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#68:上条舞子、安堵する。【現在編・舞子視点】

お待たせしました。

やはり、週一更新で申し訳ない……


今回は夏樹のお友達の上条舞子視点です。

友達思いの舞子さんは、義父の高藤慎吾さんに追い込まれていますが、

やはり、一番に考えるのは親友夏樹の幸せ。

さて、今回もお楽しみください。

「ああ、もう!」

 私は静まり返ったリビングでひとり呟いた。

 夫である圭吾さんは、久々のゴルフのため朝が早かったせいもあって、まだ夜の九時過ぎだと言うのに眠ってしまった。子供達も同様で、祖父母と過ごすとテンションが上がって疲れるのか、夜八時頃にはベッドで静かになった。

 そして、私は一人、リビングのソファーで今日の事を考えていた。


 私はお義父様を甘く見ていたのかもしれない。じわじわと追い詰められている様な気がするのは、私の想い過ごし?

 お義父様が、今回の事で詮索しないでと頼んでいたのにもかかわらず、こんなにも突っ込んでくるのは、お義父様にとっても、身近で気になることだからなのだろうか?

 お父様の言っている【まさき】さんは、きっと夏樹の父親に違いない。夏樹の母親が勤めていた頃に付き合っていた人が【まさき】と言う名の人なら、きっとそうだろう。

 お義父様にとって、その【まさき】さんは身近な人? 親しい人? 友人とか?

 お義父様にとって、夏樹の母親はただの同じ会社の同期と言うだけ? それとも、友人の彼女だったとか? 

 お義父様は二人の過去を知っているって事? 

 それでも、二人の間に子供が生まれていたなんて、思いもしないだろう。

 お義父様は、夏樹の父親と今でも付き合いがあるのだろうか?

 お義父様の親しくしている人って、祐樹さんのお父様ぐらいしか思いつかないけど……。

 そう言えば……、祐樹さんのお父様も「まさき」って言ったよね。

 まさか……。無い無い無い!

 そうだ、夏樹と祐樹さんは同じ誕生日だから、父親のはず無いじゃない!

 はぁー、怖い想像してしまった。ごめん夏樹。


 私は一人ぐるぐると思い巡らしながら、「やっぱり、夏樹に言わないとだめよね」と呟くと共に溜息も吐き出した。


「もしもし、夏樹?」

 時間は夜の十時前だから大丈夫だよねと思いながら、私は携帯電話から夏樹に連絡をする。


「あ、舞子。どうしたの?」

 なんだか満たされた様な穏やかな声に聞こえるのは、私の勝手な想像かしら? と舞子は考えて、義父の言葉を思い出した。

 

『奥さんになる予定の人だと紹介されたんだ』


「夏樹、祐樹さんとの結婚、決まったの?」


「えっ? あ……まあ……」

 うろたえた様な夏樹の声に、なぜ私が知っているのかって驚いたでしょうと、心の中でニヤリと笑った。お義父様の事は、もう少し後で話すとして……。結婚話はどこまで進んでいるんだろう?


「もぉ、夏樹ったら、はっきり報告してよね。再会した途端に、もう結婚の話まで行ったんだ。もうのんびりできない年だものね。よかったね」


「舞子ったら……、確かにのんびりできないけど……」


「けど……、何?」


「お祖父様が、やっぱり反対していると言うか……。祐樹さんを何処かのお嬢様と結婚させようと目論んでいるみたいなの」


「もう~、あのジジイ! しつこいっての!」


「舞子! 上条電機の奥様が、そんな言葉使っちゃだめよ」


「いいの、いいの! それより、あなた達はもういい年なんだから、さっさと婚姻届を出して、結婚してしまいなさい。実際に結婚してしまえば、あのジジイだって手を出せないって!」


「祐樹さんの会社の事が絡むから、そんなに簡単にいかないのよ」


「そんなこと言っていたら、いつまでも結婚できないじゃないの!」


「そうなんだけど……」

 もうこの話はいつまでたっても堂々巡りだから、ここらで本題に入ろうと舞子は話を変えた。


「ねぇ、夏樹。私今日ね、圭吾さんの実家に子供達を預けていたから、迎えに行ったんだけど、圭吾さんのお義父様に会ったんだって?」


「そうなの。昨夜、祐樹さんと一緒にいる時にお会いして、とても驚いていらっしゃったわ」


「それはそうでしょうね。帰って来たばかりの祐樹さんが、いきなり婚約者を紹介したんだもの……」


「やっぱり圭吾さんのお父様から聞いたのね? でも、それだけじゃ無かったの……」


「夏樹を見て驚いたんでしょう? 先週、私が御堂夏子さんの事を訊いたばかりなのに、祐樹さんと一緒にいる女性が、その御堂さんとそっくりなんだもの。……ああ、あのね、私夏樹の母親の御堂夏子さんの昔の写真を義父に見せて貰ったの。本当に夏樹は母親にそっくりだね。お義父様は相当驚いたと思うわ」


「ええっ? お母さんの写真? そんなのが残っていたの? 圭吾さんのお父様って、母と同じ会社の同期だって言っていたから、親しかったのかな? やっぱり、母に似ているから驚いたんだよね。もう三十年以上経っているのに。それで、私を娘かと疑って母の名前を訊いてきたんだわ」


「え? お母さんの名前を? それで、なんて答えたの?」


「うん……祐樹さんもいたし、……トリップの時の記憶もあったから、つい、玲子おばさんの名前を言ったの」


「やっぱり……お義父様、何も言って無かったから……って、祐樹さんには夏樹の本当のお母さんの事、話してないの?」


「そうなの。何となく言いそびれてしまって……。五年前も、そんな話をする前に別れてしまったから……。やっぱり、話さなくちゃだめだよね……」


「結婚するなら、隠し事は無い方がいいに決まっているよ。祐樹さんにはもう話しているものだと思っていた。でもお父さんの事、どんな風に言うつもりなの?」


「ん……どんなふうに言えばいいんだろう? やっぱり、父親が誰かわからないって言うのは、反対理由になるよね? だから、なんだか怖くて、言えなかったの」

 なんだか消え入りそうな夏樹の声に、私はそんな事無いと言おうと思った。けれど、ただでさえ身分違いの恋だと不安になっている夏樹の事だ。それに、あの祖父さんは余計に反対する事は目に見えている。今そんな事言っても慰めにしかならない。

 だからと言って、黙ったままと言うのは難しいだろう。祐樹さんだけにはせめて実の母親の話はしておかないと……。


「夏樹、……実の母親の事はきちんと話した方がいいと思う。でも、父親の事は夏樹自身も知らないのだから、たとえばね、父親は小さい頃に亡くなって記憶がない事にしてはどう?」


「そうね、それは良い考えかもしれない」


「でも、それだと、夏樹の本当の父親については、もう調べない方がいいのかもしれないね」

 私は夏樹と話しながら、夏樹の実の父親探しは多分に危険をはらんでいる事に気付いた。


「え? どうして?」


「だから、夏樹の父親が誰か分かって、その人に奥様や子供がいたら、相続問題とかのお家騒動になるでしょう? 今そんな事に巻き込まれたら、亡くなった事になっている父親が生きているとバレてしまうし、結婚話さえおかしくなりかねないでしょう?」


「でも、父親がわかっても、娘だと名乗り出なければ良いのじゃないかな? それともやっぱり、このまま父親の事は分からない方が幸せなのかな?」

 私は、父親捜しを言いだした事を後悔した。やはり、どこかに好奇心もあったのかもしれない。夏樹の今の動揺を見ていると、知らない方が幸せだろうと思う。やはり、義父の申し出は断った方がいいだろう。


「夏樹、ごめんね。私が夏樹の本当のお父様を探そうなんて言い出したから……。かえって夏樹を混乱させただけだね」

 夏樹はそんな事無いと言ったけれど、声のトーンに疲れを感じた。


「あのね、夏樹。圭吾さんのお義父様がね、御堂夏子さんが勤めていた頃に付き合っていた【まさき】と言う名の人を知っているんだって。それでね、どうして【まさき】と言う名の人を捜しているか教えてくれたら、その人が誰か教えてくれるって言うんだけど……」


「え? お母さんが付き合っていた【まさき】さん? それって……」


「そう、夏樹のお父様だと思う。どうする? 義父の話しぶりでは、なんだかその人と親しそうな感じなのよ。だから、父親捜しなんて言ったら、すぐに相手にばれてしまうと思うの……」


「うん。分かっている。聞かない方がいいって事でしょう? 私もそう思う。もう、やはり今更だものね。圭吾さんのお父様にはお断りしておいてくれる?」


「本当にごめんね。よく考えずに夏樹を(あお)ったりして……。お義父様には、もうこの件は忘れて欲しいって言っておくね」


「うん。こちらこそ、ごめんね、舞子。舞子は私のためにいろいろ考えてくれたんだから、謝る事無いのよ。もう、私は実の父親の事は忘れるね。指輪はきっと、もう一度祐樹さんとやり直させてくれるために戻ってきたんだと思う。だから、もう五年前と同じ事は繰り返さない。今度こそ祐樹さんと幸せになるから、舞子も応援してね」

 夏樹の声は涙声になっていた。

 今度こそ本当に大丈夫だよね、夏樹。これからはずっとあなたの幸せな笑顔を見続けたいから、二人を応援し続けるよ。

 私は心の中で誓いを立てた。


「もちろん! 夏樹と祐樹さんの二人の幸せのためのサポーターを、一生続けるからね。覚悟してよ!」

 私は、ぐっとこみあげてくる熱いものを堪えながら、明るい声で言い返した。


「ありがとう、舞子」


 これでいいのよね? 夏樹のためには本当のお父さんを調べてあげたい気もするけれど、相手は三十五年間、自分の子供が知らない所で育っているなんて思ってもいないのだ。いきなり、あなたの子供ですって言ったって、信じない人がほとんどだろう。

 やはり、夏樹の母親が望んだとおり、実の父親には知られない方がいいのだ。もう、こんなに離れて暮らしてきてしまったのだから。

 夏樹のために何もしてやれない自分を不甲斐無いと思いながらも、夏樹と祐樹さんが上手く再会できた事を思い、私は心から安堵したのだった。




2018.1.31推敲、改稿済み。

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