っ込みながら、圭吾だしなと納得している自分もいた。


「とにかく二人でいる時間を作って、お互いの事やこれからの事を話したり……。とにかく、まず、デートをするんだよ」


「で、デートって……、祐樹がよく女性としている様な事か?」

 え? 俺がしている様な? 何想像しているか知らないけど……。俺、最近、デートらしいデートってした事あったかな? そう言えば以前に圭吾に訊かれた事があったっけ。


『祐樹は、この前一緒にいた女性と付き合っているの?』

『いや、付き合ってはいない』

『じゃあ、付き合ってもいない女性と何をしているって言うんだよ』

『圭吾、俺達はもういい大人なんだから、それぐらい想像つくだろ?』

『祐樹は付き合ってもいない女性と、そんな事が出来るんだ?』

『別に付き合わなきゃできない訳でもないだろ? 相手も合意の上なんだから、非難されたくないね』

『祐樹はそれでいいのか? 一人の人と真面目に付き合おうとか思わないのか?』

『それこそ愚問だね。圭吾だって知っているだろ? 俺は祖父さんの決めた人と結婚する事になっている。だから、誰かと真面目に付き合って結婚を期待されたら困るじゃないか』

 その時圭吾は、それ以上もう何も言わなかった。


 あの時、俺が暗に言った女性としている事をデートだと思っているのか?

 どんだけ、恋愛に疎いんだよ! 

 圭吾の抱えているトラウマと、その後研究一筋で来た人生を考えると、小学生並みの恋愛知識は仕方が無いのかも知れない。しかし、それにしても……。


「バカ! デートと言ったら、映画を見に行くとか、食事に行くとか……。最近は水族館なんかが、人気のデートスポットらしいぞ。要は、彼女と二人で遊びに行く事だよ。そんなに悩む事無いだろ?」


「わ、わかったよ。どこへ行きたいか、舞子さんに相談してみるよ」


「そんな事、おまえが決めて連れて行けばいいだろ?」


「でも……舞子さんにも行きたい所があるかも知れないし……」

 俺は徐に溜息を吐いた。

 やれやれ、こいつは絶対、尻に敷かれるタイプだな。


「そうだな、舞子さんの方がしっかりしてそうだ」

 恥ずかしそうに笑う圭吾に、また心の中で溜息を吐く。

 まあ、これが圭吾だしな……。

 なんだか、舞子さんが気の毒に思えてきた。

 愛想だけは尽かされるなよ。


「祐樹は、お見合いした西蓮寺財閥のお嬢さんだっけ? 彼女と今、お付き合いしているの?」

 なんだ? いきなり……。


「結婚する事は決まっているのに、今更付き合うつもりは無い。祖父さんに言われて、たまに食事に行くぐらいだよ」

 圭吾の場合とは違うんだよ。


「そうか……、祐樹はそれで幸せになれるのかな?」

 

「別に結婚だけが幸せとは限らないだろ? 俺はこれでいいんだよ」

 圭吾は「そうか」と呟くと、淋しそうな顔で俯いて何か考えているようだった。

 しばらくして顔を上げると、「デートが決まったら、又いろいろアドバイスを頼むよ」と言い、お先にと席を立った。


 それから2日後、圭吾から電話があった。

「舞子さんが、テーマパークへ行きたいって言うんだ。ずっと憧れていたんだって……」

 初デートが決まったと報告してきた圭吾は、恥ずかしそうな嬉しそうな声で話した。

 それにしても、テーマパークって……、圭吾にはちょっとレベル高くないか? ジェットコースターとかあいつ大丈夫なのか? 

 俺は不安になったが、嬉しそうな圭吾に水は差したくなかった。


「へぇ、良かったな。クリスマスが近いから、いろいろイベントもしているだろうし、夜のパレードまでいれば、1日遊べるしな。ただし、人は多いと思うよ」


「人が多いのは良いんだ。でも……、祐樹に頼みたい事があるんだけど……」

 なんだ? また服のコーディネイトとか会話の話題とかの事か?


「何? 頼みたい事って……」


「それが……、一緒に行ってもらえないかな?」


「一緒に? おまえ、何考えているんだよ。小学生の遠足じゃないんだから……」


「わ、わかっているよ。でも、舞子さんと二人きりなんて、恥ずかしくて何話せばいいか分からないし……。もう、言っちゃったんだよ。二人だけだと恥ずかしいから祐樹も誘うって。舞子さんも友達の夏樹さんを誘いたいって言うから、丁度良かったんだよ」

 俺は溜息を吐いた。

 おいおい、ダブルデートかよ? と心の中で激しく突っ込みを入れる。でも、言いたい相手がウルウルお目々の子犬よろしく、電話の向こうで懇願の表情で受話器を握っている事が容易に想像できて、何も言えなかった。

 でも、彼女が来るのなら……、ダメだろ? 

 もう、個人的には会う事は無いと思っていた。今度会うとしたら、圭吾達の結婚式だろうと……。

 彼女のようなタイプの女性にはこれ以上近づけない、いや、近づいてはいけないと、頭の中で警報音が鳴る。女友達として付き合えるようなタイプでもないし、なにより彼女は圭吾の奥さんになる人の親友だから、今後のためにも余計にここで線を引いておきたい。


「悪い、その日は予定があるんだ。他の奴に頼んでくれよ」

 

「じゃあ、いつだったら都合つく? 祐樹の都合に合わせるよ」


「何言っているんだよ! おまえのデートだろ? 俺の都合に合わせてどうする?」


「でも……、祐樹以外にこんなこと頼める奴、いないし……」

 なんなんだよ。散々俺の人生に付き合わせてきた圭吾にそんな事言われたら、断れないじゃないか。


「わかったよ。都合つけるよ。今度の土曜日だな? 時間はまた連絡してくれ」

 もう俺はやけくそになってそう言うと、通話を切った。切れる前に圭吾のありがとうと言う言葉が聞こえた。

 はぁ、それにしても……、圭吾達の事にかかわると、もれなく夏樹さんが付いてくるようだ。なんだかな……。

 元はと言えば、俺がパーティで夏樹さんに話しかけたからだ。それは、圭吾の事を思って舞子さんの事を探るためだったし、この間のお見合い覗きだって、結局は圭吾の事を心配しての事じゃないか。なんだよ、俺が夏樹さんを巻き込んでいたのか。でも、今回は思ってもみなかった展開だ。


 とにかく俺は覚悟を決め、デートに付き合うのは今回限りだと圭吾に約束させ、当日を迎えた。夏樹さんは、俺たちが二人で会った事から来る気安さを、微塵も見せず、まるで初めて会ったかのように挨拶した。これなら、今日一日ぐらい誤魔化せるだろうと、俺も他人行儀な硬い雰囲気で挨拶を返した。

 しかし、危惧したとおり、圭吾は俺にばかり話しかけるし、舞子さんも夏樹さんにばかり話しかけている。

 おいおい、夏樹さん、俺達は付き添いなんだから、上手く二人が話すように仕向けないと……。

 この状態にイライラしている俺は、楽しそうに舞子さんと話しながら歩いている夏樹さんを見て、溜息を吐いた。

 これじゃあ、何のためのデートなんだか……。

 

 食事を終え、次はどこへと立ち止まって相談していた俺と圭吾の傍で、話していた彼女達が、ひときわ大きな声で笑いあった。


「なんだかとても楽しそうだね。祐樹や夏樹さんと一緒に来て良かったよ」

 圭吾のその言葉を聞いて、俺の堪忍袋の緒が切れた。それからの俺の行動は、今考えても、どうしてそうしたのか分からない。お見合いの日の恋人同士のフリの延長だったのかもしれない。

 俺は、楽しそうにお喋りをしている彼女たちの傍まで行くと、「夏樹」と呼んだ。驚いて俺の方を唖然とした顔で見る二人。圭吾も何事かとこちらの方を見つめている。俺は、夏樹さんの手首を掴み引き寄せると「俺たち、他に行くところがあるから……」とポカーンとしたまま絶句している圭吾達に告げ、出口に向かった。


「祐樹、どういう事だよ?」

 我に返った圭吾が怒ったように問いかける。どう言う事も、こう言う事も無いよ。圭吾が舞子さんと話をしないから、こんな強硬手段に出たんじゃないか。ダブルデートしに来たんじゃないんだ。圭吾達のデートだろ?


「そう言う事だから」

 俺はわざと、はぐらかした様な言葉しか言わなかった。本当は自分自身のしでかしてしまった事に、戸惑ってしまい、上手い言い訳が思いつかなかったのだ。

 夏樹さんの肩を抱いて、速足で出口に向かう。その間、頭の中で必死に言い訳を考えていた。圭吾や舞子さんが呼んでいた声も、隣にいる夏樹さんが呼びかけている声も聞こえてはいたが、無視をした。


 どうするんだよ? どうするつもりなんだよ?

 もっと他に方法があったんじゃないのか?

 また、夏樹さんを巻き込んでしまったじゃないか。

 俺の頭の中で攻め立てる言葉が響く……。


 仕方ないじゃないか。 圭吾がいい年をして、恥ずかしいから付き添い付きでデートするって言うし、その挙句、二人は何も会話を交わしていない。こんなデートなら、しない方がましだろ?

 俺の頭の中では、攻め立てに対する言い訳が続く。


 絶対に誤解したぞ。夏樹さんを呼び捨てにして、強引に連れ去った言い訳はどうするつもりなんだよ?

 夏樹さんには近づいちゃいけないって思っていたくせに、引き寄せるような事をして……。

 俺を責めるな!! 圭吾の為なんだから……。

 そう、圭吾が舞子さんと上手く行くように。圭吾と舞子さんが両想いになって、幸せな結婚が出来るように……。そのためなのだから……。


 じゃあ、この後、この事態をどう収拾するつもりなんだ?

 夏樹さんを巻き込んだままでいいのか?

 でも! 彼女だって、親友の舞子さんの幸せを願っているハズ。俺達の願いは同じなんだ。それならいっそ……。


 俺達はテーマパークから一番近い駅の前まで来ていた。そこでようやく俺は口を開いた。


「あのまま二人が会話しないのだったら、デートの意味ないだろ?」


「だからって、いきなりあれじゃあ誤解されるじゃないですか?」


「誤解させるために、ああ言ったんだ」


「え?」


「圭吾たちも、俺達が付き合っていたら付き合いやすいと思うし、相談もしやすいだろ?だから、あいつらの前だけ、付き合っているフリしてくれないか?」


 俺は毎回一方的に夏樹さんを巻き込むのじゃ無く、彼女の了解のもとで協力し合おうと提案した。その方法はいささか安易すぎるかもしれないが……。 


「で、でも……、そんな演技できません。舞子は結構鋭いから、気付かれてしまうと思うし……」


「君だって、舞子さんに幸せになって欲しいだろ?」

 俺の弱点が圭吾である様に、彼女の弱点は舞子さんだ。友達思いだから、今回の提案は受け入れざるを得ないだろうと思ったが、もう一歩、圭吾への同情票も集めておく事にした。

 

「それに、あいつは本当に女性に弱いんだ。高校生の頃、海外に留学していて向こうの女子学生にかなり積極的にせまられたらしいんだ。それ以来、女性に近づく事も話す事もしなかった」

 圭吾には悪いと思ったが、あえて圭吾のトラウマの話をした。それは、今後女性慣れしていない圭吾の行動を見て、舞子さんが誤解した時、夏樹さんに上手くフォローをして欲しかったからだ。圭吾は舞子さんにトラウマの話なんかできないだろうから……。


「だったら、どうしてお見合いをする気になったの?」


「父親の命令で仕方なく。でも、舞子さんを見たら、一目ぼれしやがって…。あいつの初恋なんだ。応援してやりたくなるだろ?」


「それを言うなら、舞子だって初恋だわ。どのくらい好きなのかは分からないけど……」


「そんなウブな二人のために、友達思いの夏樹なら一肌脱ごうって思うだろ?」

 俺は彼女の弱点を思いっきり突いて行った。しばらく俯いて逡巡していた彼女が急に笑い出して、観念したように「負けました。杉本さんに協力します」と言った。

その後、俺達は簡単な自己紹介をして、圭吾と舞子さんが無事に結婚できるまで協力して行こうと協定を結んだのだった。



2018.2.7推敲、改稿済み。

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